ポール・シュレイダー監督 ナスターシャ・キンスキー主演の映画「キャット・ピープル」レビュー「全裸のキンスキーの誘惑に耐える武器は…何と三島由紀夫の葉隠!中世ニッポンのブシドーとかいう禁欲的論理を持ち出さねば勝てんのか…」
飼い主不明の黒豹を捕獲した動物園の園長を務める
オリバー(ジョン・ハード)は,件の豹の檻の前で熱心にスケッチをする
アイリーナ(ナスターシャ・キンスキー)と名乗る女性と知り合う。
彼の兄ポール(マルコム・マクダウェル)は2日前から行方が知れないと言う。
彼女の不思議な魅力に惹かれる彼は彼女との親交を深めて行く。
そんなある日,件の黒豹が飼育員の腕を嚙み千切って逃げ出してしまう。
呼応するかのようにポールがアイリーナの前に
再び姿を現し,兄と妹でありながら愛し合おうと彼女に迫る。
彼女に拒絶された彼は一族に伝わる血の掟を語り始めるのであった…。
本作品が本邦で公開された頃,僕は大学生で授業の教材として
本作が使われ,授業が大いに盛り上がったと記憶する。
人間とも獣とも一線を画す超然とした存在を
ナスターシャ・キンスキーが熱演し,愛する人間を愛するが故に
殺さなければならない一族の掟に苦しむ彼女の姿に,
「中二病」という言葉は当時勿論無いが
ティーンの男女の中二魂が燃え上がったからではないかと愚考する。
全裸のナスターシャ・キンスキーの
「私を一緒に寝て,何もしないでいられるの?」
との問いかけに相手役のジョン・ハードは
「愛し合うとはセックスすることではなく,互いを思い遣ることだ」
と言い放って仰天したが,彼の愛読書が何と三島由紀夫の「葉隠」!
中世ニッポンのブシドーという奇妙な論理で生きる
サムライとかいう禁欲的な存在を持ち出さなくては,
彼女の誘惑に勝てない設定に再度仰天するともに,
ポール・シュレイダー監督に
日本人の特に男は大変なスケベであり…
「据え膳食わぬは男の恥」
って諺もあると教えてやりたい気持ちとなる。
人間と人間ならざる超然とした存在との恋愛を描く以上,
一方が他方に歩み寄るか,別々の道を歩むしかないと踏んでいたが,
本作の結末はとちらでもなく,元々の人間の恋人とも仲良くして,
本性を現したナスターシャ・キンスキーとも,宜しくやって行くと言うもの。
この映画の公開がラノベ台頭の遥か以前と知ってはいるが
ジョン・ハードに対して
「『葉隠』は,ブシドーはどうした,このラノベ主人公!」
と叫ばざるを得ない。
ポール・シュレイダーもジョン・ハードも
またスケベな男の一員であり…
ワザワザ僕が心配する必要など何処にもなかったというワケだ。
本作の主題歌を歌っているのはデヴィッド・ボウイ。
寺沢武一先生の「コブラ」の宇宙海賊コブラの宿敵クリスタル・ボウイは
従来クリスタル・ボーイと思われていたが…
「クリスタル・ボウイの名前はデヴィッド・ボウイから採っているから…」
「本当は『ボウイ(BOWIE)』が正しいのさ…」
と寺沢先生が設定を惜しげもなくSNS上で
公開されていたコトを思い出すのである…。