フィル・スティーヴンス監督の映画「フラワーズ01&02」レビュー「ヒトの魂を癒す医師」
漫画家の近藤るるる先生の「アリョーシャ!」(2011年)という作品は…
生まれたときから暗殺者としての訓練を受けた殺人機械アリョーシャが
日本の高校に潜伏してソレシア連邦のプーシュキン大統領が訪日した際,
コレを暗殺したのち服毒自殺するコトを命じられる…
という幸か不幸か今では実に「タイムリー」な漫画となったワケだが…。
暗殺の実行直前にアリョーシャが「育ての父」とも頼む
「大佐」から暗殺中止命令が入り
「普通の女子高生として生きろ」という命令を最後に音信が途絶する…。
「普通」…?
「普通」とは一体なんだ…?
ワタシは…生まれてこの方「暗殺」の訓練しか受けておらず…
「普通」に生きる訓練など受けていない…。
ともあれ「大佐」の命令は絶対だ…。
命令通り「普通」に生きることとしよう…。
この「アリョーシャ!」という物語は…
生粋の暗殺者が「普通」に生きようとする
ギャップに萌える漫画なのであるが…。
第6話より飛び級でCIA捜査官に任ぜられた
ケイティという16歳の少女が来日してアリョーシャに接近する…。
表向きは暗殺者アリョーシャの内偵なのであるが…
クライマックスでケイティの「本音」が炸裂する…。
「周りの連中はワタシのコトを…」
「ナード(オタク)ってバカにしてたケド…」
「ワタシはギーグ(知識人)よっ」
「日本のOTAKU文化は…」
「ジョック(体育会系)やクイーンビー(高飛車なオンナ)なんかに…」
「理解出来るもんですかっ」
「日本人のキャラクターに対する愛情は世界一だわっ」
「街の至る所に可愛いキャラがいっぱい!」
「街行く大人が普通に漫画を読んでゲームをして!」
「テレビでは週に70本新作アニメ放送して!」
「こんなCOOLな国,世界の何処にも存在しないわっ!」
「私ずっと日本に来たくて,ようやく来ることが出来たの!」
「チョー幸せっ!」
実を言えばなコオロギくん…。
僕は「アリョーシャ!」のレビューにかこつけて
「ケイティの話」がしたかったのですよ…。
1.ナード(オタク)は知識人
2.大人が普通に漫画が読める国は地球上で日本だけ。
3.大人が普通にゲーム出来る国は地球上で日本だけ。
4.週に70本新作アニメを放送する国は地球上で日本だけ。
という…日本という国が…肩身の狭い思いをして
OTAKU活動する海外勢から見たら…
信じられん程恵まれた国であると…
ケイティは延々延々褒め続けるのだ…。
こっから先は僕の私見となるが…
「オタク」と言うのは…
「内心の自由」が保証されているのをいいコトに…
日夜あらぬ妄想に励む生き物であると愚考する。
いま…僕の手元に1991年発行の
「ウィザードリィ」のゲーム同人誌があり…。
奥付に次の様な替え歌が書き綴られている…。
♪闇に隠れて生きる…
♪俺たちゃ同人人間なのさっ…
この替え歌は「妖怪人間ベム」という
怪奇アニメの主題歌が元ネタとなっている…。
♪闇に隠れて生きる…
♪俺たちゃ妖怪人間なのさっ…
つまり…「内心の自由」を担保にして
自分の妄想を同人誌に書き殴り…
あまつさえその同人誌を頒布する自分達は…
闇に隠れて生きる「妖怪」であり…
夜の帳を跳梁跋扈する「闇の眷属」であると…
些か以上の自尊心と選民意識を顕わにしているのである…。
ちなみにこの同人作家さんは女性で…
キメッキメにドレスアップされた姿で
同人誌を頒布されておられたのです…
僕はもっとシンプルに「オタク」と言うのは…
一言で言えば奇異を好む変態(ヘンタイ)だと思ってるよ…。
ヘンタイと言うのは…
ヘンタイ的なウルトラゴアホラー映画を愛好したり…
ヘンタイ的な医師がオンナを開腹して
内臓に手を突っ込んでクリトリスを内側から刺激して
