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ルイジ・コッツィ監督の映画「エイリアンドローム」ブルーレイレビュー「「エイリアンドローム」が好き過ぎて1万5千回観た男・クリス・アレクサンダーの驚異の音声解説に震えるがいいわ!」

漂流する貨物船がNY湾内に流れ着き,無線連絡にも応答が無い。
警部補1名(マリノ・マッセ)と市の検疫官4名が貨物船に乗り込むと,
北斗神拳の如く人体が内部から破壊された遺体が次々と発見される。
船内で何が起こったのか?
「答え」は船底にあった。
船底に積まれた
南米コロンビア産のコーヒーのダンボール箱の中にコーヒー豆は無く,
代わりに奇怪な緑色の卵状の物体が沢山詰まっており
「卵」のひとつが蒸気ダクトで熱せられ,突然爆発し
「卵」の飛沫を浴びた3名の検疫官の肉体が内部から爆ぜたのだ。

報告を受けた軍人で科学者のステラ・ホームズ大佐(ルイーズ・マーロー)は,
「卵」から地球上には存在し得ないバクテリアを検出し,
同時に2年前探査用ロケットで火星を探査した,
2人の宇宙飛行士のひとりハバード中佐(イアン・マッカロック)が,
「火星の洞窟で卵を発見した」
と報告したものの火星に同行した,
もうひとりの宇宙飛行士ハミルトン(ジークフリート・ラウヒ)は,
「そうした事実は無かった」
と証言し,ハバードは狂人扱いされた挙句追放された事を思い出す。

彼女は当時彼を査問した委員のひとりで,
彼が残した卵のスケッチがNYで発見された「卵」に酷似していたのだ。
彼女は今では無職で酒浸りの日々を送る彼を説得し,
事件の真相究明の為に
共に貨物船の出発元である南米コロンビアへと飛ぶのであった…。

プロデューサーのクラウディオ・マンシーニは
リドリー・スコットの「エイリアン」の大ヒットに便乗し,
本作の製作に当たって「卵」の造形・美術,
チェストバスターによる人体破壊を大いに参考にした。
同時に大の007映画ファンでもあった彼は,
英国出身の俳優で,ロジャー・ムーアに似ていて,
「サンゲリア」「人間解剖島ドクター・ブッチャー」に主演し,
立て続けにヒットを飛ばしたイアン・マッカロックに白羽の矢を立てた。
南米コロンビアで待ち受ける
黒幕と腹心の女幹部を007の悪役を踏襲して描き,
ジェームズ・ボンド役にマッカロックを,
ボンドガールにルイーズ・マーローを据え,
「(真の黒幕=)エイリアンと戦う007」を描こうとしたと言う。

更に監督のルイジ・コッツィは盟友であり師匠でもある,
ダリオ・アルジェント直伝のジャーロの要素を加え
(コロンビアのホテルでステラの部屋に
「卵」を仕掛ける「白手袋の人物」の視線,所作に注目!),
斯くして唯一無二の映画が誕生したのである。

画質は非常に高く,血肉の赤,森の緑の発色は良く,
エイリアンのヌメヌメ感をハッキリ視認出来る。

音声解説はファンゴリア誌元編集長のクリス・アレクサンダーによるもので,
冒頭から,
「これから僕は本作の1ファンとして「好きの気持ち」を喋り続けるから!」
と宣言するや一瞬たりとも聞き逃せない蘊蓄が機関銃の様に炸裂し,
到底1度聴いた位では全てを理解するのは困難だ。
だが彼が素晴らしいのは,
「待って!これから素晴らしい人体爆破場面と
ゴブリンの最高のサウンドが流れるから僕は黙る!」
と言い,見所が来ると,どれだけ話が弾んでいようと「黙れる」所なのだ。
そして見所が終わると,
「僕は,この映画を1万5千回観た…」
「それでも血と肉が飛び散る,この場面は素晴らしい…!」
と語る,どんだけ, この映画の事が好きなんだと
唸らざるを得ない素晴らしい音声解説なのである。
因みに「1万5千回」は
適当にデカい数字を持って来たのでもハッタリでもない。
本作品(1980年公開)を1日1回観たとして,
2021年の時点で生涯視聴回数は,
365回/年×41年=14,965回となる。
算出根拠に基づいた「1万5千回」なのだ。

また,およそホラー映画を観ていてオタクちゃんが思い付く事は全て言及し,
気の置けない友人と映画を観ている気持ちにさせるから大したものである。

特典映像に付いても軽く触れたい。
1.ルイジ・コッツィ(監督)&イアン・マッカロック(主演)への
質疑応答(41分05秒)
2014年11月15日に英国アベルトワール・ホラー映画祭で行われた
両名への質疑応答である。
マッカロックの話は以前に聞いたものが多いが,
誰でも,ある程度加齢すると
「同じ話」が繰り返されるのは世の東西を問わない。
2.サイクロプスの音(11分30秒)
本作の音楽を担当したゴブリンのマウリツィオ・グアリーニの証言である。
3.エイリアンドローム誕生秘話(22分55秒)
本作のメイキング映像を若きコッツィ監督が熱く解説する,
撮影当時のお宝映像満載の意味でも,
監督の流れる様な語りが堪能出来る意味でも,
本特典の白眉と断言する。
4.ルイジ・コッツィvsルイス・コーツ(42分52秒)
ルイス・コーツとはルイジ・コッツィの変名で,
米国向けに映画を輸出する場合,
イタリア名だと敬遠される恐れがあり
米国人監督を名乗る方便が必要になると言う。
本コンテンツは監督の生い立ちからフィルモグラフィを
監督自身が語る自叙伝である。
5.イタリア模倣映画・全解剖(17分25秒)
1本のヒット映画が生まれると米国が1本の模倣映画を作る間に,
イタリアでは10本の模倣映画が作られると言う。
「ジョーズ」「スターウォーズ」「エイリアン」「マッドマックス2」…
イタリア模倣映画の系譜の中で
監督の「スタークラッシュ」と本作が語られて行く。
6.劇場予告編(3分13秒)
字幕付きの予告編である。

本商品には英語(デフォルト)とイタリア語(吹替)の
2つの音声が収録されている。

本商品は本編の画質も特典も音声解説も非常に出来が良い。
特に音声解説の蘊蓄量は凄まじく,
本レビューを執筆する際,大いに参考になった。
自信を持って5つ星評価する次第である。

蛇足となるが映画「ラストコンサート」の
悲劇のヒロイン(パメラ・ヴィロレージ)も,
映画「スタークラッシュ」の主人公(キャロライン・マンロー)も,
本作のヒロイン(ルイーズ・マーロー)も,
全て役名が「ステラ(ラテン語で「星」の意)」なのは,
3本の映画を製作した
コッツィ監督の何らかの思い入れがあると僕は睨んでいるのである。

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