フレデリック・フォーサイス原作,フレッド・ジンネマン監督の映画「ジャッカルの日」レビュー「『ジャッカル』は2度驚く。」
本作品はフレデリック・フォーサイスの同名小説が映画化されたものだ。
1962年8月フランスのシャルル・ド・ゴール大統領は
当時植民地であったアルジェリアの独立を認め
「アルジェリアは未来永劫フランスの一部」
と主張する軍部と右翼過激派の反感を買った。
彼らは自らを「OAS(秘密軍事組織)」と名乗り,連合し,
ド・ゴールの暗殺を謀るもことごとく失敗した。
OASの首脳部はオーストリアの山荘にアジトを構えるが
当然フランス当局によって監視され
ほんの小さな動きも見逃されず身動きができない状態となり
実質的に活動中止を余儀なくされている。
窮余の一策としてOASの首脳部はあらゆる組織に属さない
外国人の暗殺者を極秘裏に雇い
その暗殺者に法外な報酬と引き換えに
ド・ゴール暗殺を依頼するのであった。
暗殺者…30歳前後の金髪の男の
コードネームは「ジャッカル」と呼ばれていた。
勿論その動きを見逃すフランス当局ではなく
「ジャッカル」の正体を探り
暗殺を阻止するために動き始めるのであった…。
ド・ゴールは大統領を辞任後,
解離性大動脈瘤破裂で1970年11月に病死している。
彼の死因は「病死」であり「暗殺」ではないのだ。
故に何らかの理由で「ジャッカル」の
ド・ゴール暗殺は頓挫するワケだが
ソレを承知の上で映画を視聴しているのだが
微塵も緊張感が途切れることはない。
OASから報酬の前金が
天下のスイス銀行指定口座に入金されたことを知るや
「ジャッカル」は丹念に暗殺の準備を進めて行く。
この準備の描写があまりにも延々と淡々と続くので
逆に真実味を帯び些かも退屈しない。
パスポートの偽造方法,運転免許証の偽造方法,「別人」になる方法,
暗殺用の銃の調達方法,銃の試し打ちの方法等々が惜しげもなく
公開されているのでフレデリック・フォーサイスの原作本が
テロリスト必読の書となったというウソの様な実話がある。
「ジャッカル」は「007(ジェームズ・ボンド)」の様に
必要とあらば「寝技」を使う。
しかしジェームズ・ボンドとの違いがふたつある。
ひとつは必要とあれば、男に対しても「寝技」を使う点,
もうひとつは必要があれば「寝た相手」の命を
何の感慨もなく呼吸するかのように自然に奪う点だ。
一見「ジャッカル」は「命を持った機械」のような人間に思える。
しかし本作品において「ジャッカル」が2度驚く場面がある。
ひとつは車を運転しながら居眠りしてしまい事故を起こしてしまったとき
もうひとつは…重大なネタバレになるのでここには書けない。
本作品ではフランス当局が非常に優秀な人間の集団として描かれている。
一例を挙げるとフランス内閣閣僚のひとりが
OASが放った「くのいち」に籠絡され,
その閣僚自身が預かり知らないところでフランス当局の動きを
OASが「ジャッカル」に流していることを見破る場面。
フランス当局のルベル警視が閣議の席で
件の閣僚の寝室での男女の会話内容を盗聴しそのテープを流す。
閣僚のひとりが赤面しながら立ち上がり
閣議の場を去ってゆき自宅で自決する。
議長に
「よく『彼』と特定できたな」
と言われたルベル警視は表情ひとつ変えず
「閣僚全員の寝室での会話内容を盗聴していただけです」
と言い放つ。
是非皆様にも「ジャッカル」とフランス当局の
先の読み合い・騙し合いに手に汗を握って欲しい。