ジョン・カーペンター監督の映画「エスケープ・フロム・L.A.」ブルーレイレビュー「冷静なブックレット」。
1998年米国の反体制勢力は益々その力を増し,
ロサンゼルスの街は悪徳や犯罪で混乱を極めた。
市民の安全の確保を名目に合衆国警察隊が結成された。
2000年8月23日午後12時59分マグニチュード9・6の地震がこの街を襲った。
大惨事の後,憲法が改正され初の任期終身制の大統領が誕生する。
新大統領が次の様に所信表明演説を行った。
「怒れる神の拳がロサンゼルスに振り下ろされ」
「ハルマゲドンが起こったのだ!」
「罪の街に!ゴモラの街に!!ソドムの街に!!!」
「そして大津波が,この汚れた背徳の街を米国から引き離す」
新大統領は島となったロサンゼルスを
「最早米国領土ではない」
と宣言。この島は永世流刑地となり
「酒も煙草も女もダメだが格別の計らいで女房とだけは致す事を許す」
新道徳国家と化した米国に不適合と見做された者が全員送り込まれた。
海岸線に沿って警察隊が軍隊の如く駐留し
この島からの脱出は不可能となった。
米国本土には海岸線沿いに「壁」が建造され
この島は完全に本土と隔絶された。
2013年になって「壁」に
かつては戦争の英雄であった凶悪な犯罪者が
27の道徳犯罪を起こし
2週間前にタイの米国領ニュー・ベガスで銃撃戦の末に
遂に警察隊に確保され移送されて来る。
「彼」は16年前(1997年)監獄島と化したニューヨーク・マンハッタン島から
当時の大統領を救出した「伝説の男」でもあり
その「伝説の男」…スネーク・プリスケン(カート・ラッセル)に
今また新大統領より極秘の命令が下されようとしているのだ…。
16年前(1997年)に当時の大統領(ドナルド・プレザンス)を監獄島と化した
ニューヨーク・マンハッタン島から救出する模様は
「ニューヨーク1997」(1981年)でつぶさに描かれており
本作…「エスケープ・フロム・L.A.」(1996年)は
15年ぶりの「続編」…と言うよりもセルフパロディ作品となる。
今回のスネークの任務は監獄島と化したロサンゼルスに潜入し
ロスで消息を絶った大統領の娘ユートピアが
持ち出した秘密兵器を奪回することにある。
スネークは「プルトキシン7」なるウィルスに感染させられ
制限時間内に戻って来られない場合,
全身の代謝機能を喪失させられた挙句死ぬ事となる。
全く…清々しいばかりの「ニューヨーク~」との「同じ」ぶりである。
だが…例え話は同工異曲であってもカート・ラッセルは15歳加齢している。
カート・ラッセルの精悍だった肉体はブヨブヨに弛み
腹に刺青してある「蛇」が「ツチノコ」に見える有様。
金が無くとも撮影出来る場面は
「殴り合い」と「スポーツ」と相場が決まっていて
前者は「ゼイリブ」(1988年)でやっちゃったから
本作では後者の場面が多い。
スネークは映画「ダークスター」の様にサーフィンし…
(「連れサーフィン」すんのは何とピーター・フォンダ!)
バスケットボールをして…
ハンググライダーに乗って…
ロサンゼルスの名所を観光しながらユートピアを探す事となる。
あのさ。
カーペンターは全く企んでいなかっただろうケド
本作は絶えて久しかった
「くたびれたオッサンが頑張る映画」
なのよ。
本邦にもかつて「用心棒」とか「椿三十郎」とか
「くたびれたオッサンが頑張る映画」があったケド
何時の間にか
「より若い方が価値がある」「より精悍な方が価値がある」
って考えに圧倒されて久しかったのが
1996年になってカーペンターが
カート・ラッセルが意地を見せた事に感激された方は多く
TVゲーム「メタルギア」シリーズの生みの親・小島秀夫監督は
主人公ソリッド・スネークの名をスネーク・プリスケンから取り
1998年にプレイステーションで発表された「メタルギアソリッド」では
ソリッド・スネークがシャドーモセス島に潜入するのに
超小型の1人乗り潜水艦を用いて
「エスケープ~」でスネーク・プリスケンが
ロサンゼルスに潜入する際の方法を踏襲されている。
また漫画家のあさりよしとお先生は大のカーペンター好きとして知られ
著作「宇宙家族カールビンソン」の中で
映画監督の「ジョン」と映画俳優の「カート」が
かつての「ジョン」の作品「ニューヨーク大脱出」の「続き」を作る
「ジョン君のエスケープ・フロム…」という
「まんま」なエピソードを1996年(リアルタイム!)に執筆されている。
カート「俺が役者のとしての原点に…」
「初心に還れる映画を撮れるのは…」
「あの安っぽくて頭が悪くて…」
「勢いばかりで底の浅い単調なBGMの…」
ジョン「遠路遥々喧嘩を売りに来たのか…オイ」
カート「とにかく!考え過ぎない頭を使わない映画に出たいんだよォ」
ジョン「ええい帰れっ!!」
この溢れるカーペンター愛を見よッ!!!
