モンゴル武者修行2024初級編レポート③

草原の中へ(9/16)

 前回、日本から丸2日をかけようやくキャンプに到着しました。ここから本格的な武者修行開始です!
 有料になっていますが全文無料で読むことができます。


寒さで目が覚める

 旅の疲れもあってぐっすりと眠れる・・・かと思いきや明け方は寒く目が覚めてしまいました。持参した秋用の寝巻では戦力不足だったようです。ストーブの火はとうに消えており、おじいさんを待つ以外にありません。しばらく寒さに耐えてから灯った火はまさに「光あれ」と言わんばかりに神々しいものでした。厳しい目覚めだったのは私が軟弱だからかと思っていたら、伊藤さんは「あれは寒い。目が覚める」と言っていました。どうやら私の感覚は正常だったようで安心しました。寝る際は寝袋、ダウンの使用を強く勧めます。2日目以降は厚着をして多少はマシになりました。

朝食と食事会場

 8時ごろ、朝食を食べました。食事は宿泊用ゲルから少し離れた食事用ゲルで提供され、指定時刻に集まります。食事用のゲルは宿泊用ゲルに比べて高さと広さが数倍あり、一度に20人以上は同時に食事を取ることができます。ゲル内にはテーブルのほかにモンゴルグッズや充電ステーションもあり、携帯電話などの充電ができます。伊藤さんによれば、これほど大きなゲルは珍しく、かつてのハーンが所有していたようなサイズだそうです。食事を楽しみながら、ハーン気分を味わうことができます。
 朝食はパン、スープ、果物、野菜などが提供されます。日本人にも馴染みのあるメニューです。朝から肉をたくさん食べると思っていたので、少し驚きつつもホッとしました。また、十分なお湯やお茶が提供されるので、水筒を持参すると良いでしょう。 
 給仕はオーナーの娘さんたちが担当しており、一人は14歳で夏休みの間、家業を手伝っています。自分が14歳だった頃を思い返すと頭が上がりません。モンゴルの女性進出はここから根付いているのかもしれません。
 調理は隣のゲルで行われていたようです。十数人分の食器や食材がどのように保管されていたのかは謎です。巨大な冷蔵庫やガスコンロはないはずなので、どのように野菜や果物を保存し、大人数用の料理を何品も作っていたのか疑問が尽きません。調理用のゲルを覗かなかったのが悔やまれます。

食事用ゲル(右)と調理用ゲル(左)

周辺の景色

 日が明けてから周囲を改めて見渡してみると抜けるような青空と草原が我々を歓迎していました。キャンプから伸びた轍を見ると、地平線の果てから来たのだなと実感できます。

草原と轍

 草原はいかにも火山という山で囲まれています。山を観察すると江戸時代の浮世絵のように見事な禿山で、斜面には木が生えておらず、山頂には少し木が生えています。こういうのは人間が切り倒したのが相場だと思って通訳さんに聞いてみると、意外にも自然にそうなっているそうです。乾燥が激しすぎて日が当たる斜面には木が生えないのだそうです。反対側の山を見ると日当たりの違いで麓の方まで木が生えています。ここだけを見ると木の生育には”日陰“が必要であると錯覚しそうになります。この説明の真偽は私には分かりませんが、説得力があると思うくらいには気候の厳しさを感じます。自分の中の常識がまた一つ崩れました。

斜面には木がない
180°反対側の山には木が生えている

物干しを作ろう(β版)

 朝食から帰ると同部屋の彼(以下I君)が何事か作業をしていました。聞いてみると支柱を建ててロープを張り物干しを作りたいそうです。長い薪を私が見繕って持っていくとI君は徐に先端をナイフで削り出しました。先端が鋭く尖るように加工され、木を地面に埋め込むことができるようになりました。関心して見ていると、これはブッシュクラフトと言い、今回の旅行でやってみたかったことだと説明してくれました。当然、木1本ではすぐに倒れてしまうため悪戦苦闘の末、別の薪を支柱とすることでどうにかロープを張ることが出来ました。

