映画「溶解人間」ブルーレイレビュー「♪俺たちゃ溶解人間なのさっ♪」
土星探査のため遥々地球から土星にやってきた有人宇宙船。
土星の環越しに見える太陽のコロナが
「悪魔のいけにえ」のオープニングを彷彿とさせ実に美しい。
だがしかし突如宇宙からの特殊光線が宇宙船を襲う。
宇宙船に搭乗している宇宙飛行士スティーヴは、鼻血を流して意識を失う。
次に彼が目覚めると,いつの間にか地球に戻っており,
なぜか病院のベッドの上に拘束されている。
なぜかは理解できないが体に力が漲っているのが分かる。
力任せに起き上がると拘束具が弾け飛び
スティーヴは立ち上がることに成功する。
病室には鏡があり鏡で自分の姿を見ると
顔が包帯でグルグル巻きにされている。
包帯をほどき改めて自分の姿を見ると
顔や手足がドロドロに溶け続けている。
これが…これが俺の姿なのか?
「だから宇宙からの特殊光線が,スティーヴに作用して,
溶解人間になりつつあるといってるんです!」
錯乱し激昂した彼は病室を飛び出し,近くにいた巨漢の看護師を発見する。
看護師は彼を目撃し,その姿に悲鳴を上げ彼から一目散に逃げようとする。
ますます激昂した彼は看護師を追い屋外で遂に彼女に追いつき
彼女を襲い,なぜかその肉を喰らう。
彼は行く先々で人を襲い,その肉を喰らう。
その間にも溶解は進み続け,彼の人間としての「原型」が失われて行く。
時折,人間としての記憶が甦る描写が,より一層の悲惨さを演出する。
彼の当てのない旅の「終点」は何処なのだろうか…。
本作品の禍々しいジャケットデザインを見て購買意欲が増進される
そんな貴方と後楽園遊園地で握手したい。
溶解人間と化したスティーヴの溶解描写が凄まじく
リック・ベイカーの職人技にただひたすらに唸る。
溶解人間は溶解が進めば進むほど戦闘力が増すという
ジャッキー・チェンの「酔拳」やスーパーサイヤ人もビックリな設定に
僕も驚きを隠せない。
本作品は低予算映画なので
地球から土星へと向かうロケットの発射場面は音声のみの描写で済ますか,
実際のロケット発射場面の映像の「借用」であり
土星から地球へと帰還する場面に至っては描写が一切存在しない。
また溶解人間が人を襲い,さあ,お待ちかねのゴア描写大炸裂だ!
と期待していると事後描写のみがあって
「一番大切なゴア描写がねえええ!」
と僕が叫んだこと一度や二度ではない。
本作品の低予算の殆んど全てが溶解人間の溶解描写に充てられているのだ。
この割り切りの潔さに,いっそ感動を覚えるわ!
…だがしかし夕暮れの坂道をトボトボ下る溶解人間のシルエットは
息を飲むほど美しく不覚にも落涙する。
肉体も記憶も失われる中,最後に残った「人間らしさ」とは一体何なのか。
これは必見の場面だ。
「ぶっちゃけ溶けるに任せておけば,勝手に溶け切ってしまうのでは?」
と突っ込む方もおられるだろう。
僕も初見の際,そう思った。
その当然の疑問に対する「回答」が
本作品中でキチンと描かれているので御安心願いたい。
また
「溶解人間がなぜゾンビの如く襲った人間の肉を喰らうのか?」
の疑問に関しても一応作品中で「説明」があるので
この点についても御安心願いたい。
本作品には
「過度の宇宙開発競争が生んだ悲劇」
という「故郷は地球」的な一応もっともらしい「主題」が設定されている。
だがしかし僕は本作品の「隠し主題」を以下のように受け取った。
『本作品の主人公が肉体や記憶が徐々に失われそれに呼応して人間性をも
失われ「人間」から「人間のようなもの」に変貌してゆく過程を丹念に
描写することにより我々ひとりひとりが姿形は人間でも
日々単調に繰り返される生活の中で肉体は徐々に衰え,
また人間性をも徐々に失われ程度の差こそあれ
「人間」から「人間のようなもの」へと
変貌してゆく様を浮き彫りにしているのだ。
つまり我々ひとりひとりが「溶解人間」なのだ。』
スティングレイブランド作品としては異例の特典映像の少なさが
チト寂しいが本邦独自の特典として
職人リック・ベイカーの独占インタビューもあるし
日本語吹替も搭載されるし
それに何よりも僕はBDの高画質・高音質で本作品を堪能したいんじゃあ!