またまた漫画家の平野耕太先生は著作「進め!!聖学電脳研究部」の中で
クソゲーマニアの寺門部長にスネーク・プリスケンのコスプレをさせて
「オレは部長なんて名前じゃねー」
「スネークと呼べい!!」
「男汁溢れる男の中の男」
「もてまッセ!!」
と言わせしめている。(ファミ通PS1997年10月17日号に掲載)
本作品の結末は「ニューヨーク~」を超えたと思ってる。
「秘密兵器」を作動させ「地球の歴史」を
電気ガス水道その他諸々のエネルギーの何もない
「中世暗黒時代」に戻したスネークは
タバコ…「アメリカン・スピリッツ」をゆっくりと吸う。
もう「タバコはダメ」などと言う「新道徳国家」は崩壊している。
現実でもさ。
映画で「タバコを吸う」場面が怪しからんと規制される有様。
スネークはそうした規制に「うるせえよ」と言わんばかりに
タバコをうまそうに吸った後に「最後のセリフ」を吐く。
ソレは…世間からアウトローだの重犯罪者だの道徳犯罪違反だのと
レッテルを貼られたスネークの「本心」であり
「スネークが追い求めていたもの」を
「くたびれたオッサンの真情」を
是非とも皆様御自身で聞いて欲しいのだ。
俺こそ その男
オマエ等全員 皆殺しだ
俺こそ その男
悪魔の息子で世界の覇者
…と中二病全開の曲が流れて映画は閉じる。
余談になるが先に紹介した
TVゲーム「メタルギア」にもタバコが登場する。
秘密兵器メタルギアを破壊すると秘密基地の自爆装置が作動するのだが
ソコでタバコを吸うと体力が徐々に減るものの
スネークは落ち着きを取り戻し
自爆装置の制限時間が二倍になった様に感じ脱出が容易になるのだ。
アイテムの説明欄には「健康の為に吸い過ぎに注意しましょう」とある。
本日(2024年4月24日)スティングレイ社より
本作のブルーレイが届いたのでレビューを書きたいと思う。
このブックレットはスゲーぜ!
スネークの足跡を追ってロサンゼルスの名所旧跡を巡るツアーガイド!
ガイド嬢は勿論ヒロシニコフさん!
コレ絶対さあ…ヒロシニコフさん…。
修学旅行で京都の名所旧跡をガイドするバスガイド嬢の心境になって
ブックレットを書いてるんだよね…ココは絶対見逃しちゃダメ!
って解説されて僕等ボンクラ童貞中学生の
拍手喝采を浴びる妄想に耽っているに違いないのだ。
童貞中学生の羨望の的!
イカ臭くて最高なのだ。
本作品の本質が「観光」なのだから
ヒロシニコフさんの方法論は実に的確と言えるのだ。
一転して後半は真面目な論考が続く。
岩本代表の思い入れタップリの論考も悪くないが
ヒロシニコフさんは「記憶」で書かず
膨大な参考文献を背景に書かれてて「論文」の趣があるんです。
スティングレイさんは「大昔の映画」をブルーレイ化するので
従来のブックレットでは40年から50年分の「思い入れ」を聴かされる
炎天下で岩本校長の長話を聴かされて
バタバタ倒れる小学生の心境を満喫出来るのですが
ヒロシニコフ先生はスパッと話が終わる
「小学生の気持ちが分かってる」北野広大先生なのです。
僕の先生はフィーバーだけどヒロシニコフさんは「冷静」なんです。
思い入れを熱く語りたいのは良く分かりますが
ソレは「年寄りの長話」なんです。
「ニューヨーク1997」のブルーレイのブックレットでもさあ
中原昌也さんの「年寄りの長話」を延々聞かされてさあ
もうウンザリなんだッ!
「老兵はただ消え去るのみ」なんだッ!
