クワハリさん原作・出内テツオさん漫画の「ふつうの軽音部」第3巻レビュー「オマエがワタシに…『関係ない』と言うのなら…ワタシは積極的にオマエと『関係』し…オマエに物申してやるッ!」
本巻では前巻でバンド・プロトコルのボーカル・鷹見項希(たかみこうき)と
バンド内で付き合っていたギター・藤井彩目(ふじいあやめ)が
鷹見から別れ話を切り出され
「ワタシのナニが悪いって言うの?」
「言ってよ!」
「直すから!」
と錯乱して結局別れてプロトコルに居られん様になってからの
「続き」が描かれる。
僕は…てっきりこの話を…鳩野ちひろ(はとのちひろ)を
「神」と崇める幸山厘(こうやまりん)が
「神」をプロデュースする話と受け取り…
以下のレビューを書いた…
(再録開始)
「幸山厘による藤井彩目の説得」
が実に凄まじい内容なのだ。
藤井は交際していた同じバンドの男子(鷹見)に
別れ話を切り出されバンド内に居場所がなくなる。
ソコをすかさず幸山が勧誘するのだ。
「(今まで崇拝していたオトコに捨てられた)
藤井さんには新しい「神」が必要やと思う…」
「彼氏はダメやで」
「恋人なんぞよりも圧倒的で絶対的な「神」が…」
「ワタシ達「弱い人間」には…「神」が必要なんよ…」
幸山の「やっていること」は鳩野を「御本尊」とする新興宗教の勧誘であり
「勧誘」を容易にする為に「標的」の人間関係がズタズタにするのに
積極的に加担し,人間関係をズタズタにしたのちに優しく声を掛けるのだ。
(再録終了)
でもな。
「ソレ」は違ったんよ…。
第2巻で藤井をフッた鷹見は
同じバンドのベースの田口と「藤井の話」をする…。
鷹見「いや~彩目やろ?」「アイツ…」
「マジダルいって」「あのメンヘラ(情緒不安定)オンナ…」
この…鷹見の発言を聞き咎めた鳩野は激昂し…
鷹見に対して口論を仕掛ける…
鳩野「『メンヘラ』って言い方はあんまりでしょ…」
鷹見「向こうはSNSでこっちのコト…」
「オンナったらしのクソマッシュルームアタマって言ってるで…」
「ボクを一方的に非難するのは不当である」
鳩野「オンナと付き合い始めて…」「直ぐ別れるのはおかしい…」
鷹見「付き合ってみて性格が合わなんだら…」「別れるのは当然である…」
「ボクを一方的に非難するのは不当である」
鷹見はさあ…。
「北斗の拳」のモヒカンアタマみたいに
「誰がどう見ても悪党」ってキャラクターデザインになってないんよ…。
「オンナったらしのクソマッシュルーム」は…
つい最近まで付き合っていたオンナによる「鷹見の評価」であって…
プロトコルのドラムの遠野元(とおのげん)による「鷹見の評価」はこうだ…。
「オンナをしょっちゅうとっかえひっかえするのは
如何なものかと思うが…」
「基本的に気さくな(=人柄や態度がサッパリして明るく物事に拘らない)
男と言える…」
「オンナったらしのクソマッシュルーム」も「気さくな男」も
共に鷹見の人となりをよく表す「正当な評価」であり…
「人の評価」と言うのは常に相対的であり…
鷹見を「オンナったらしのクソマッシュルーム」と非難するのは
鷹見が主張する通り「一方的で不当な評価」なのである。
だが…鳩野ちひろという人間は…
鷹見の展開する「『人の評価』は常に相対的である」
「従って無関係のオマエにとやかく言われたくない」
という「正論」に対して次の様に吠えるのだ…。
鳩野「鷹見…オマエは…オマエをスキになってくれたヒトを…」
「オマエをスキになってくれたヒトの心を傷付けた…」
「その自覚くらいは持つべきである…」
「ワタシは…オマエとも…藤井さんとも無関係だが…」
「オマエの『メンヘラ』って物言いが無性にムカツクんだ…」
「昔のジャンプ」だったら…
鳩野が鷹見を鉄拳制裁して…
月までブッ飛ばして…
読者の留飲を下げる展開にしたと思う…
でも…「今のジャンプ」では…
そんな暴力的なやり方は通用しないんよ…。
鳩野のこの…無関係な人間達に強制的に関係して行く…
「オマエが『関係ない』と言うのなら…『関係』してやるッ」
という…昔のコトバで言えば…「おせっかいな性分」が…
最終的に藤井の心を動かし…
鳩野のバンドへの加入を促して行くのである…。
幸村誠先生の「プラネテス」のハチマキみたいな人間…
他にもいたんだなあ…。
幸山は…鳩野を「神」と崇める幸山は…
「鳩野の凄さ」を本巻でいみじくも次の様に表現する…。
「あの初ライブは…はとちゃんに与えられた『受難』…」
「神に『受難』はつきもの…」
「でもはとちゃんはソレを予想以上のやり方で乗り越えた…」
「『受難』を乗り越えて『復活』を果たした…」
「はとちゃんがきっと何とかしてくれる…」
「ワタシの考案した浅墓な策など…全て唾棄すべきもの…」
「最初からはとちゃんの起こす『奇跡』に全てを委ねるべきだったんだッ!」
幸山は…自分の「策略」や「勧誘」には限界があり…
その「限界」を軽々と超えて行くのが
「鳩野の凄さ」だと言ってるのである…。
幸山の…自分の策謀が「唾棄すべきもの」であり…
「はとちゃんが起こす『奇跡』に全てを委ねるべき」
という考えが…鳩野と鷹見の論争…ソレを伝え聞いた藤井の翻意…
藤井の「はとちゃんのバンド」への加入の決断という
「実証」へと繋がって行く構成にただひたすらに唸る…。
今回もまた…「はとちゃんが何とかしてくれた」結果…
「はとちゃんのバンド」に藤井彩目が加入し…
ボーカル…鳩野ちひろ
ドラム…内田桃
ベース…幸山厘
ギター…藤井彩目
による「はとちゃんのバンド」…
「はーとぶれいく(=失恋)」が発足したのである…。
藤井彩目は学業的な意味で大変アタマが悪く…
「ハートブレイク」の意味を知らずに
「観客の心(ハート)に衝撃(ブレイク)を与える」と解釈し…
このバンド名を受け入れるのだった…。
鳩野「ワタシは…『仲良しこよしのバンド』なんか組みたくない…」
「ワタシは…『カッコイイバンド』が組みたいんだ…」
「その為には…オマエ(藤井)が必要である…」
まこと「はーとぶれいく」は…「はとちゃんのバンド」だよ…。