
チャールズ・ロートン監督 ロバート・ミッチャム主演の映画「狩人の夜」レビュー「この世には…『狩人』がいる…『狼』の本質を見抜き…『狼』の甘言に決して惑わされず…ただ…『イエスに頼りまつれ』と神を讃える歌を歌う『狩人』が…」
寡婦ばかりを殺して僅かな蓄えを強奪する
ニセ伝道師パウエル(ロバート・ミッチャム)は軽犯罪で服役中に
同じ房の死刑囚ベンから
大恐慌のもとでの暮らしぶりの辛さ故に銀行強盗で奪った金を
自分の幼い子供ジョンとパールに渡し…
コレを隠す様に指示したと聞き…
ベンの絞首刑が執行され…
自身は出所後に寡婦となったベンの妻ウィラの元に向かい…
自分が刑務所で牧師をしておりベンと面識があったと
甘い言葉で彼女に接近し…まんまと再婚相手となる。
無論パウエルはウィラを愛してるワケではなく…
そもそも彼は女性に対して不能者であるらしく…
女性そのものを憎んでおり…
ジョンとパールの義父となって
金の在処を聴き出すのが目的なのだ…。
ウィラと再婚した真の目的を彼女に悟られた為…コレを殺害し…
ジョンとパールに金の在処を教えるよう恫喝するパウエル。
パウエルは非常に人当りが良く…口が上手く…
周囲の人間からは「善人」と思われており…
誰も彼を疑おうとしない…。
ジョンとパールは近くの川から小舟に乗って川下に向かい…
パウエルは馬に乗って執拗に後を追う…。
ジョンとパールは…実の父は銀行強盗で絞首刑となり…
「♪オマエの父ちゃん吊るされた♪ブーラブラ♪」
と近所の子供に囃し立てられ…
義父は神の愛を説きながら母親を殺すキチガイであり…
幼いふたり兄妹が全く寄る辺無いコトが
「絵解き」で示されているのである…。
ふたりを追うパウエルは獣の様に嘶き(いななき)…
何処までも執拗に追って来る…。
『神』なんてこの世にいやしないのだ…。
ふたりが乗った小船は
レイチェル(リリアン・ギッシュ)という婦人に発見され…
彼女は孤児を既に3人育てていたが…
ジョンとパールを受け入れ…5人の孤児を育て始める…
レイチェル「(この大恐慌は)弱者にとっては厳しい時代で…」
「例え子供であろうとも容赦しないが…」
「子供は世界で一番強い人間なんだ…」
そんなレイチェルのもとをパウエルが訪れる…
パウエル「妻が他の男と出て行き…」
「このうえふたりの子供まで失ったらどうしようかと…」
「血眼になって探しておりました…」
「こうして親切な御婦人に保護されていたのも神の思し召しでしょう…」
「あッ…お礼に皆さんに人気のある説教を致しましょうか…?」
レイチェル「…………………」
「『巧言令色鮮し仁』とは良くも言ったもの…」
「まこと中身のない者ほどよく吠える…」
「オマエは…」
「あの子達の『父親』でもないし…」
「『牧師』でもない…」
「つまり…オマエの口から出る言葉は…」
「すべて噓八百だというコトだ…」
「撃ち殺されたくなければ出てお行き…」
パウエル「一体何を仰られているのか…」
レイチェル「同じコトを何度も言わせるな…」
「撃ち殺される前に出て行くんだ…」
パウエル「この…バビロンの娼婦がッ」
「オレは夜になったらまたやって来る…」
「必ず来るぞ…」
レイチェル「出てお行き…このケダモノがッ」
この世には『神』なんていないが…『狩人』はいた…
羊の皮を被った『狼』を見抜く『狩人』が…
偽予言者を見抜く『狩人』が…
『狼』の甘言に決して惑わされない『狩人』がッ!
夜になって…『狼』は甘い声で歌い始める…
狼「頼れ…頼れ…」
「全ての恐れから守られて…」
「頼れ…頼れ…」
「永遠の御手に頼るのだ…」
『狩人』は…椅子に腰かけながら猟銃を構え…
『狼』の歌う聖歌にじっと耳を傾けている…。
狼「この深き交わり…聖なる歓び…」
「永遠の御手に頼るのだ…」
「何という祝福…我が心の安らぎよ…」
「永遠の御手に頼るのだ…」
『狼』の歌にじっと耳を傾けていた『狩人』は…
やおら「狼の歌」に被せる様に歌い始める…
狼「頼れ…頼れ…」&狩人「イエスに頼りまつれ…イエスに頼りまつれ…」
狼&狩人「全ての恐れから守られて…」
狩人「イエスに頼りまつれ…イエスに頼りまつれ…」&狼「頼れ…頼れ…」
狩人&狼「永遠の御手に頼るのだ…」
「狼の歌」には…決してイエス(JESUS)の名が出て来ず…
ただ…何か得体の知れないモノに…
「頼れ…頼れ…」とのみ呼びかけ…
『狼』の声量を『狩人』の声量が上回り…
『狼』の本質が詐欺師であり…
偽予言者であると暴いて行く構成に唸る…
5人の子供たちは…『誰に』頼るべきかを悟り…
レイチェルに寄り添い…
彼女は『狼』の本性を剝き出しにして吠える
パウエルを銃声で追い払って行く…
パウエルは州軍に捕らえられるが…
最早彼は人語を発しない…
義父が州軍に捕らえられる姿が…
本当の父親が銀行強盗で官憲に捕らえられる姿に重なり…
思わず義父の元に駆け寄り…
「こんなモノは…要らないッ」
とジョンはパールが常に持ち歩いている
縫いぐるみに隠しておいた札束を投げつける…
パウエルの『狼』の本性がバレ…
今まで『彼』に騙されていた人々が怒り狂って
「(騙して結婚した相手を殺し続けた)『青ひげ』を吊るせ!」
と吠えたてている…
かつて『狼』に騙され…
「女手ひとつで子供は育てられない」
と合唱した…その同じ人々が…
レイチェルと子供たちは…
そうした人々を避ける様に静かな聖夜を過ごす…。
この世に…頼りになる大人…手本となる大人は…
非常にその数は少ないが…必ず存在し…
その数少ない大人は…
『狼』の本性を見抜く『狩人』だと描いて映画は閉じる。
今更ジーザスに救いを求めるのは遅いかも知れんが…
大人を信ずるのを諦めるのは早いと思うのは…
些か以上に楽観的に過ぎるだろうか…。