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中村敦夫&ジュディ・オング主演の時代劇「おしどり右京捕物車」(1974年)レビュー「もしも…『はな(ジュディ・オング)の心象風景』が描かれていたなら…右京(中村敦夫)は…何度も何度も…地獄の業火で焼かれていた筈なんだっ…」

女を人質に立て籠もる男。この男,名を四郎吉といい,
悪名高い万蔵一家の四男坊なのだ。

対して陣頭指揮を取る,北町奉行所与力の秋山佐之助(前田吟)は
万蔵が現れるまで人質救出に踏み込むのを待つ策を採った。
秋山の魂胆は明白で,この機を逃さず万蔵一家を一網打尽にする心算なのだ。

しかし秋山の同僚であり凶状持ちから「北町の虎」と恐れられる
北町奉行所与力の神谷右京(中村敦夫)は秋山の策を無視し
単身人質救出に踏み込み無事人質を救出し四郎吉を引っ捕らえた。

右京の策は四郎吉に,ありとあらゆる責苦を与え,
万蔵の居所を吐かせることにある。
しかし四郎吉は最期まで口を割らずに絶命する。

右京の所業を知った万蔵は激昂し
右京に然るべき報いを与えるために策略を練る。

仕事仕事で気が休まる暇もない右京だが,久しぶりに組屋敷に帰り,
妻である「はな」(ジュディ・オング)から懐妊の知らせを聞くと
流石の「堅物の虎」も表情がホンの少しだけ緩む。
束の間の充実のひととき。

だがしかし万蔵はお宮参りにきていた女から赤子を奪い,右京を誘い出し,
トラバサミの罠で彼の足を止め動けぬ彼に丸太の束を落とし
彼の下半身を機能不全に追い遣った。

そんな彼に北町奉行所はたった1両の「餞別(せんべつ)」を寄越し,
組屋敷から出て行く様通達した。

更に追い打ちをかける様に万蔵の嫌がらせが執拗に続き,
右京と「はな」は江戸を追われる仕儀となった。
その上,都落ちの旅路の途中,「はな」はお腹の子を流してしまう。

何もかも失い古寺をに身を寄せたふたりに
観念(下條アトム)と名乗る坊主が持ち前の手先の器用さを生かして
右京を載せて「はな」が押す「手押し車」を作ってくれた。

右京は古寺で機能不全を起こしていない上半身を鍛え,
鞭(むち)の鍛錬に励み万蔵一家への意趣返しを目論むのだった…。

「アイアンサイド」と「子連れ狼」と「必殺シリーズ」を
足して三で割ったかの如き…
ウルトラ異色ハンディキャップ時代劇の決定版(74年)。

僕にとっての「右京」とは…
水谷豊ではなく…
中村敦夫なんだっ!

基本的な物語展開は北町奉行所の持て余す事件を右京が
自称「下請け与力」として解決し,かつての同僚秋山から
微々たる額の報酬を貰うという構成だ。

右京は男性としての機能も失っている為,
「はな」が身を持て余す描写は,人生の節目節目で思い出したい名場面だ。

そもそも中村敦夫とジュディ・オングを夫婦役に選んだ
本作品のスタッフの慧眼も素晴らしいが
最終話までグイグイ引き込まれてしまう演出と脚本の力も強い。

力が強いといえば「はな」が手押し車で運ぶのは
大五郎のような幼児ではなく成人男性なのだ…。
この当時の中村敦夫と同年齢の成人男性の平均体重は70㎏。
ジュディ・オングに…
70㎏の漬物石の乗っかった乳母車を押させ…
オマケに殺陣を展開しろという無理ゲー…

まあ…考えてもみて欲しい…。

組織の歯車として生きるコトしか知らぬ
仕事人間の夫が下半身不随になって
介護が必要となり,1日中,家にいて…
稼ぎもねえ癖に飯だけは人一倍食い…
亭主関白ぶりは健常者の頃そのままに…
まるで妻が自分の部下であるかのように
アレコレ偉そうに命令して来るという…
妻にとっては堪らない状況を…。

夫は妻を一切労(いた)わらねえのに…
妻には…そんな夫を慕えと言うのか…。
驚異の不等価交換…悪夢の浪花節っ…。

妻である「はな」にとって…
ある意味夫の右京以上の
「地獄」がいま…顕現したのだ…。

右京ったら…口を開けば…
「はなっ(手押し車を)早く押せっ」
「早くしろッ」
としか言わねえの…。
もう…右京をブッ殺していいよ…はな…。

ホントにね…なんで「はな」は右京のコトを刺し殺さねえのかと…
ずっとずっとずっと…右京に対するヘイトが溜まる構成…。

最終話で右京は秋山と決裂し,秋山に鞭を向ける。
その右京の右腕を「はな」は思わず刺してしまう。

「はな」の初めての反抗。
やった!
ついに…「はな」が…右京を刺したっ!

僕は…コレが見たくて…最終話まで付き合ったんだっ!

右京と「はな」は江戸を追われる。
また無収入の日々が続くのだ。
だが「はな」は嬉しそうだ。

右京「嬉しそうだな,はな」
はな「そうやって右腕が使えないアナタは…」
「もうワタシの言いなりですもの…」
右京「しかし腕の負傷は直ぐ治る」
「また鞭が使える様になる」
はな「だったら今度は腕を切断します」
右京「それでもオレにはまだ目がある」
はな「目を潰します」
「耳を削ぎます」
「舌も抜きます」
「単なるアナタの『足』でしかなかったワタシが…」
「アナタの全身になる日まで…」

この凄まじい会話を交わす…
最終話のタイトルは「愛」なのである…。

未来永劫テメエの言いなりになって…
黙って…テメエの介護をするとでも思ってんのか…。

最終話でついに…
「はな」が右京の生殺与奪権を主張し…
不等価交換が…等価交換になったっ…。

ジュディ・オングは断じて「魅せられて」(79年)だけの人ではないのだ。

ホントにね…この期に及んで…
右京は何故「はな」が「嬉しそう」なのかが
分かってない救い難い鈍感さに震えるのだ…。

「はな」は…
「もう…テメエの好き勝手にはさせねえっ!」
って…初めて意思表示したから「嬉しい」んだっ!

僕は大学に入る為の受験勉強をしてた頃,深夜放送で本作と出会った。

身障者やその介護をする人を見て見ぬ振りをしてるのか
全然再放送されんと思ってたがDVD-BOXが出たり
BS12で再放送されたりと少しづつ状況は変わっている様だ。

パラリンピックが開催されバリアフリーの概念が発達しつつある
今こそ認知されるべき作品だと僕は感じる。

障害者や介護する人間を「透明人間」扱いするな…
「見て見ぬ振り」するなっ!

夫の体が機能不全を起こし
夫を支える妻の姿は「おしどり夫婦=仲睦まじい夫婦」などという
字面だけでは到底片づけられない重要な問題提起をしている。

ホントにね…もしも「はな(ジュディ・オング)の心象風景」を描いてたら…
右京(中村敦夫)は何度も何度も何度も…
地獄の業火で焼かれている筈なんだ…。

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