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基準のシフト。フローからストックへ。

少し前に、新井和宏さんの「持続可能な資本主義」という本を読みました。やわらかな書きぶりながら、投資信託としての判断基準を大胆に変えた記述から、深い思索の跡を感じる良本でした。

民間企業のパフォーマンスを評価する場合、経常利益率など利益に関係する指標に真っ先に目がいきがちです。一定期間のお金の流れ(リターン)を指標化することによって、フローを分析することが、企業を判断する際の一般的な目線であり、殆どの金融機関や投資信託も同様の視座をもっています。

これに対して、企業が毎年積み上げていくストック(見えない資産)にこそ、投資判断の基準が潜んでいるというのが「持続可能な資本主義」の主張であり、ストンと腑に落ちました。

民間企業の経営者としては、自分が一年単位のフローを重視している限り、会社が進化しないことを痛感する一冊であり、ストック(見えない資産)を大切にする経営へと切り替えるように背中を押されるような気がしました。

と同時に、自分が関わっているパブリックな活動についても、無意識のうちにフロー指標を判断基準にしてしまっていないか、心配になりました。

例えば、公園での社会実験の成果を判断するためには、来園者数を測るのが一般的です。もっと成果を理解したくなれば、滞在時間を加味してみたり、来場者の属性でクロス分析してみたり。指標を考えれば考えるほど、フローの数字に目が向いてしまいます。

2017年に導入されたPark-PFIなど、民間の資本と運営力に期待する公民連携スキームも、その判断基準は収支をにらんだ財務指標や集客指標など、フローに傾きがちです。フローの数字の見映えがよくないと、役所内や対議会の説明がつきづらいという実務的な制約も大きそうです。

しかし、フローばかりに目が行きがちな状況に異を唱え、ストックに着目した指標を提案することはできたはずです。例えば、リピート来園者の数の推移や、公園で何度もプログラムを開催する主催者の数などはストックを表現する定量的な指標かもしれません。公園に対するイメージの変遷を追いかけることができれば、それも一種のストック指標になるでしょう。新井さんが上述の本に書いておられるように、信頼のような最も大切な「見えない資産」は決して定量化できないことにも留意する必要があります。

パブリックな領域は、定量的な評価の導入が遅れたために、ひとたび評価軸が定められると、民間企業と比べてもドラスティックな定量的基準に傾きがちなのかもしれません。

フロー的な優位性を喧伝してパブリック領域に参入しようとする民間企業も多いなか、公民の多様なセクターが協働して、パブリック領域に本来求められている役割を発揮させていくためには、定量化したくなる誘惑に抗い、見えない資産を評価する目線を確立する必要があります。フローからストックへの基準のシフトは、民間企業だけでなく、パブリック領域にもまた、求められているのです。

参考文献:「持続可能な資本主義」新井和宏著
写真  :東遊園地でオセロを楽しむカップル

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