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ジャウマ・コレット=サラ監督 ブレイク・ライブリー主演の映画「ロスト・バケーション」レビュー「不撓不屈(ふとうふくつ=如何なる困難に直面しようと決して挫けないさま)の女」

医学生のナンシー(ブレイク・ライブリー)が
「いい波」を求め,とある渚を訪れる。

彼女の趣味のひとつにサーフィンがあり
忙しい合間を縫って,この渚へとやってきたのだ。

サーフインを始めて暫くすると
ふたりの男がやってきてサーフィンを始める。

例え言葉は通じずともサーフィンを愛する気持ちに何の変わりがあろうか。
ナンシーは気楽にふたりのサーファーに声をかけ
相手も手を振りながら応える。

束の間の充実のひとときが3人のサーファーたちを満たしてゆく。
やがてふたりの男が海岸に戻り帰路につく。
「いい出会い」を堪能したナンシーは彼らを見送るのであった。

暫くひとりでサーフィンを続けていたナンシーは
沖の方からクジラの亡骸が多数のカモメを伴って流れてくるのを目撃した。
ナンシーがクジラの亡骸に近づくとすぐに「死因」が判明する。
ガブリと肉が喰い千切られている…!

そのときである。

ナンシーの左脚が「何か」に引っ張られるような感覚が
激しい痛みを伴って襲ってきたのだ。
ナンシーは海中で「何か」の正体を目撃した。

鮫だ,鮫がクジラ同様に自分を喰おうとしている!
周囲を見渡すと近くに岩礁があり
ナンシーは懸命に泳ぎ,その岩礁に縋りつく。

岩礁で自分の左脚を見たナンシーは卒倒しそうになる。
痛々しく傷ついた左脚から血液が流れ出していて直ちに止血の必要がある。
失血死を防ぐため,は勿論だが,それよりも流れ続けている血液が
海面に到達し,血の匂いに鮫が反応することを恐れたのだ。

助けを呼ぶためのスマホも応急処置用の救急救命アイテムも
全て海岸のリュックの中だ。

岩礁から海岸までの距離はおよそ200メートル。
普段なら何ということもない距離が
現在のナンシーにとっては遥か遠くに思える。

そしてナンシーは恐るべきことに次々と気付く。
鮫が自分のいる岩礁の周りを
ゆっくりと何ら慌てることなく旋回していること。
自分が鮫を撃退する為の方策を何ら持ち合わせていないこと。
加えて夜の帳が降りてくると「寒さ」も敵となる。

何より潮が満ち始めれば,この岩礁が水没してしまい,
鮫から自分の身を守る「足場」を失うということだ。
ナンシーと鮫との絶望的な戦いが今幕を開けようとしているのだった…。

この映画は原題を「浅瀬」といい…
「浅瀬に鮫が出るのか?」
と常識を振り回す向きもいるだろうが…

キミ。

最近の鮫は空を飛んだり…ツイスター(竜巻)の中にいたり…
死霊と化した鮫もいるのですよ…?

浅瀬に鮫が出るくらい何だ。

徒手空拳で人間と鮫とがガチンコ勝負をすれば圧倒的に人間が不利だ。
加えて人間は左脚を大怪我しているとするなら尚更だ。

その絶望的不利をどう乗り越えてゆくかが本作品の肝となっている。
ナンシーは決して捨て鉢にはならず
最後の最後まで生きる努力を諦めない性格で
それが唯一鮫に勝る彼女の「強味」となっている。

本作が一番素晴らしいのが結末で
「不撓不屈の女」に相応しい内容となっている。

最後に豆知識をひとつ。
本作品に登場する岩礁に羽が傷つき群れから逸れたカモメがとまり
そのカモメの境遇とナンシー自身の境遇とを重ね合わせ
彼女の心を癒してくれている。

ナンシーが,そのカモメを
「スティーヴン・シーガル(Steven Seagull)」
と呼ぶ場面がある。

これはカモメ(Seagull)と
御存知天下無敵の男「スティーヴン・セガール(Steven Seagal)」
とをかけたジョークなのだが
残念なことに日本語字幕にそのジョークが反映されていない。

ナンシーが絶望的状況下においても決してジョークを忘れない
大変な胆力の持ち主である証明となっている名場面なだけに惜しまれる。

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