ゲル見学

 10時ごろからキャンプの向かいに住んでいる遊牧民の家にお邪魔させてもらいました。火山弾が転がる枯れた川を越え(これが地味にキツイ)、ゲルに入ります。実際に生きたゲルを見る事が出来る非常に素晴らしい経験でした。
 ゲルの中は奥に仏壇、手前には生活用品が整然と配置されていました。テレビや洗濯機、冷蔵庫まであり、電気はソーラーや発電機で賄っているようです。最近はソーラーパネルの高性能化で使える家電が増えたそうです。現代の物を上手く取り入れながら遊牧生活を構築するという合理性と美しさを感じます。このゲルは手作り(!)らしく、家も自分で作ってしまうようです。

生活が営まれているゲル。ソーラーパネルや車もある
パラボラアンテナ

 左右にベッドがあり、我々はここに腰掛けます。入り口から見て左側が男性、右側が女性のエリアとなっているそうです。やむを得ない場合以外はこれに従いました。
 奥のテーブルには乳製品が並んでおり、それぞれについて説明を受け、味見をすることができました。どれも美味しいのですが、特にウルムと呼ばれるクリームが非常に濃厚で相当に美味しいです。日本では食べられない味でした。また、アロルと呼ばれる乳製品も印象的でした。非常に固くて酸っぱくてそのまま齧ると歯が折れます。少しずつ含んでふやかして削るように食べます。遊牧民はこれをいつも食べているため歯が白いのだそうです。これも日本では食べられません。さらに、馬乳酒を飲むことが出来ました。馬の乳に含まれる乳糖を酵母でアルコール発酵させたもので、夏は食事なしでもこれだけで乗り切れるそうです。私は馬乳酒を一度飲んでみたかったので非常に嬉しい限りでした。酸味があり滋養に溢れている気がします。

様々な乳製品 水筒の隣にある茶色いものがアロル

 乳製品を作る作業と説明はゲルに住むお母さんが行いました。乳製品作りは女性が担当しているようです。このお母さんが非常に良い方で、我々を常に歓迎してくれました。少しでも立っていると座れ座れと声をかけてくれるなど丁寧に笑顔でもてなしてくれました。今でも感謝しています。
 この日はさらに酒造りを見学しました。ヨーグルトをアルコール発酵させてできた度数3%ほどのお酒を蒸留しアルコールを濃縮するとのことです。蒸留機ももちろん手作りでその精度には驚きます。
 薪ストーブの上に置いた鍋の中に酒を入れます。鍋に密着するように蒸留機を置き、さらにその上に水を張った鍋を置くことでアルコールを凝固させます。凝固したアルコールは鍋底を伝って葉脈のような溝が掘られた木枠にトラップされ外に出ます。このトラップも手作りです。

蒸留機

蒸留された酒は酸味がある優しい味わいでした。新たなシグネチャーレシピとして拡張版に追加されるかもしれません
 ちなみに日本で馬は軽車両の扱いになるため、この後乗馬すると飲酒運転になるそうです。モンゴルでの道路交通法が気になるところです。

皆で撮影会
 

 酒を飲んだ後、遊牧民の民族衣装を貸してもらいました。皆で着回して撮影会をしました。2、3人一組で様々なポーズをとりました。私は何故か寿司ざんまいをしました。今思い返すとなぜ仕事猫のヨシ!を思い出さなかったのかという悔しさがあります。機会があればヨシ!でリベンジしたいところです。

川を見に行く

 撮影会のあとは近くを流れる川を見に行きました。護岸などはされていない天然の川です。長い年月をかけて川岸を削りながら形成された曲面はフラクタルそのものです。川岸には柱状節理が顔を覗かせ華を添えます。このような火山地形は日本にもありそうですが、全く異なる生活様式や文化を産んでいるところは大変興味深いです。

