ロベール・アンリコ監督の映画「追想」レビュー「知られざる…大大大大大復讐映画をッ…涙を流しながら戦う温厚な男のッ…「怒りの落とし前」をッ…大刮目して見よッ!」
僕は…恋愛映画に全く関心がない。
ソレは僕が…「形のないモノ」が信じられんからで
「愛」だの「恋」だの「友情」などがその最たる例で…
「愛」を「婚姻届」の様に書面にして役所に提出して貰わないと…
「形」にして貰わないと…
「愛が存在する」コトを証明して貰わないと…
決して絶対信じるコトが出来ないのだ。
そんな心象風景が殺風景な荒野の
僕が推す極めて数少ない「恋愛映画」が…
この…ロベール・アンリコの「追想」なのだ。
ダレも知らないでしょう…?
知っているワケがないッ!
でも「知らない」のも無理からぬコト…。
「追想」…ツイソーって聞いてもどんな映画か全く分からない。
例えば「ピラニア」って聴いたら…
ピラニアの群れが行楽客を襲う映画って分かるし…
「スペースインベーダー」って聴いたら…
「ゲームセンターあらし」こと石野あらしが
ゲームの腕を見込まれて…地球の命運を賭けて…
「炎のコマ」「水魚のポーズ」「エレクトリックサンダー」等々の
数々の必殺技(テク)を駆使して…
宇宙人と「スペースインベーダー」勝負する話だって分かる…。
「正しい」かどうかなんてどうだっていいッ!
問題は!
映画の題名は!
一瞬で即覚え出来て!
絶対に忘れられず!
しかも未だ見ぬ映画に対して!
無限の想像力を喚起させ!
観客を映画館に呼ぶという…
大大大大大使命があると言うのに!
この…「追想」はッ!
なッにッひッとッつッ!
それらの大大大大大使命を果たしてないってコトだッ!
僕はこの映画を子供の頃…
自宅で吹替で観た…。
忘れ難い一場面がある。
鏡の前にナチの将校が立ってて,
その鏡がグニャアっと歪み始め…。
だが肝心の映画のタイトルが分からない。
長年喉に魚の小骨が刺さったかの様な違和感を感じていたのだが
2011年に町山智浩氏が上梓された「トラウマ映画館」を読んで,
ようやく長年の疑問が氷解したのである。
映画の邦題は「追想」。
本レビュー冒頭で紹介した場面が印象に残ってるのは僕だけでは無かった。
映画監督のクエンティン・タランティーノは,
この場面を…
「この映画で一番素晴らしい場面」
として挙げられてる。
1944年5月ナチス支配下のフランス。
連合軍の上陸作戦を控えてフランス国内では
レジスタンスが後方攪乱などの妨害活動をしていた。
ナチはレジスタンスの掃討作戦を始め,
路上の街灯に処刑したレジスタンスを見せしめとしてぶら下げた。
南仏の街モントーバンに住む外科医のジュリアン(フィリップ・ノワレ)の
もとにも負傷したレジスタンスが担ぎ込まれて来る。
彼は医師の当然の務めとしてレジスタンスの治療行為を行ったのが
ナチの知る所となり「ナチに目を付けられた」彼は
妻クララ(ロミー・シュナイダー)と娘を自分の故郷に疎開させる。
6月6日に連合軍のノルマンディー上陸作戦が実行され,
胸騒ぎを覚えたジュリアンが故郷に戻ると村には誰も居ない。
村の教会には村中の住民の死体が山積みになっていた。
女も子供も老人も…皆殺しだった。
史実に因ればノルマンディー上陸作戦の4日後(6月10日),
「オラドゥール・シェル・グラヌの村民の殆どがレジスタンスだ」
との密告を受けたナチの武装親衛隊(SS)はオラドゥールの村に入り,
男は納屋に集められ機関銃で皆殺しにされた上,納屋に火を放たれた。
女と子供は教会に閉じ込められ火を放たれた。
これがナチのレジスタンスへの報復だった。
ジュリアンの故郷の村でも「同じ事」が起きていた。
一縷の望みに縋って,父から継いだ城に向かうと,
妻は娘の前で暴行された上に火炎放射器で焼かれ消し炭となり,
娘も惨殺された後に火炎放射器で焼かれていた。
ナチは城でシャンパンを飲みながら,
妻子が生きていた頃の記録フィルムを観ながらゲラゲラ笑い寛いでいる。
コイツら全員ブッ殺してやる…皆殺しにしてやるッ!
妻と娘と…
同じ苦しみを味わって死ねェェェッ!
ジュリアンは,そう固く心に誓う…。
彼のたったひとりの戦いが始まるのであった…。
ジュリアンが父から継いだ城には
城主しか知らぬ侵入者撃退用のカラクリの数々があり,
彼は父からそのカラクリをも継いでいて,
ナチを撃滅する為に最大限に活用する。
今の若い人はきっと…
「『ダイ・ハード』みたい」と思われるだろう。
敢えてその連想に乗ると…
本作は妻子の事を「追想」し,
涙を流しながら戦う…
地味で温厚なマクレーンの話なのだ。
レビュー冒頭で紹介した「僕の記憶」は…
最後にたったひとり残ったナチの将校を,
ジュリアンがどう仕留めたかのネタバレとなる。
どうか妻子を焼かれた男の「怒りの落とし前」を
御自分の目で確かめて頂きたい。
ジュリアンの「追想」で忘れ難いのは
クララとの馴れ初めである。
ジュリアンは初対面のクララを黙ってガン見し続けるのだ。
「あの…一体何のおつもり?」
「何故私をずっと見ていらっしゃるの…?」
「分かってる癖に」
その夜…「男女の仲」となったクララの
「私…誰とでも寝る安い女じゃありませんから(キリッ)」
って言葉を「追想」しながら涙を流すジュリアンがもうね…。
町山氏が「トラウマ映画館」を上梓されてから間もなく,
本作は初DVD化された。
吹替も搭載されていてジュリアン役の声の出演は石田太郎氏。
初TV放映は1979年11月12日放映の月曜ロードショーだと言う。
勿論こんな「偶然」などがあるワケがなく…
町山氏も僕と同じ様にTV放映が「初見」であって,
DVD化に当たって町山氏が尽力された事が慮られるのである。
同年12月15日に公開された「ルパン三世 カリオストロの城」でも,
石田太郎氏は「カラクリの多い城の城主役」を好演されている。
こちらは勿論単なる偶然だが
何かしらの運命的な意味を持たせたくなる衝動に駆られるね。
僕は…「愛」だの「恋」だのと言った…
「形がないモノ」は信じられない…
なれど…
「憎い」「殺す」という感情は信じるよ…
「愛憎(あいぞう)」の…
「愛」はまったく信じられんが
「憎」は大いに信ずるというワケだ…
僕はロクデナシの…
ロクデナシ映画愛好家なので…
僕が「恋愛映画」のレビューを書くと…
こうなります。
男と女の恋愛の…
砂糖菓子の様な甘さを伝えようと努めはするのですが…
僕は生来サービス精神が旺盛なものだから…
つい皆さんにこう尋ねてしまうのです…。
「ごいっしょに『地獄』もいかがですか?」
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