買い一択大確定!
追記:本商品が届き一通り視聴を完了したので所見を述べる。
画質に関しては
1.作品冒頭の太陽及びコロナの映像。
2.作品冒頭の窓から見える宇宙空間と宇宙船の姿。
3.作品終盤のロケット発射場面。
の3点の画質に難を認める。
上記3点の共通項は実際に撮られた映像を許可を取って
「素材」として借用している点である。
何度も使い回された「素材」ゆえ画質が悪くなっている。
上記3点を除くと「夜」の場面で時折夜空に白い泡上のノイズが
若干認められ,教会横の墓地に溶解人間が訪れる場面で粒上のノイズが
認められる程度で基本的に発色良好,退色皆無,解像度抜群の
画質であるといえる。
音質は英語音声,日本語吹替音声ともに良好でヒスノイズも皆無。
押しなべて力強く滑舌のいい会話が堪能できる。
日本語吹替音声がカバーされていないのは、
1.3人の子供が喫煙する場面。
2.カメラマンとモデルの女の子が胸を見せろ見せないので口論となり
モデルの女の子がカメラマンを激しく非難する場面。
3.実の母親とその男友達の消息が絶え心配する娘ジュディに向かって
些か以上に配慮に欠ける発言をしたペリー将軍にジュディが激昂し
将軍と夫テッドを激しく非難し家から追い出す場面。
の3か所である。
本商品の日本語字幕作成担当者は「安心と信頼の」落合寿和氏。
特典映像のうち「ビデオ版予告」とは日本で本作品のビデオを
リリースしていたRCAコロンビア社の
他タイトルに収録されていたバージョンである。
独特の日本語テロップを生かすため本特典のみ落合氏は関与していない。
本商品の特典映像には「イースター・エッグ(隠し特典)」が存在するが
隠し特典の視聴方法がブックレットに記載されているので
御安心願いたい。
内容は観てのお楽しみ。
本商品の特典映像の目玉が
「リック・ベイカー スペシャルインタビュー」
である。
本特典を視聴すると英国アロー社や北米ブルーアンダーグラウンド社の
特典映像の「作法」を相当意識した作りとなっていることが分かる。
本インタビュー中,「エクソシスト」の特殊メイクが
あたかもリック・ベイカーの手柄のように宣伝され
(オリジナル劇場予告編B参照),慌てて彼が師事する
ディック・スミス(「エクソシスト」の特殊メイク担当)に
謝罪の電話を入れた挿話が興味深かった。
本商品のブックレットの目玉は本作品の監督である
ウィリアム・サックスの音声解説の抜粋に
スティングレイ社の岩本代表がコメントしている記事であろう。
どうしても監督の音声解説を入れたかった岩本代表ではあるが
折衝が不調に終わり本商品に音声解説を搭載できなかった。
しかし,ここで諦めないのが岩本代表の代表たる所以であり
音声解説の特に重要な発言を翻訳し
ブックレットに収録することに成功したのだ。
この音声解説抜粋集を読むと監督の当初の構想では「溶解人間誕生秘話」が明かされるのは物語の終盤であり溶解人間は当てもなく彷徨っているのではなく「ある目的」を果たすために意図的に行動しているのだと分かる。
残念ながら監督の当初の構想は諸事情により
部分的にしか実現できなかった。無念。
うーん…音声解説全文を見聞きしたかった…!
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