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パタン・ランゲージ#95 複合建物

質の良い空間や建物をつくる、253個のパターンで、「建物」カテゴリの最初にくるトップバッターが95番の「複合建物」です。

建物が、より小さな建物やより小さな部分の複合体で、そこに内在する生活実体を表明しない限り、人間的な建物にはなりえない。

という問題提議からはじまる文章は、いま私たちが街並みを歩くときに、実感としてとらえられる本質をついているように思います。

巨大な建物のとらえどころのなさ

都市部のビル群や、タワーマンションなど大規模なマンションの足元に立った時、なんとも心許ない気持ちになることがあります。人間的なスケール(規模)とかけ離れた空間に、放り出されたようなそんな感覚、感じたことがある人、いませんか?

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アレグザンダーは、人間の生活の営みを感じさせないような巨大な建物のことを「一枚岩的な」建物と表現をしています。日本語で「一枚岩」というと、組織などがまとまっている、一致団結している、という良い意味でも使われますが、ここでは、批判を込めて使われていことは明らか。

アレグザンダーは、「建物は、それを使う社会や組織のあり方が形に現れたもの」であるととらえ、その関係性やあり方が、カタチとしても現れている建物が、人間的な建物であるといいます。巨大な一枚岩の建物からは、それが読み取れない。

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さらには、一枚岩的になればなるほど、人間性や、人とのふれあいが妨げられていると指摘し、興味深い公共施設の利用者アンケートの結果を紹介しています。

①3階建ての小規模の建物と、②近代的な巨大オフィスビル、の対照的な2つの利用者に向けてサービスへの満足度をリサーチしたところ、

①小さな建物では、サービス満足の要因として、「職員の親切で有能な応対」が多く挙げられたのに対し、

②巨大ビルでは、職員応対に言及する人はまれで「物理的な見かけの良さや設備」についての満足をあげる人が多く、同時に、巨大ビル利用者は「とらえどころのない雰囲気」に不満を漏らす人も多かったとのこと。

思わず、大型マンションのガランとしたエントランスロビーや、立派なホールで感じる独特の「居心地」を思い出しました。豪華で立派だけれど、使われるのを拒むような雰囲気が漂っているところもありますよね。


人間的スケールの建物は楽しい

逆に、商店や住宅など、小さなスケールの集合となっている街並みは、私たちが散歩しながら楽しめる「まち」です。さらに、それぞれの場を楽しんでいる人がいる(=生活の様子がうかがえる)街です。

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ポルトガル・ポルトの街並み

住宅街であっても、住む人の暮らしの気配がきもちよく「表出」している路地や、手入れをしている草花が楽しめるような通り。私たちはそんな風景に惹かれます。


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       谷中の街並み (写真:写真ACサイトより)


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台湾の九份の路地。
写真を出しておきながら、実は行ったことがなく(笑)、
私自身が行きたい~と切望している街です。

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観光でも人気、九份のワクワク感もこのスケール感にあるのでしょうね。


複合建物をどうつくるか

その1.小さい建物の集合体としてつくる

アレグザンダーは、この問題提起に対して、このような回答を示します。

けっして一枚岩的な大きい建物をつくらないこと。できれば、建物の各部分が現実の生活実体を表明する複合建物になるよう、つねに自分の計画を修正すること。
低密地区では、アーケード、歩行路、連絡路、連絡橋、共有庭、さかい壁などでつながる小さい建物の集合体になるだろう。


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写真は、アレグザンダー設計の盈進学園東野高校の校舎群です。
いくつかの棟(小さな建物)が、歩行路や中庭を介して集合し、学園全体を作り出し、あちこちに生徒の居場所となる場がつくられています。ある程度の広がりのある敷地であれば、このような配置計画も可能でしょう。


また、さいたま市にある「彩の国さいたま芸術劇場」(香山壽夫∔環境造形研究所)も複数の棟が連なる複合建物の好例だと思います。

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その2.大きなボリュームを分節化してつくる

一方で、都市部など、分散型の建物配置ができない場合は、一つの大きなボリュームで建物をつくることになりますが、その場合には、以下の解答が示されています。

高密地区では、単一の立体構造物の一部でありながら、重要部分を強調し識別できるようにすれば、単一建物でも複合建物とみなしてよい。

つまり、大きな建物の場合でも、建物へのアプローチ、入り口、内部空間の特徴が外観としても感じられるようなきめ細かい設計をしていくことで、あるいは、全体の大きなボリュームを意匠的に「分節」してデザインをまとめ上げていくことで、ヒューマンスケールを感じられる建物にすることができるということですね。

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火災から再建中のノートルダム大聖堂。巨大なゴシック建築には、各部の分節により、内部機能が反映されています。

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大手町のビル群。意識してみると、様々な手法で大きなボリュームを分節して、外観の表情を作り出しているのがわかります。(その部分の内部の機能については読み取れませんが)


住宅も複合建物をめざして。

では、住宅についてはどうでしょうか。

たとえば、住宅のような小さい建物ですら「複合建物」とみなすことができる。場合によっては、その一部をほかの棟や付属小屋より高くすればよいであろう。

個々の住宅が集まって町がつくられますので、街全体が住宅による複合建物群ともいえます。

さらに、個々の住宅そのものも、生活空間や機能にあわせて建物の各部の高さや大きさをつくっていけば、生活の様子が反映された複合建物となり、生き生きとした美しい街並みに寄与するということでしょう。

また、この分節が、意味を持たない形態操作や、無意味な装飾ではないということは言うまでもありません。


美しい家が美しい都市を造る

建築家・香山壽夫先生の著書『都市を造る住居』は、このような一文ではじまります。

美しい都市は、必ず美しい住居によってつくられている。

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だからこそ、建築家、設計者はその責任を感じながら、建物の形態を考えるべきですし、住む人も、住宅がもつ、その半パブリックな側面を大切にする必要があると思っています。


より具体的で小さなパターンへ

では、具体的にどうすればよいのでしょうか。そのヒントは、「#95複合建物」にひもづく、より具体的で小さなパターンに示されます。このパターンの名前となる「ことば」は、具体的すぎず、抽象的すぎない概念をしめしており、想像力が膨らむ言葉です。(慶応SFC井庭先生のパタン・ランゲージ研究での表現だと”中空の言葉”と言われています)

#109  細長い家
#122  建物の正面
#119  アーケード
#98  段階的な動線領域
#99  おも屋
#104  敷地の修復
#105  南向きの屋外
#107  光の入る棟
#205  生活空間にしたがう構造

少しずつですが、これらのパターンについても記していきたいと思います。(いつまでかかるかなー)

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村上有紀(ムラカミユキ) 

楽しい住宅設計を仕事にしています。
もちろん、設計依頼をお受けしていますが(大歓迎!)、お施主さん(住む人)にとっても、間取りをつくるプロセスと学びは楽しいぞ!ということで、間取り好きで、自分で間取りをつくるエネルギーのあるお施主さんへのメッセージを配信しています。「パタン・ダンゲージ」については、こちらの記事↓「パタン・ランゲージ#00 活用のすすめ」をご覧ください。



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