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小夜 3
まだ陽射しに衰えが見えない午後の森の中、明るい木漏れ日がキラキラと舞って、夕方でもないのにひぐらしが切なげな輪唱を降り注ぎ、その声を引き裂くかの様にやけくそになってみんみん蝉が鳴いていた。
資材置き場の倉庫内は、森の湿度がみっちりと漂い、半端ない暑さが立ち込めていた。
真夏の暑さの中をだらだらと歩いて来て、もう既に汗をびっしょりとかいていたのだが、倉庫内の暑さは、その汗を全て洗い流す程に高温で、森の湿度でみっちりと蒸れ返っていた。
中に入った途端に吹き出した汗は、密閉状態の無風の室内では、乾く事なくよりいっそうだらだらと流れ続け、あっと言う間に俺のYシャツをびしょびしょに濡らしてしまったのだった。
小夜も顔全体につぶつぶの汗の粒を浮き上がらせ、真新しいセーラー服を汚さない様にと脱ぎ始めていたのだった。
「ここ、広くて静かだし落ち着けて、しかも簡単に入れちゃう所が凄く良いんだけど、ちょっと、暑すぎるよね。」
「でも、窓は開けられないよ、蚊や虫が入って来きゃったら最悪だからね。」
滝の様に流れ出る汗に閉口していた小夜は、上着をいとも簡単に躊躇わずに脱いでしまったのだ。
薄い、恐らくはピンク系の色をしているのだと思われるキャミソールは、汗でピッタリと肌に張り付き、その元の色など分からなくなっていた。
その下には、肌色なのかベージュなのかもわからないブラジャーがその形をクッキリと見事に浮かび上がらせていた。
それは、ある意味で水着姿などよりも悩ましく、女の一種独特な色気を醸し出していた。
俺は、小夜のその潔い脱ぎっぷりに少し驚きながらも、そう言えば、彼女のいざと言う時の開き直り方は半端なかった事を思い出していた。
まじまじと見る小夜の顔は、ついこの間まで小学校で一緒に過ごして来た、見慣れた小夜の顔のままで余り変わってはいなかったが、
その顔の下にある身体は、その馴染み深い見慣れた顔とは別物の、正に女の身体がそこにはあった。
汗に濡れ切った女の艶やかな体。
シームレスカップの柔らかな曲線を描いて膨らんでいる胸の悩ましさ。
俺の目は、その一点から離れなくなってしまっていた。
何かを覚悟したかの様な真剣な眼差しを真っ直ぐに俺に向けたままで小夜は、
「触りたいなら、好きなだけ触っても良いんだよ。」と、呟いて一生懸命に笑顔を作ろうとしていた。
しかし、その声色は小夜が作り出そうとしているであろう雰囲気とは違って、緊張感をおもむろに伝えるかの様に震えていた。
「本当に良いの?」
その問いに小夜はコクりと小さく頷いたままで俺を見詰めていた。
「約束してね。」
と、その声は、すっかりと掠れてしまって言葉として聞き取れはしなかった。
男としての本能を抑える事ができなくなって来ていた。
同じ小学校で一緒に育って来た、いわゆる幼馴染みで、
それまでは、多少の意識はしていたものの、彼女が女である事に対して余り意識をした事がなかった。
女性なんだと感じる事があったとしても、それは性的な意識などではなく、単なる性別としての女に対しての気遣いであって、小夜の事を性欲の対象として考えた事は一度たりともなかった。
小学生の頃には、確かに俺と小夜との関係はかなり近しい関係にはあったのだが、それはあまりにも幼い性別を意識していなかった子供の頃からの馴れ合いがあったからだった。
それは、あくまでも気の合う友達としての仲の良さであり、男友達との付き合い方と遜色は余りなかった筈だった。
じゃれあって体を密着させる様な事もあったし、膨らみ出した胸に触れる様な事もあったのだが、そんな時にでさえ小夜が女である事を特別に意識はしていなかった。
それは、単純に俺と小夜がクラスのヒエラルキーの立場上で余り高い位置にはいなかったと事もあり、比較的低い階層達で構成された仲間内だった事にも起因していたのかも知れないのだ。
いわゆる、余り格好良くない、可愛いくない仲間同士の部類のグループに所属していたために、お互いの意識の中に下層に所属していると言う卑下た劣等感を抱いていたからなのかも知れなかった。
そんな中での仲間意識なのか、馴れ合いだったのかは分からないが、俺と小夜とは気の置けない友達同士だった事は否めなかった。
そんな劣等感を何処かに抱いていたからなのだろうか、中学に入って、毎日顔を合わせていた小学校時代の友達との付き合いが極端に薄くなり、新たなクラスの環境下で自分の立ち位置を必死に模索しなければならない時期でもあったのだ。
そこに来て、突然に投げ付けられた変化球だった。