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映画「悪魔の受胎」レビュー「価値観の更新を一切認めない映画」。

「エイリアン」を観て,未来では,リプリーの様に常に冷静沈着で
男に対等以上に物申す女性が現れるのだと,窓から星空を眺めて,
未来予想図の構築に余念の無いSF少年少女達の首根っこを掴んで
「残念だけど,そんな未来は永遠に来ないんだ」
と「本当の事」を教えてくれるのが本作である。
本作に於ける女性は常にヒステリックで感情的で
上司として極めて不適格で,冷静な判断が出来ず泣き喚き,
パニックを起こした挙句,宇宙ノコギリで自分の足を切断する
極めて短絡的存在が
気色悪い宇宙生物に孕まされて気色悪い宇宙生物を何匹も産まされる有様。

女は「子供を産む機械」じゃ無くなった筈なのに…本作に於いては
「気色悪い宇宙生物の子供を大量に産む機械」と化しているのだ。

ホントにね…初見の方は漏れなく引っくり返って
蛇蝎の様に嫌悪される方が続出する事請け合いなのだ。

本作では価値観が宇宙世紀に更新された人々を前時代に戻す
おぞましきアンシャン・レジーム((フランス)革命前の旧体制)
が延々描写されてるのだ。

今挙げた女性の特徴はSF映画の新たな価値観には全くそぐわないが,
殺人鬼に追いかけられ泣き叫びながら逃げ惑うだけの
ホラー映画の女性にはピタリと当てはまる。
本作はホラー映画が前時代的である証明となってるのだ。

本作は価値観の更新が全く行われなかった
旧態然としたホラー映画の文法で描かれた,
新たな価値観を一切認めない
「SF映画が提示した新しい価値観を全否定する映画」
なのだ。
ひょっとして未来の地球には人種差別も国境も争いも無くなって
男女平等な世界連邦が樹立するかも,
と考える向きの横面を張り倒し,泥の中に顔を突っ込ませる
「夢見てねえで現実を見ろ」
と教えるのが本作であって,
一切の未来を否定するホラー映画の特徴でもあるのだ。
故に決して万人向けではない。
SF映画が見せて来た
「未来では男と女が対等に渡り合える」
って夢を暴き
「そう簡単に人は変わらねえよ」
って現実を見せて幻滅させているのだ。

僕は本作を観て,余りの身も蓋も無さ,
余りの何も変わらなさに震え上がったので,
夢から覚めて辛い現実と向き合った子供の様に
涙目になりながら5つ星を進呈する次第である。

映画館でいい夢を見て「外の世界」の余りの変わり映え無さに
夢が儚く壊された経験は誰にでもあるだろうが,
映画の中で叩き起こされた心境となるのである。

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