
映画「岸辺露伴ルーヴルへ行く」レビュー「黒衣の未亡人(BLACK WIDOW)とは黒後家蜘蛛の別名なのだ。」
「ピンクダークの少年」の執筆に余念がない
漫画家の岸辺露伴(高橋一生)に
ふと漫画家…と言うには余りも未熟だった頃の思い出が甦る。
祖父の死と共に祖母が旅館として改造した邸宅に
黒衣の未亡人・奈々瀬(木村文乃)が長逗留していて
週刊少年ジャンプの編集者から
「君の漫画の女性キャラには魅力がない」
「もっと巨乳キャラを描ける様にならないと!」
とクソみたいな注文を付けられて腐っていた
若き日の露伴(長尾謙社)が
菜々瀬(巨乳かな…?)のスケッチをしていたのを
彼女に見咎められ,それが切っ掛けで
「貴方の描いてる漫画が完成したら見たい」
と約束した事を。
露伴のスタンド能力「ヘブンズ・ドアー」は
彼の創作能力と密接な関係があり,
若露伴の未熟な創作能力では
奈々瀬の内面を本にして「読む」には至らなかった。
その奈々瀬が若露伴に問いかける。
「アナタはこの世で最も邪悪な「黒い絵」を見た事がある…?」
…と。
現在の露伴が何故その事を思い出したのかは本人にも分からない。
だが今の自分の創作能力ならば
奈々瀬を本にして最後まで読み切れる筈だ…。
もう一度彼女に会いたい…会って彼女を本にして真実を知りたい…。
「黒い絵」は江戸時代の絵師・山村仁左衛門(高橋一生・ニ役)が描き
その後フランスの贋作師モーリス・ルグランの手によって
「黒い絵」の贋作が作られたと言う。
つまり…ルグランは「原本」を見ながら贋作を描いた筈なのだ。
露伴はオークションにルグランの「黒い絵」が出品されると聴き付け
激しい競り合いの後,これを落札するも
競り合いに負けた相手が露伴の家に「黒い絵」を奪いに来る。
何だこれは一体…。
どうあっても山村仁左衛門の描いた「原本」を見なければならぬ。
「原本」を見た者は皆災いが降りかかると言うが…。
そんな事聴いた日にゃあ露伴は是が非でも見たくなるに決まっている!
露伴は編集者の泉京香(飯豊まりえ)と共に「原本」がある筈の
フランス・ルーヴル美術館へと向かうのであった…。
初見。原作未読。
本作は劇場公開された「映画」だが
TVシリーズの「岸辺露伴は動かない」の
1時間放送枠を2時間に拡大して放送した
TVシリーズのスペシャル版を観ている心境がする。
有体に言って「金がかかってる」感じがしないのだ。
2時間の映画内容の時間配分は
1.イントロダクション10分
2.オークションパート20分
3.若露伴時代の描写が30分
4.ルーヴル描写が30分
5.江戸時代の「黒い絵」誕生描写が20分
6.エピローグ10分
といった構成で若露伴を長尾謙社が演じ
山村仁左衛門を高橋一生が演じ…。
と露伴が時間を自由自在に行き来して
「黒い絵」の謎を解いて行く凝りようで飽きさせない。
現在の岸辺露伴と江戸時代の絵師・山村仁左衛門を共に
高橋一生が演ずるのは当然創作上の要請に因るもので
露伴と山村仁左衛門,奈々瀬が赤の他人ではない事を示している。
若露伴のときには奈々瀬を本に出来なかったのは
創作能力が未熟だったせいも勿論あるが
「250年前の記憶」を読むには露伴の成熟を待つ必要があったのである。
本作に頻出する「黒い蜘蛛」は黒後家蜘蛛といい
英語ではBlack widow spider,
「後家」とは亭主に先立たれた妻…未亡人の事を指し
奈々瀬が黒衣の未亡人=黒後家である事と呼応している。
つまり…蜘蛛は奈々瀬の化身なのである。
露伴がてっきり「味も見ておこう」と
奈々瀬をアレするかと思ったが
「国営放送の限界」に辛うじて阻まれた。
露伴の祖母の名は猷(ゆう)(白石加代子)といい杜王町の住人で
エリナ婆ちゃん似で独特の愛嬌があって萌える。