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石川清著「津山三十人殺し 最終報告書」レビュー「本書に『書いてあるコト』を信じて貰いたければ…まず質の悪い連中と手を切るのが先でしょう…?」

1938年(昭和13年)5月21日未明…
岡山県北部の山間の寒村で…
僅か1時間余りで30人もの老若男女が猟銃で…日本刀で…次々と惨殺され…
犯人もまた…3通の遺書を残して自害して果てると言う事件が発生した…。
この事件こそが「津山三十人殺し」と呼ばれ…
推理小説作家の横溝正史の霊感を刺激し「八つ墓村」を生み…
「津山三十人殺し」を映画化した「丑三つの村」を生み…
数多くのルポルタージュを生んで来た…。

僕は…「八つ墓村」も「丑三つの村」も読んだし観たが…
肝心要の「津山三十人殺し」に関しては未履修ゆえに
この際と思って本書を購入してみた…。

石川清氏は2001年に岡山県加茂町の「紫式部にまつわる伝説」を取材した
帰りに「『津山三十人殺し』の生き残りの女性」が
今もこの近くに住んでいると聴き…
2010年になって本格的に「津山三十人殺し」の取材を開始するに当たって…
この女性の家の呼び鈴を押すところから本ルポルタージュは開始される…。

石川氏は2011年にミリオン出版から「津山三十人殺し 最後の真相」を…
2014年には学研プラス社より「津山三十人殺し 七十六年目の真実」を…
それぞれ上梓されている…。

石川氏が…
「真相」や「真実」に拘るのには理由がある。
今まで「津山三十人殺し」関連書籍のバイブルとされて来た
筑波昭氏の
「津山三十人殺し 村の秀才青年はなぜ凶行に及んだか」(1981年)
を石川氏もまた「バイブル」として信じて来たのだが…
2010年に上梓された事件研究所発行の
「津山事件の真実(津山三十人殺し)」で…
「筑波本には『創作がある』」と指摘し…
第2版では筑波昭氏へのインタビューを敢行し…
筑波本の虚構性を告発するのに成功している…。

石川氏はこの…事件研究所主宰・森谷辰也氏の…
「疑問に思ったら…著者の元に直接取材に行き…真実を徹底的に追及する」
姿勢にすっかり惚れ込んでしまい…両者は意気投合し…
「津山事件の真実」第2版・第3版では両者の対談が掲載されている。
実際に両者の対談があったのは1度で…
最初で最後の対談となった…。
その対談のお膳立てをしたのが映画秘宝誌で…
2011年4月号に対談の模様が掲載されている。
縮小記事を見ると石川清氏はルポライターで
「事件研究所」はブログとある。

映画秘宝誌もまた…
権威ある映画誌・映画賞等の欺瞞や虚構を暴いて来た側面があり…
両者の「仲人」として適任と言える…。

石川清氏は…2年前の2022年6月に急逝され…
これまで上梓された著作「津山三十人殺し 最後の真相」及び
「津山三十人殺し 七十六年目の真実」に加筆修正され…
未完の原稿を有志の助力によって…
新たな取材成果として盛り込み…再構成し…
膨大な参考資料を付与したのが本作…
「津山三十人殺し 最終報告書」なのだ。
大大大大大労作であり…「最終報告」となったのは…
無論石川氏の本意ではないに違いないのだ…。
本編が6割,資料が4割と…非常な資料性の高さが見て取れる…。

「最終報告」の加筆箇所ですが
例えば石川清氏が最初に取材した
「『津山三十人殺し』の生き残りの女性」は…
「七十六年目の真実」が上梓された頃には御存命だったが…
2016年に他界され…
石川氏が訃報を受け取った際の想いが書き綴られている…。
「こうしたこと」で加筆するコトが出来ても…決して喜べはしないのだ…。