モンゴルの川

その後、昼食まで一旦自由時間となりました。私は双眼鏡で家畜を見たりしていました。昼食後は待ちに待った乗馬開始です。

馬に乗って滝へ

 ゲルに戻って靴やサポーターなどの身支度をした後、遊牧民のゲルの側にある、馬が繋がれた場所へ行きました。この時刻になると気温は上がり、ダウンを着ると暑いです。秋くらいの服装がちょうど良いので着替える必要があります。
 乗馬に際して伊藤さんから注意点と操作方法について説明を受けました。

注意点

 馬に乗る際の注意点はまず大きい音を立てないことです。馬は音に敏感なので叫んではいけないと言われました。また、マジックテープを剥がす音やカッパのようにシャカシャカした音もダメなようです。衣類には気を配る必要があります。
 次に緊張をなるべくしないようにとの注意を受けました。緊張感は馬にも伝わり、上手く走らないそうです。とはいえなかなか難しいです。
 最後に、馬の横に立ち、後ろには立たないことです。馬は正面の視界が弱く側面がよく見えるため正面から近づくといきなり人が現れるように見えて驚いてしまいます。また後ろに立つと立派な脚から手痛い一撃を食らう可能性があります。最悪骨折するかもしれません。

操作方法

 手綱を右手で手の甲が上を向くように握ります。日本の乗馬は手綱を両手で持つそうです。これは日本の乗馬は走ることが目的であるのに対し、遊牧では乗馬は手段だからでしょう。馬に乗りながら何かをするには片手を開ける必要があります。実際に遊牧民はスマホを使いながら乗馬していました。
 方向転換する時は手綱を進みたい方向に傾けます。減速したり止まる時は手綱を手前に引きます。出発、加速する時は「チョウ」と掛け声をします。この掛け声はブータンでも通用するそうです。
 落馬をした際には転がって衝撃を緩和します。今回は誰も幸いにも落馬しなかったのですが、年によっては多くの人が落馬するそうです。

乗馬開始

 いよいよ乗馬が始まります。何頭もいる馬の中から遊牧民が馬を選定してくれます。馬の正面から右側面に周り、鎧を踏むとそこは馬の上です。拍車はないので気を抜くと鐙から足が外れます。

乗馬開始
モンゴルの馬

 高さは2mほどで高すぎず低すぎずちょうど良い感じです。鎧を母指球のあたりで踏むように指示されました。全員に馬があてがわれ、出発です。
 いきなり1人で乗るのではなく、遊牧民が2、3頭を綱で引きながら先導してくれました。従っていきなり我々が操作する必要はなく、乗っているだけで問題はありません。待ちに待った乗馬ということもあり、操作をしないとはいえ十分楽しいです。馬が歩いているときは座ったままでよいのですが、小走りになると衝撃が激しく頭が揺れます。特に下り坂になった時は緊張が走ります。乗りながらどう乗るのが正解か探しますがこの時はよくわかりません。15分ほど走ると川の前に到着し一旦降りることになりました。
 滝は川の向こうにあるので石を渡り川を渡りました。川を渡って少し進むとモンゴルでは珍しい滝が見えました。この滝はオルホンの滝と呼ばれ、落差が27メートルあります。また、冬には滝が凍りクライミングもできるそうです。ただし、私たちが利用したキャンプは冬に閉じてしまうので全て自分で賄う必要があります。この滝を登ろうと思う人はその心配はいらないのでしょうが・・・。

オルホン滝 冬にはクライミングができるらしい。正気か!?

