映画「悪魔のワルツ」レビュー「ふたつの名花の咲き乱れ。」
高名なピアニストであるダンカン(クルト・ユルゲンス)のもとに
取材にやってきた音楽雑誌の記者マイルズ(アラン・アルダ)。
ダンカンの些か以上に傲岸不遜な態度に内心辟易しながら取材を
開始しようとするマイルズであったが
逆にダンカンから「取材」される羽目となった。
マイルズは職業柄,ピアノは得意で.ダンカンに言われるがままに
弾いてみせたり,両掌を開いてみせたり,裏返してみせたり…。
奇妙な「逆取材」ののち,雑貨店を営むマイルズの
妻ポーラ(ジャクリーン・ビセット)のもとにダンカンと彼の信奉者たちが
足繁く買い物に来たりパーティに招待されたりするようになった。
マイルズはダンカンの厚意を単純に受け取っているようだが
ポーラの「勘」が「何か」がおかしいと警告を発している。
ダンカンがマイルズの石膏の顔型を取った段階でポーラはマイルズに
これ以上ダンカンと関わり合いを持つのは止めるよう言及するに至る。
マイルズはやれやれといった表情をしてダンカンが末期の白血病で
間もなく臨終のときを迎えるとポーラに告白する。
これを聞いてしまっては流石にポーラも二の句が継げない。
ダンカンの臨終にはマイルズと
ダンカンの娘・ロクサーヌ(バーバラ・パーキンス)が立ち会った。
ダンカンが息を引き取り葬儀が終わると
マイルズの態度が急におかしくなった。
愛の交歓の際のふたりだけが知っている
「合言葉」をいわなくなり「愛し方」も全然違う。
それに一番気懸りなのはマイルズとロクサーヌとの仲が
必要以上に親密になったことだ。
ダンカンは遺言状を残していてマイルズに自身が愛用していたピアノと
莫大な遺産を与え娘ロクサーヌには家屋敷を残した。
それ以来,マイルズは今やロクサーヌの所有物となった屋敷に入りびたり
ピアノを弾き続けている。
何か…何とはいえないが何かが変だ…!
ポーラの勘は今や確信に変わり,ロクサーヌの
別れた夫・ビル(ブラッドフォード・ディルマン)のもとに向かい
彼女との離婚理由を問い質した。
ビルが語り始めた離婚理由は到底信じかたい内容だったが
翌日海岸で絶命したビルを発見するに至り最早信じる他ないようだ。
ポーラはマイルズの心をロクサーヌから
取り戻すために行動を開始するのであった…!
初見。
原題は「メフィストワルツ」でジャンルはサスペンスだが
登場人物が口から緑色の液体を吐かなくても頭が180度回転しなくても
蜘蛛のように歩かなくても空中に体が浮き上がらなくても
メフィストが登場しなくてもゴア描写が皆無でも
監督の技量と脚本の技量の併せ技で本作品のような
視聴者の血圧と心拍数を上げるサスペンス映画は創れるのだ。
実際「エクソシスト」を蛇蝎の如く嫌う古典ホラーファンはいて
「あんなもの!」
と思われている向きは確実に存在し
「エクソシスト」が提示した「恐怖」を忌み嫌い,
本作の「上品な恐怖」を必要以上に持ち上げるきらいがあるのだ。
何だかねえ。
本作が面白いのは確かだが
「エクソシスト」とか「悪魔のいけにえ」とか
面白さが認められない頑なな姿勢は僕には理解出来ないな。
画質は71年製作の映画としてはまあまあ及第点だ。
個人的に本作品の最大の見所は
ジャクリーン・ビセットとバーバラ・パーキンスという名の
「ふたつの名花の咲き乱れ」であると思っている。
僕は本作品を最大限に堪能できた。
本作品を紹介して下さった諸氏に最大限の感謝を捧げたい。