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アリ・アスター監督の映画「ミッドサマー」ディレクターズカット版第2レビュー「オマエのシアワセは…無数の人間のフシアワセを担保に成立してるのだ…。」

皆さん明けましておめでとうございます…
今年もよろしくお願いします…
記念すべき2025年最初のレビューは…
アリ・アスター監督の
映画「ミッドサマー」ディレクターズカット版であり…
この映画は去年(2024年)10月に初見の感想を書いておりますが…
思うところあって本日…「第2レビュー」を書かせていただきます。

「第1レビュー」はコチラをどうぞ…。

パニック障害を抱える大学院生ダニー(フローレンス・ビュー)は
自分と同じく極めて精神的に不安定な両親と同居してる妹の
「もーダメ!」「耐えられない!」「生きて行けない!」
とのメールに心を痛めているが…
彼氏のクリスチャン(ジャック・レイナー)は
ダニーがパニックを起こしながらどもりながら
彼に悩みを相談して来る度に「またか」とウンザリしている。

男友達は
「そんなアタマのイカレたオンナとはさっさと別れろ」
と助言してくれ…彼も彼女と別れたいと思ってるが…
なかなか踏ん切りがつかない。

そんな時またしてもダニーから着信。
どうせロクな報せではないと思いつつ話を聞くと
「ノオノオノオノオノオ…!!!!!!!」
が無限に連呼される。

オレの人生はこのオンナをなだめすかすコトに費やされるのだろうか…。

彼女の頭のイカレた妹が両親を道連れに無理心中を実行したのだ…。
天涯孤独となった彼女に…
しかしながらクリスチャンは救いの手を差し伸べようとしなかった…。

ソレが彼女には信じられず…
「ワ・タ・シ・を・助・け・ろ・よ」
「絶対にアンタと別れないからね…」
と口論が続く日々…。

死ねばいいのに…このオンナ…。

このオンナは…クリスチャンが悪友3人組といつもつるみ…
自分をハブるコトに執拗に噛み付き…絡んで行く…
そのクセ…クリスチャンが仏頂面になると…
「ワタシを捨てないで!」
とパニックを起こしながら泣き喚くのだ…。

クリス…悪いコト言わんから…そんなオンナとは別れろよ…

クリスチャンの仲間のペレ(ヴィルヘルム・ブロン・グレン)が
北欧スウェーデンのヘルシングランド地方にある小さな村の出身で
男同士4人組水入らずでその村に2週間の予定で滞在し…
夏至の祭り(MIDSOMMAR)を楽しもうと計画してると…
まッたッしッてッもッあのクソメンヘラが割り込んで来る…

「ワタシそんなハナシ聞いてないんですけどッ!?」

このオンナは…ッ!
気の置けない男同士の旅に割って入る
異分子であって…
尚且つ空気の全く読めないロクデナシなのだ…。

死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!

こうして男4人の旅に異分子1名が割り込んだ計5名が…
ヘルシングランド地方にある「ホルガ」という…
ペレの生まれ故郷に向かうのであった…。

僕はこの…「ダニー」というクソメンヘラが八つ裂きにしたい程キライで…
未来永劫地下座敷牢に幽閉するが相当とのレビューを書いたのですが…

どうもスッキリしない…。

何故「スッキリしない」かと言うと…
ダニーが幸せになって「終わる」からで…
なんでェェェェェ!?
と絶叫し続けているからで…。

何故ダニーが酷い目に遭わないのか…
何故ダニーが死なねえのかと鑑みるに…

この映画…性格が終わっている人間が死ぬ作劇になってないんです…。
ダニーも大概性格が終わっていますが…
その恋人のクリスチャンも負けず劣らず性格が終わっている…
クリスチャン・ダニーに同行した3人の面子のうち…
ホルガ出身のペレは置くとして…
残り2人は…別に性格が終わってはいないが…
この村の人柱にされてしまう…。

つまり「人柱のカカシ」となる人選には「性格」という審査項目が無く…
この村の掟では…
たったひとりを幸せにする為には9人の人柱が必要で…
「9人の不幸せ」を担保にして「たったひとりの幸せ」を実現している…。
人柱と言うのは「頭数」でしかない…。

この村の掟はね…
「オレたったひとりの幸せの為に…」
「オマエ達不幸になれ…」
という「奇妙な力学」であり…
通常の力学では到底考えられぬ不均衡な命の取引となっている…。