 帰りも川を渡るのかなと思っていると、数頭の馬がこちらに向かってきました。どうやら馬に乗って川を渡るようです。川を渡る馬は大変頼もしいです。川を渡った後はもう一度最初の馬に乗り開始地点に戻りました。これにて初日の乗馬は完了です。

馬で川を渡る

 伊藤さんによると、モンゴルでは5歳頃から馬に乗り始めるそうです。最初は大人に引いてもらいながら乗り、約1年かけて独り立ちするとのことです。私たちは翌日から一人で乗れるかもしれないと言われましたが、現地の人が1年かかるなら、無理ではないかと疑問に思いました。それでも、すぐに一人で乗れるわけがないと納得しました。実際には、私にとって良い意味で期待を裏切ることとなりました。

ブッシュクラフトとボーズ作り

物干しを作ろう(リリース版)

 自由時間となり、各々歌を歌ったりシャボン玉をしたりと思い思いに過ごしていました。ゲルに戻ると先ほど作った物干しは倒れていました。やはり支えが足りなかったようです。何とか立て直そうと二人で四苦八苦していると見かねたオーナーが「お前ら何やっているんだ?ゲルの中のここにロープをかければいいだろう」とド正論親切に教えてくれました。しかし我々にも夢があるのです。どうにもならないなと思っていたら、メンバーにいた建築関係の方が手伝ってくれました。すぐさま問題点を見抜き、ロープを張り、石で重しをすることで完成となりました。これで喜んでいたのですが、建築的には「倒れることを確認して完成」だそうです。プロらしい一言にシビれました。結局、物干しは倒れることはなかったので最後まで完成には至らなかったということでしょうか。
 物干しが完成したのであとは洗濯物をかけるだけ・・・。なのですが、残念ながら節水のため洗濯をしたければスタッフに渡す、手洗いの水は使わない、というまさかのルールでした。最後まで洗濯した衣類が掛けられることはありませんでした。とはいえ、当初の目的は果たせたので良かったのではないでしょうか。

ボーズ作り

 夕食の前に食事用ゲルに集まるとモンゴル料理作り体験が始まりました。作る料理はボーズという料理です。ヤクのミンチをギョーザのような皮に包み、蒸すという蒸し餃子のような料理です。皮はもちろん手作りで、餃子の皮を手作りする工程とほぼ同じです。皮の包み方にいくつかバリエーションがあり、スタッフの方が教えてくれました。しかしこれが難しい。私は手先が器用ではないので余計に厳しいです。見様見真似では全くうまくいきませんでした。上手い人は綺麗に包むので器用さが如実に現れました。包み終わったら我々の作業は完了し、蒸しあがるのを待ちます。

皆でボーズ作り

完成したボーズは夕食になりました。ヤクの肉はクセがなく肉肉しい味わいでした。ボーズはランダムでふるまわれたため私のド下手なものは誰かが食べたのでしょう。申し訳ない限りです。余談ですがヤクの肉は案外安価なようです。値段は牛>羊>ヤク>ヤギの順だそうです。

完成したボーズ

 食事後、羊の解体を行うと通訳さんから説明がありました。外は真っ暗です。なんでも、次の日の火曜日は解体を行ってはいけない決まりがあるので今からやるとのことです。少し休んだ後、外でしばらく待っていると解体は中止になったとの報告が。どういうことかというと、星の出ている夜に解体をしてはいけないそうです。つまり、夜に解体するには曇りでなければいけないということです。結局、解体用の羊は捕まえてしまっているから本来はいけないが次の日に行うということになりました。なぜこのような伝統が生まれたのか是非調べてみたいところです。

スプーンを作ろう

 1日のイベントも終わりゲルに戻るとI君はまた何か作業をしていました。何事か覗いてみると今度は木の枝でスプーンを作るそうで、木からナイフで削り出すようです。底なしのクリエイティビティに感心していました。

キャンドル会

 夕食後、キャンドル会を行っていました。キャンドルを持ってきた方がいたようで、一つのゲルに集まり、キャンドルを立てワイワイやろうといった趣です。強制ではなく参加したい人は参加します。私は参加してもしなくてもどっちでもよかったので寝支度をしていたらI君が徐に行きましょうと誘ってくれました。どうやらスプーンが形になったようです。皆に見せたかったのかもしれません。キャンドルの中でお茶を飲んだり色々話しながら夜は更けていきました。

2日目はこれで終了です。次の日は本格的に様々な体験をしました。次も是非読んでください。

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