映画「面会時間」レビュー「なあ,意見を通すには暴力が必要だろ?」「「話せば分かる」訳ないだろ?」「「非暴力主義」など絵に描いた餅だろ?」とマイケル・アイアンサイドが笑う。」
TVの討論番組で夫の暴力に耐え切れず殺害に至った妻の正当防衛を主張し,
女性視聴者の共感を売る人気キャスターのデボラ(リー・グラント)の
気鋭の論客ぶりをTVで観ながら歯噛みする男がひとり。
この男,名をコルト(マイケル・アイアンサイド)といい,
TVの討論番組で女性・黒人・メキシコ人…つまり社会的立場の低い人々に
加勢する論客に,抗議の投書を投稿するのが趣味で壁一面に,
これ迄の投書の写しがビッシリと貼られている。
しかしながら投書がTV番組に取り上げられた試しは無い。
彼の主張はシンプルで弱者の肩を持つ論客は喋り過ぎで,
投書で黙らせられないなら実力行使で黙らせるというもの。
彼の,もうひとつの人に見せられない趣味は実力行使の際,
恐怖に震える女の顔写真を撮影しスクラップする事。
今や彼の新たな標的は決まった。
デボラの家に侵入しナイフで彼女を黙らせようと言うのである。
また顔写真のコレクションが増えそうだ。
彼は正気なのだろうか。
そんな視聴者の不安を他所に彼の姿が夜の帳に消えてゆくのであった…。
幼少期に父親に溺愛され,ベトベトに甘やかしてくれた存在が
夫としては暴君で,暴力に耐えかねた妻に頭から煮えた油をかけられたのを
眼前で目撃したのがコルトのトラウマ。
一度決めた標的は絶命する迄執拗に狙う異常性を発揮する。
デボラの家の家政婦を刺殺し彼女を病院送りにするだけでは足りず,
ある時は医師に化け,またある時は自傷で救急車で病院に侵入し,
彼女の命を狙う執拗さには流石に舌を巻いた。
リー・グラントが当時にしても既に高齢という事もあってか,
彼女の弱者を肩を持つ論客ぶりに敬意を払い,
死ぬ程怖い目に遭う美貌の看護士役をリンダ・パールが演じている。
ブックレットを読むとリー・グラントとリンダ・パールは
ダブル・ヒロインとある。
デボラの恋人役がカーク艦長ことウィリアム・シャトナー。
ハッキリ言って警察が全くの無能に描かれるが,
それ以上にシャトナーは「アンタ何しに出て来たの?」と
言いたくなる様な木偶の坊ぶりである。
男の側からの暴力反対を訴える女の論客が
「当たり前の人間としての権利」「非暴力主義」を主張しておきながら,
男の側からの暴力という形で猛反発に晒され,
自衛の為に戦わざるを得ない状況に陥る,この皮肉。
「なあ『意見』を通すには暴力が必要だろ?」
「『話せば分かる』訳ないだろ?」
「非暴力主義など絵に描いた餅だろ?」
と言わんばかりのマイケル・アイアンサイドの
最後の壮絶な微笑が心に残る。
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