その幸せとなる「たったひとり」についても性格は不問で…
要するに…この映画に於いて…
「死ぬ」のも「生きる」のも…
「幸福になる」のも「不幸になる」のも…
「性格=普段の心掛け」と全く関係ないのだ…。

僕が先程から「性格」「性格」と連呼しているのは…
僕の心中に「性格が終わってる人間は死なねばならない」って
「因果応報論」が鎮座しているからで…
普段から誠実に生きてれば必ず報われ…
普段から不誠実に生きてれば報いを受けると言う…
考えに支配されているからだ…。

でも…そんなのウソじゃないですか…
僕が…「そうなって欲しい」と願っているだけで…。

アリの頭の中には「奇妙な力学」はあるが…
「因果応報論」はない…。

従ってロクデナシのクズが生き…
誠実に生きてるマジメ人間が死ぬというコトが…
容易に起こり得るのだ…。
「現実」がそうであるように…。

寧ろ「ロクデナシのクズは死ねッ」という…
因果応報論を振り回して映画を観る
僕の考えが視野狭窄と言えるのだ…。

そうした視野狭窄な視点からは…例えば…
「ロクデナシのクズのクリスチャンが死んだ」
って事実から…
普段から
「ロクデナシのクズのクリスチャンはロクな死に方しない」
って考えてる人間は…
ソレ見たコトかとカサにかかって…
「クリスチャンが死んだのは…」
「奴がロクデナシのクズだったからだッ」
「ザマァァァァァァ」
「テンバツテキメーン!」
という…
自分にとって都合のいい結果を平気で捏造する…
浅薄で雑な見方しか導き出されないのだ…。
「天」こそいい迷惑だよ…。

クリスチャンが死んだのは…
彼の普段の生き様とは何の関係も無いのに…

冷静に考えて…
誰かが死んだ原因を…
「天罰が落ちた」とか「因果応報」とか
ってホザく人間…つまり僕こそが…
「ロクデナシのクズ」でしょ…。

映画「ウィッカーマン」では…
キリスト教のみが正統で… 他宗教は異端で滅ぼしていいという…
徹底的な不寛容を「神の愛」だと騙っており…
最終的にこの独善的な主人公は…
異教徒の祭りで火炙りにされて五穀豊穣の生贄として捧げられる…

「ウィッカーマン」で描かれているのは
「徹底的な不寛容」であるのに対し…
「ミッドサマー」で描かれているのは
「徹底的な身勝手」であり…。
最終的に「ウィッカーマン」で徹底的な不寛容者は死ぬが…
「ミッドサマー」では徹底的に身勝手な人間ダニーは…
村中から祝福されて「幸せ」の絶頂に達する…。
その「幸せ」は9人の生贄のカカシの命が担保となっているが…
究極の身勝手人間ダニーは勿論9人のカカシに何ら憐憫の情を持たず…
ただ「自分の幸せ」を甘受するのみだ…。

「身勝手な人間は死なねばならない」なら…
真っ先にダニーが死ぬべきであるが…
彼女は幸せになって終わり…
ソレが…
「クリスチャンは(因果応報で)死んだのに…」
「なんでダニーは因果応報で死なねえんだよ!」
との観客=僕の怒りを買っているのである…。

アリ・アスターは「因果応報」は勿論…
恐らく「神」すらも信じておらず…
ただ…
「たったひとりの幸せは…無数の人間の命の犠牲の上に成り立っている」
「オマエのシアワセは…無数の人間のフシアワセを担保に成立してる」
という「奇妙な力学」が支配しているのだ…。

日本人がこの映画を観るトキ…
「因果応報」「勧善懲悪」「アイツはムカツクから死ねッ」等々の
「常識」のバイアスがかかるため…
この映画が「そうなってない」コトに不満が募るのだと思う…

「なんでクリスチャンは死んだのにダニーは死なねえんだよ!」って…

ダニーは…クリスチャンを始めとする…
9人の命の犠牲を担保にして「幸せになった」のであり…
究極の身勝手人間ダニーは…
世界中の呪詛を受けながら…
他者の命の犠牲を担保に…
他者の幸せを強奪して…
今日も明日も明後日も元気に幸せに生き続けるのだ…

例え僕が…幾らダニーに対して…

死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ死ねッ!

と叫んでも…
ダニーはビクともしないのだ…
「呪詛」など無効なのだ…
「心」も「想い」もアリには関係ないからな…。

この映画は…ダニーを主人公とする…
「盗人猛々しい」ピカレスクロマン映画だと…
ちい漸く分かったよ…。

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