本書の執筆理念…と言うよりも石川氏の執筆理念から言って…
従来「常識」とされて来たコトを疑うコトが出発点となっている…。
その「疑念」の根源は筑波本が…
「取材もしないで創作で書いた」コトへの憤りがあり…。
「八つ墓村」で村を「貧しい」と記述しているコトに対しても噛み付き…
「取材すれば容易に分かるコトだが…」
「モデルとなった地域は豊かとは言えないまでも『貧しく』ない」
と非常に手厳しい。

石川氏は…「八つ墓村」が有名になった弊害で…
「八つ墓村」で書かれたコトが…「創作」で書かれたコトが…
「事実」と受け取られるコトに苦言を呈し…
創作者に対して
「『取材』もしねえでナニが『創作』じゃボケッ!」
と恫喝してるのだ。

さて…ここまでは本書の「良い面」を書き綴って来たが…
苦言も勿論ある。
従来の常識に疑問を呈し…「新説」を提唱するやり方は…
非常にしばしば「トンデモ学説」を生んで来た…。

例えば犯人が本当に殺したかったのは祖母であり…
その理由のひとつに祖母と血が繋がっていないコト…
「結核の血筋」だってんで一族を排斥され…
本来継げる筈の財産相続権を失った一因は…
血の繋がらない祖母が自分の手を引いて出奔したせいだ…
だから憎い憎い憎い血の繋がらない祖母を真っ先に殺した…

…という説では「残り29人」を殺した理由の説明が付かない…。
犯人が夜這いを拒絶されたから拒絶した女と女の家族を殺した…
自分に屈辱を与えた人間を片っ端から殺す…超自分本位な性格は…
「残り29人」がとばっちりで殺されたとは思えず…
犯人は可能な限り計画に従って…
自分の屈辱を与えた人間を含めて30人殺した…
という事実に則さないと思う…。

犯人が村の複数の人妻と肉体関係があり…
後に拒絶される様になった事実を…
「当時としては普通」
と犯行の主要因から除外する論法も到底承服出来ぬ…。
だったら何で殺されねばならん…。

ルポルタージュ(記録文学)の方が…
創作よりも「上」という…
超上から目線も気に食わん…。

トンデモ作家の分際で…
「八つ墓村」や「丑三つの村」より全然売れてない癖にッ!
両者を…創作を軽んずる言葉を吐くコトは絶対に許さないッ!

そして一番本書が眉唾なのは…
石川清氏と森谷辰也氏の対談をお膳立てしたのが…
映画秘宝誌であると言う事実である。

僕は…映画秘宝誌を信用することが出来ません…。
信用ならない相手がお膳立てした対談を…
いったい何をどう「信用しろ」と言うのですか…?

映画秘宝誌の所業を鑑みて…
「信用ならねえ」
と結論するのは当然でしょう…?

有体に申し上げて…
映画秘宝誌のお膳立てした対談に…
ホイホイ参加するおふたりに対する信頼感も…
ゼロどころかマイナス値なのですよ…。

映画秘宝誌の支持しか得られないと言うコトは…
どうせトンデモなんでしょう…?
「トンデモじゃない」なら…
何故映画秘宝誌の支持しか得られない…?

本書の記述内容を信じて欲しいなら…
先ず質の悪い連中と手を切るべきでしょう…?
質の悪い連中と手を切って!
初めて「本書の内容」を世に問える様になるのと違いますか?
コレはねえ…本書の内容を「信じる」「信じない」以前の問題です。

信用して欲しいのなら!
自分が信用に足る人間だと!
「証」を見せて下さいよ!
信用出来ない相手と付き合ってるうちは…
信用出来ませんな!

映画秘宝誌は…本当に気の毒な出版社だ…
こんな…他誌には絶対真似の出来ない本を作れる
器量と人脈がありながら…
「いつまで経っても大人になれない…」
「永遠の童貞中学生が本を作ってる…」
この…点がどうしても足を引っ張って自滅して行くのである…。

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