藤田和日郎先生の「読者は読ムナ(笑)」レビュー「漫画を描くのに王道なし」。
本書は小学館の新人漫画賞に入選した漫画家志望者を想定して,
その志望者が「うしおととら」の初代編集者・武者正昭氏に目をかけられて
武者氏のたっての希望で漫画家・藤田和日郎先生の新人アシスタントになり
藤田先生からの新人アシスタントへの指導,
新人アシスタントがネームを武者氏に持って行って受ける指導を,
交互に掲載する事によって新人アシスタントが漫画家として週刊少年サンデーで連載開始の運びとなるまでを半対話形式で描いてます。
「半対話」と言うのは新人アシスタント君は黙って藤田先生や武者氏の指導を受けてる設定だから,両氏の指導が交互に口語体で記述されてるから。
新人アシスタント君の指導方針は週刊少年サンデーで
「たくさんのひとが読み進めたくなる漫画」
つまり「面白い漫画」を描くことを「正解」と設定してます。
本書を読んでね,藤田先生が
大場つぐみ氏の「バクマン」に物申したいのが伝わって来るのです。
「バクマン」で頻出する言葉に「王道漫画」「邪道漫画」があって,
「王道」が「最も正当な道・方法」って意味で使われてて,
「バクマン」が挙げる「王道漫画」が「ワンピース」「ハンターハンター」「ブリーチ」「ナルト」…を王道バトル漫画と称してます。
服部編集はシュージンの作風を鑑み
「10人中半分以上には面白くないと思われるけど
2人は確実に面白いと言ってくれる漫画」…「邪道漫画」を描いて高校卒業まで3年じっくり地力を付けてから連載を持たせたい方針。
しかしサイコー(現在15歳)には「18歳までにヒット作を出し,
そのヒット作がアニメ化され声優志望のヒロインが声を当てて結婚する」
って「縛り」があるので3年も待てない。
故に邪道漫画ではなく王道漫画を目指すのが「夢」を叶える近道と考える。
だからサイコーは王道漫画を描く事が
「ヒット作を出す近道」と考えてる訳。
これはユークリッドがプトレマイオス王に
「幾ら貴方が王様であっても
幾何学を修めるのに「近道」なんてありません。
(幾何学は)誰が学んでも等しく経なければならない過程があるんです。」
と諭した「学問に王道なし」の本来の「王道」の意味なんです。
つまり「バクマン」では「王道」って言葉が
「最も正当な道・方法」
って意味と
「近道」
って(本来の)意味が混在してる訳。
どういう事かって言うとサイコーはね,
「ワンピースみたいなジャンプで人気のバトル漫画を描いて
早く(=近道して)ヒット作を生みたい」
と主張していて,
藤田先生は
「バトル漫画が「描こうかな」と思って描ける訳ねえだろ!舐めんな!」
「そもそも漫画を描くのに「近道」なんてねえよ!」
と苦言を呈されてるのです。
「漫画を描くのに王道なし」
と。
「誰が学んでも等しく経なければならない過程」
を新人アシスタント君も地道に経ろと仰られてるのです。
「バクマン」に新妻エイジという新人漫画家が登場するのですが
彼は漫画を描くのに担当編集に一切相談せず,ネームも一切描きません。
大場つぐみ氏は週刊少年ジャンプ編集長に
「漫画は面白ければいい」「面白いものは連載される。当たり前だ」
と発言させていて,エイジはその「面白い漫画」を描くのに
編集者との相談もネームの提出も不要と言わせてる訳で,
藤田先生はエイジの姿勢に対しても苦言を呈する。
「漫画を舐めんな!」と。
藤田先生は漫画は漫画家とアシスタントとの対話,
漫画家志望者と編集との対話によって生まれるとし,
漫画家志望者が編集のダメ出しにめげずに
ネームを持ち込み続けた者が漫画家になれると主張する。
漫画家志望者は編集にドンドン質問し,
編集の助言を受け入れるには「対話」が出来なくては話にならないと。
若い漫画家志望者達は「対話」を避けるから漫画家になれないのだと。
ドンドンネームを描いて持ち込んで編集に数限りなくダメ出しされろと。
エイジはその「編集との対話」を拒んでいるのだから漫画家にはなれない。と主張されておられるのです。
本書はプロ漫画家が「バクマン」の事をどう思ってるのかが分かり
「漫画を描くのに王道(近道)はない」と主張してるのです。
本書の本質は「説教」で結論は
「地道に努力し・編集に数限りなくダメ出しされなさい。
それが一見遠回りに見えても漫画家になる一番の近道です。」
と「本当の事」を主張してるので若い人は煙たがるだろうね。
若い人は「説教」や「正論」より
「裏技」や「攻略法」を
つまり「少しでも楽する方法」を求めているんだから。
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