イかせる小説を愛好したり…
ヘンタイ的な幼女愛好癖を持っていたり…
ヘンタイ的な兄が生き別れの弟をそうとは知らず食って
良心の呵責で煩悶する小説を愛好したり…。
「健常者」の皆さんが
「オタク」を目の敵にするのは当然で…
「オタク」を絶滅させないと…
未来永劫「健常な社会」が訪れないと嘆くのも当然。
オタクは…水と空気のキレイな場所では生きられない…
「澱み」の中でしか生きられない生き物なのです…。
確かに漫画やアニメやゲームでは…
日本の「オタク度」が高いのでしょうが…
当の日本のオタクは…それ程鼻高々ではないと思ってます…。
ソレは一体何故なのか。
ソレは…海外のウルトラゴアホラー映画が…
「きッわッめッてッ奇異」だからで…。
その「死ぬ程奇異な映画」として本論考で紹介したいのが…
フィル・スティーヴンス監督の「フラワーズ」なのです…。
人間の内臓を思わせる「腐肉の迷路」を
6人のオンナが…
それぞれ別々に「出口」を求めて彷徨う映画で…
オンナたちの肉体には外科手術の直後であるかの様に
生々しい縫い目が付いている…
オンナたちの「記憶」は不鮮明かつ部分的で…
ただ…「円卓に集合せよ」という…
本能みたいな何か…脳の奥から湧き上がって来て…
「本能みたいな何か」の命ずるまま
6人はそれぞれ「出口」よりも
「円卓」を優先して目指し始める…。
やがて6人が「円卓」に到達し…
全員が着席すると…
不意に「真実」が判明する…
6人の「部分記憶」は…
6人全員が円卓に勢揃いしトキに「完全な記憶」となり…
自分達がキチガイの人殺しに犯されて八つ裂きにされて殺された挙句…
「キチガイの人殺しの記憶」を部分的に移植されて甦った
出来損ないの人造人間=死体であるという「真実」に到達する…
死んでからもあの…自分達を犯して殺した…
キチガイの人殺しに支配され続けているという「真実」にな…。
6人の出来損ないの人造人間は…
自分達が…
花(フラワーズ)は花でも命のない造花であると知り…
「自我」に目覚めたフラワーズは…。
キチガイの人殺しによって与えられた
「かりそめの命」を拒絶して果てて行く…。
その光景こそがキチガイの人殺しが
「見たかったもの」であると描いて映画は閉じる。
「フラワーズ02」ではこの…キチガイの人殺しが自殺して…
「キチガイの人殺しの記憶の隘路」を「ミドリ」という…
生きても居なければ死んでも居ない
チェシャ猫の如きオンナが探索する模様が描かれ…
「理屈」で雁字搦めになった監督の構築した
「記憶の隘路=理屈の迷路」を…
「ウルセェェェェェよ!」
と叫びながら壁をブチ壊して進むこととなります。
「少女に自分をブチ壊して欲しかった」んだなあ…
フィル…このッ…骨の髄までオタクの鑑がッ!
日本人が…日本人のオタクが…
その妄想力に於いて世界に冠たる存在であると…
驕り昂ろうとするとき…
フィル・スティーヴンスというオトコが…
静かに異議を申してている事実を忘れてはならないと思う…。
日本人オタクが「世界一」と驕り昂りたいのなら…
先ずフィル・スティーヴンスを妄想力で倒してから言わないとね…。
最後に少々「最近のオタク」っぽいコトを言いたいと思う。
現実(リアル)でどれ程辛い目に遭っても…
家に帰れば「フラワーズ01&02」のジャケットデザインを担当された
同人作家の皐月臨さんのサイン入りジャケットが待っていると思えば
明日からも生きて行ける…。
まこと優れた創作はヒトの命を延ばし…
また心の支えとなるのである…。
創作者の皆さんは
「ヒトの魂を癒す医師」
であるとの大いなる自負と自信を持って
今後も内心の自由を背景に
大いに妄想を原稿に書き殴って
僕の寿命を延ばしていただけたらと
希うばかりなのです…。