新藤兼人監督の映画「絞殺」レビュー「本作では…マモーと『おしん最終形態』とのクドいセックスが堪能出来ますが…ソレを観て…一体誰がシアワセになれるの言うのでしょうか…」
1977年に発生した「開成高校生殺人事件」は…
開成高校生の息子による家庭内暴力に悩む父親が
思い余って息子を絞殺し…
開成高校が東大進学率の高い名門校だった為に…
センセーショナルに報道され…
父親の罪状を裁く裁判には多数の傍聴人が詰めかけ…
朝日新聞社の本多勝一氏によるルポルタージュ「子供たちの復讐」の
第1部は…本事件及び本事件にまつわる裁判の模様が記録されている。
裁判の最中に母親が自殺したコトによって報道の熱狂はピークに達し…
「開成高校生殺人事件」を取り上げた新藤兼人監督による
映画「絞殺」が1979年に制作され…
母親(乙羽信子)の自殺によって映画が閉じているのだ…。
本作の進行は時系列ではなく…
襖が破れ…窓ガラスが割れ…
テレビのブラウン管が粉砕された…
寒風吹き荒ぶ寒々しい家で…
夫(西村晃)が…
「ツトム(狩場勉(新人))を殺そうと思う…」
と…息子を殺す決意を…妻に漏らし…
妻(乙羽信子)は…
神をも畏れぬ夫の言葉に立ったまま失禁し…
足元の床に小便の「水溜まり」が
形成される場面から始まる…。
当然ながら「何故こうなった?」という
観客の疑問があるワケで…
「ソレ」はおいおい語られて行く…。
名門校合格を喜びあう母親(乙羽信子)と息子(狩場勉)。
母親は息子にベットリ寄り添い…
息子もそんな母親に凭れ掛かり…
母親は息子に「恋人」であるかの様に接する…。
何と言うか…非常に…この…「気持ち悪い」のである…。
他方喫茶店を経営する父親(西村晃)は「孟母三遷」の如く…
息子の学習環境改善の為に転居を繰り返したコトを客に自慢し…
息子に対しても恩着せがましい物言いを忘れず…
「学歴社会の勝者となれ」
と発破をかけるものの…
「勝者」となった後の展望を何ら提示出来ない
「尊大な俗物」として描かれる…。
息子は性的な欲求不満を日常的に抱えており…
同級生(会田初子(新人))をススキヶ原に呼び出し…
乱暴狼藉に及ぼうと試みるも
激しく抵抗され未遂に終わり…
満たされぬ性的欲求を満たすかの如く…
両親のセックスを覗き見て独り励む有様…
冷静に考えてさあ…
皆はパパとママのセックスが見たい…?
パパとママのセックスを見ながら
「ひとりえっち」に励める…?
そんな中,件の同級生から呼び出され…
軽井沢の別荘に来ないかと誘われる息子。
もうね。
息子が喜び勇んで軽井沢に行くと…
同級生から父親に日常的に凌辱されている事実を告白され…
「オレの…この滾り(たぎり)をどうすればいいのか…」
と困ってしまってワンワンワワンの息子なのであった…。
本作に於いて…
尊大な俗物である父親に対する軽蔑の念があり…
自分に「スキな相手」が出来ると…
途端に自分にベッタリ寄り添って来る
母親に対する鬱陶しさが醸成され…
結果…両親に対して暴力を振るうコトとなる…。
息子に…「スキな相手」が出来たと知り…
相手は誰なのかと詰問する母親の姿が…
恋人の浮気を詰問する姿そのものであって…
人生の節目節目で思い出したい気持ち悪い場面と言える…。
母親の息子に対する感情は「母親」と言うよりも
「恋人」のソレであって…
父親が息子を殺したコトを母親は断じて許さず…
「ワタシのツトムを返せッ」
と夫を責め…自殺して息子の後を追うコトとなるのである。
尊大な俗物であった父親(西村晃)が…
自分に振るわれる暴力に対して恐怖に震え…
涙目となる描写に…大興奮し…
股間の一物も思わず堅くなるのである…。
「名門校」と言う割に授業が極めて観念的で具体性に乏しく…
息子の精神異常を疑う父親のセリフが