あのさ。
本作品に於けるスネークも「老兵」なので
老兵に頑張って欲しい気持ちは確かにあるんです。
しかし…老兵を見ていると「辛い」のも確か。
だから…本作の「続編」でスネークが宇宙に行く構想が流れて…。
本当に良かったと思ってます。
僕はスネークに…人知れず姿を消して欲しいと願っているんです…。
老兵には!
頑張って欲しいけれど!
もうこれ以上頑張って欲しくないんですッ!
「これからのブックレット」は…映画解説は…。
何ら思い入れ無く淡々と事実を積み重ねて行く
「冷静なブックレット」が要求されているのかも知れません。
熱量だけはヤケに多い癖に
中身は空っぽなブックレットより
100万倍有益である。
本編のマスターに関してはスティングレイさんからの
3/22付メルマガで次の様な説明がありました。
「本編のマスターはShout!Factory盤と同一のものになってます。
アメリカでは2年前に4K UHD版がリリースされているのですが、
日本での契約はUHDを含まないため、
マスターも4K由来のものは使用できませんでした。」
「ですのでバッキバキの高画質がお好きな方には、
今回の日本版Blu-rayの画質は抑え気味に映るかもしれません。」
「ただ、このShout!Factory盤のマスターも
当時オリジナル・ネガから4Kスキャンされて作られたものです。
フィルムライクな質感は綺麗に仕上がっていると思います。」
本ブルーレイには2種類の日本語吹替音声が収録されている。
1.1997年5月23日に発売された本作のビデオの吹替音声。
2.2000年12月2日に
フジテレビの「ゴールデン洋画劇場」で放映された吹替音声。
僕は2022年7月1日にテレ東で放映された
本作の録画データを持ってるけどビデオ版音声でした。
ゴールデン洋画劇場版では
スネークが江原正士さん,クエボが大塚明夫さん,
マロイが富田耕生さん,大統領が羽佐間道夫さんと
非常に豪華なのが特徴ですね。
江原さんのスネークは若い頃の内海賢二さん…と言うよりも
ブライキング・ボスみたいな喋り方するんですよ。
渋い声が突然甲高くなる所が特に!
ただね。
声優さんも人間である以上,「全盛期」ってのがある訳で
死ぬまで全盛期の人っていないんですよ。
時系列的に有り得ないけど…。
この吹替が…1980年代に収録されていたら
きっと最高の吹替だったと思います。
でもね。
吹替が収録されたのは2000年なんですよ…。
僕は終始一貫して「安心」して聴けるビデオ版の方がスキです。
訳文もビデオ版の方が精密だしね。
例:テロ組織(ゴールデン洋画劇場)→輝く道(ビデオ版),
ギャング(ゴールデン洋画劇場)→コリアン・マフィア(ビデオ版)等々。
ビデオ版のユートピアの声の出演がセーラージュピターだしね!
音声は4種類
1.英語5.1サラウンド(DTS-HD Master Audio)
2.英語2chステレオ(リニアPCM)
3.ビデオ版吹替音源(DTS-HD Master Audio)
4.ゴールデン洋画劇場版音源(DTS-HD Master Audio)
特典は以下の通り
1.「オフビートな感覚」ステイシー・キーチ(マロイ役)
インタビュー(00:07:53)
2.ジョージ・コラフェイス(クエボ・ジョーンズ役)が語る
「エスケープ・フロム・LA」(00:14:37)
3.「ビバリーヒルズの作業場」ブルース・キャンベル
(ニューヨーク公衆衛生局長官役)が語る。(00:09:10)(声のみ)
4.「家族の一員」ピーター・ジェイソン
(最初にスネークを連行する警官役)インタビュー(00:25:55)
5.ジェームズ・マクファーソン(メイクアップアーティスト)が語る
「エスケープ・フロム・LA」(00:17:58)
6.デヴィッド・ジョーンズ(CGスーパーバイザー)が語る
「エスケープ・フロム・LA」(00:19:04)
項番1~6はシャウト・ファクトリーの特典となります。
7.劇場予告編(00:01:34)
8.TVスポット(00:02:26)
9.ギャラリー・アーカイブ(00:06:49)
…確かにカーペンター監督と
カート・ラッセルへのインタビューはありません。
でもさ。
「ニューヨーク1997」のブルーレイの特典映像なんざ予告編だけですぜ。
上記の特典を勝ち取っただけでも
スティングレイ社の苦労が慮られるのです。
映画本編の字幕製作者は字幕翻訳界の良心・落合寿和氏。
特典の字幕翻訳者は大石盛寛氏。
字幕翻訳者を「分けた」理由は不明。
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