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デヴィッド・クローネンバーグ監督の映画「ザ・ブルード 怒りのメタファー」レビュー「夫の『憎悪』と『拒絶』が…妻を異形の化物として描き…その異形の化物が異形の化物を次々と産む…サイテーサイアクの酷い酷い酷い絵面を産んだのだ…」

精神科医の特殊な治療を受けた妻が
性交渉に因らない臍の無い醜悪な子供(ブルード)をひとりで産み,
その子達に,かつて自分を虐待した母,見て見ぬ振りをした父,
夫と親しい女教師を次々と殺させる。
あくまでも夫を純真無垢な天使として描き…
妻を醜悪なバケモノを量産する憎悪の化身として描く。

離婚訴訟中のクローネンバーグ監督が
映画「クレイマー、クレイマー」の原作を読み激昂,
「こんなの嘘っぱちだ!」
「現実はもっと厳しい」
「一寸待ってくれ俺が本当の夫婦を描いてやる」
と山岡士郎ばりに啖呵を切って製作したのが本作。

「『ザ・ブルード 怒りのメタファー』はッ!
僕にとっての『クレイマー,クレイマー』だッ!」
と後年監督は著作の中で明かしている。

訴訟相手の妻が「とある宗教」にハマり…
娘マーガレットを入信させようと躍起になり…
親権の奪い合いとなり…
結果クローネンバーグは親権を奪われ娘を奪われた。

本作に於いて妻ノーラは「サイコ・プラズミック療法」なる
怪しげな精神治療術にハマり…
ノーラは夫に娘キャンディとの定期的な面会を義務付け
純真無垢な夫フランクは鬱屈を深めて行く。

「自分」を純真無垢と描き…
娘を決して手放さない悪意に満ち満ちた妻の描写を観るにつけ
監督が家庭環境も映画撮影スタッフにも恵まれ
ハッピーな状態で制作された
クローネンバーグ版「幻魔大戦」こと「スキャナーズ」と
凄惨な環境で制作された本作とを比較すると
どうしても本作の肩を持ちたくなる僕である。

「スキャナーズ」をDISるつもりは毛頭ないが…
クローネンバーグの映画の癖に「セックス」の「セ」の字もなく…
キム・オブリスト(ジェニファー・オニール)はあくまでも超能力者の
「同志」であって同志が力を合わせて悪い超能力者の
兄レボック(マイケル・アイアンサイド)とサイキックバトルを
繰り広げる展開はジュニア向けのジュブナイルSFであって
「こちとらとっくに『夢見る年頃』を過ぎてるんでェェェ」
と文句のひとつも言いたくなる
「さわやか万太郎」もビックリの爽やかぶりなのだ。
やっぱりDISってますね!

やっぱりねえ!

クローネンバーグ監督に必要なのは
「満足」とか「円満」とかじゃなくてェェェ
「不満」とか「鬱屈」とか「憎悪」なんですよ!

閑話休題

僕はね。

この映画観てるとズラウスキー監督の
映画「ポゼッション」を想起するんだよね。

仏教に傾倒して男とチベットやインドに旅に出た
妻マウゴジャータとの破局を
マウゴジャータが彼の映画「悪魔」で演じた発狂演技を
イザベル・アジャーニに再現させ妻を描写し,
アジャーニ(=マウゴジャータ)の不倫相手を…
彼にはどうしようもない怪物=曼荼羅に代表される仏教の精神世界=
得体のしれない軟体動物と妻(アジャーニ)は寝たと描いたのだ。

「異教」なる太刀打ち出来ない相手を
本作では「サイコ・プラズミック療法」をなる怪しげな教義を流布する
異教の神の使い(=オリヴァー・リード演ずる『医者=教祖』)を信奉した結果,
妻が醜悪なバケモノと化して醜悪なバケモノを産んだと描き,
映画「ポゼッション」では妻の不倫相手=「ブッキョーとか言う異教」を
醜悪な化物として描き,
その化物と妻とが交合する驚異の「濡れ場」を描いたのだ。

得体のしれないバケモノと寝たものは得体のしれないバケモノと化して
得体のしれないバケモノの子を量産する…。

クローネンバーグとズラウスキーの
「憎悪」が「嫉妬」が
世にも醜い感情であるが故に…
彼等がその「憎悪」を降り注いだ
オンナもまた世にも醜い姿として描かれるだ。

「醜い」のは夫の憎悪の方なのか
それとも異教に体を許した妻の方なのか…

ひとつだけ言えるコトは…
「クローネンバーグくんは断じて純真無垢じゃねえよ」
ってコトである…。

僕としては…
「ザ・ブルード 怒りのメタファー」と
「ポゼッション」という…
酷い酷い酷い映画を観ながら
ガタガタ震える僥倖を寿ぎ(ことほぎ)たい一心であって…
「何」が映画を「酷く」したのかと言う
「調理過程」には左程関心が無いのである…。

僕の素朴な感想はね…
「親ガチャ」に失敗したばかりに…
物心ついた頃から
延々闘争し続けるロクでもない両親の間で…
ただ「無口」になるしかない娘キャンディが…
ただひたすらに気の毒だということである…。

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