「アイツ…マスターベーション(自慰行為)のやり過ぎじゃないか…?」
と…フロイトの影響を受け過ぎているし…
森本レオ演じる精神科医の対応も極めてぞんざいで
僕はうつ病病みとして…四半世紀の間…精神科医と接しているが…
新藤監督に対して…
名門校や精神病や精神科医を観念的に描くのは止めて欲しいと感ずる。
言い方を変えれば…キチンと取材して描いて欲しいのだ。
この頃の西村晃氏は本当に素晴らしく…
1978年にはテレ朝の土曜ワイド劇場で
江戸川乱歩の「魔術師」が放送され…
西村氏は魔術師役を演じ…
明智小五郎(天知茂)と丁々発止の遣り取りを披露し…
同じ年の12月には
クローンを繰り返して永遠に生きようとする
マモーという怪人を演じルパン三世を大いに苦しめ…
1979年に本作で尊大な俗物を大熱演し…
乙羽信子とのクドいセックスを披露して
一体誰得なのかと絶叫させ…
1983年からは
東野英治郎氏に変わって水戸黄門を演じ…
「やっておしまいなさいッ」
とヒステリックな甲高さで
供に命じる声が裏返る程の大熱演を披露し…
時代劇ファンを恐慌状態に陥れている…。
乙羽信子氏は…勿論新藤監督の奥様であるが…
僕が初めて乙羽氏を認識したのは遅く…
橋田壽賀子氏が脚本を書いた
NHK朝の連続テレビ小説「おしん」(1983年)で
「おしん」と言う名の女性のライフステージを
「少女期」「若年期」「壮年期」の3つに分け…
3人の女優に演じさせており…。
すなわち…
おしん少女期…小林綾子(子役)
おしん若年期…田中裕子
おしん壮年期…乙羽信子
が演じ…「おしん最終形態」を
貫禄の演技で演じ切ったのが
僕が乙羽信子氏を認識した最初だったのだ…。
後年「おしん」が再放送され…
SNSで「おしんチャレンジ」という企画が立てられた…。
つまり…「何人の人間が「おしん」を完走出来るか」の
チャレンジであるが…
皆田中裕子氏が演ずる「おしん若年期」で脱落して行った…。
「おしん」が本当にキツイのは…嫁ぎ先で流産の危険を抱えながら
重労働を強いられた「おしん若年期」なんだよ…コオロギくん…。
閑話休題
「絞殺」の見所のひとつが
マモーとおしん最終形態のセックスなのであるが…
些か上級者向けであるし…
乙羽信子氏の息子への「重たい愛」も
観ていてSAN値(正気値)を削られて行く…。
結果…本作を観ていて心が安らぐ瞬間は全くなく…
「コレが音に聞くATG映画か…」
と…ATGが実に僕好みの「酷い酷い酷い地獄」を作り出していたと知り…
嬉しい様な辛い様な…泣き笑いの表情となるのである…。
息子の狩場勉役を演じる新人の役者の名前は狩場勉。
コレ…どういう事かと言うと…
例えば…梶原一騎原作の「愛と誠」の実写版で
早乙女愛役を演じた当時新人だった女優さんの芸名として
「早乙女愛」がそのまま用いられ…
以降…この女優さんは「早乙女愛」と名乗っておられます。
つまり…「自分が最初に演じた名前付きの役」の役名が…
そのまんま…その(新人)俳優の芸名となって行く例は意外と多いのですね…。
本作のジャケットデザインには本作の粗筋が結末まで書かれており…
「『結末』は誰でも知ってるだろう?」
という製作者の露骨な目配せがイヤな気持ちになりますね。
こういう露悪的なやり方は「映画の中身」だけで十分で…
「外側」まで露悪的にする必要を何ら感じません…。
僕は本レビューの元となった内容を
Amazonレビューに投稿したのだが…
何故かリチャード・フライシャー監督の
映画「絞殺魔」のレビューとして掲載され…
とんだ「絞殺」違いに…
「いー加減にしてよミサト!」
とアスカと化して絶叫した思い出深いレビューを…
いま…こうして大幅に加筆して…
noteに投稿出来る大光栄に深く感謝するものである…。