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映画「モンスター・パニック」レビュー「この上なく美しい光景」

かつてはサケ漁で栄えたものの今は不漁で鄙びた漁村にサケの缶詰工場を誘致し同時にサケの成長を促進する研究を進め漁獲高を増やす事を力説する缶詰工場社長に一際大きな拍手を送るのは町の有力者ハンク(ヴィク・モロー)と配下の者たちだ。
それに対して缶詰工場の誘致を漁業権への侵害と主張し,父祖伝来のこの土地を守る事を主張するのが先住民のジョニー(アンソニー・ペーニャ)。
ジョニーは白人の弁護士を雇い「白人の法律で白人を裁く!」と息巻く。
ハンクとジョニーは事あるごとに言い争っている。

そんな中,町中の犬が何者かに惨殺される事件が起こり,ジョニーの犬だけが難を逃れた。
当然ハンクはジョニーを犯人と決めつけ,ジョニーの犬が何者かに惨殺される。
怒り心頭に達したジョニーはハンクと乱闘騒ぎになり両者の反目は決定的となる。
ハンクはジョニーが弁護士を雇い缶詰工場誘致が白紙撤回される事を恐れ,配下の者たちに「あのインディアン野郎を殺せ」と命じ,夜陰に乗じてジョニーの小屋に火を放つのであった…。

こうして粗筋を書いて来たけど一度も「半魚人」の話が出て来ない。
観客は皆ビキニの女があられもない姿で半魚人に襲われるのを期待しておりプロデューサーのロジャー・コーマンもその期待に応える様,バーバラ・ピータース監督に釘を刺してる筈なのだが彼女はさあ見世物映画にしたくなかったのですよ。
観る人が観れば分かって貰える「話」を創りたかったんです。

僕が本作で一番感動したのは半魚人が大挙して町を襲って,小さな女の子が逃げ遅れた時にハンクが一瞬も迷わずに女の子を助けて「この男…私利私欲だけの人間じゃなかったんだ…彼なりに町を愛してるんだ…」と仰天させ,その一部始終を見ていたジョニーが窮地に陥ったハンクを援護して迷わず手を差し伸べる所。
ジョニーはさあ犬を殺されたり小屋を燃やされたりしてる「私怨」と「目の前で困ってる人を助ける」って「人として当たり前の事」を決して天秤にかけない男なんですよ。
ハンクのバツの悪そうな顔がアップになって,それからおずおずと手を伸ばしてジョニーと固く手を握る場面を観てね,幾らロジャー・コーマンに「女のオッパイを撮れ」って言われても「私は!この場面が撮りたいんだッ」って我を通したバーバラ・ピータース監督に涙涙ですよ。

恐らく半魚人の来襲で缶詰工場誘致は頓挫するだろうしハンクとジョニーはこれからも言い争い続けるだろうが,この世には「この上なく美しい光景」があって,その「美しい光景」を観られただけで僕は満足である。
コーマン的には「女のオッパイ」は重要だろうけどバーバラ的には「女のオッパイより,もっともっと重要なものがある」と描いて見せる事の方が100万倍重要なのだ。

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