悲しみはピルスナー

俺はパトカーで遊んでたんだよね。
もちろんオモチャだけどさ。
まだ幼稚園に入る前の頃だよ。
親は共働きで夜までいない。
だから近くに住んでた祖母が夕飯を作りにくるのを待ってんの。
夕方でさ。
西陽がわーって差し込んできて部屋一面オレンジの世界よ。
一人でいる悲しさを紛らわすためかな。
乾電池が切れたパトカーを前に後ろに動してね。
もう無心よ。
子供ながらに堪えてたんだろうね。
あれは今思い出しても切ないよ。
年取って憂いのある渋い顔になったのもそのせいかも。なんてね。

すいませーん。
ビール1杯追加で。

カーボーイってあるじゃん。スーパーの。
城北に今でもあるでしょ。
あれ北海道が本社だっけ。まあいいや。
俺、高校生の時に万引きを疑われて、警察に連れて行かれた話知ってる？
当時マサカズがバイトしてる薬屋のテナントにおちょくりに行ってさ。
レジにいるあいつに見える様に、商品を万引きをするフリして笑かしてたワケ。
そこを離れて別なとこでジュース買って外に出たらさ、ちょっといいですかって呼び止められて。
声かけてきたのゴッチの母ちゃんだと思う。
カーボーイで働いてたじゃん。
会計し忘れたものありますよね？って言われて否定してたら、とりあえずって店の奥まで連れて行かれて。
結局マサカズの店で変なことしてたのをゴッチの母ちゃんがずっと見てたのよ。

従業員の控室で持ち物検査されて。
そしたらバックに入れてた新品のシーブリーズを見て、これは買った物なのかってさ。
それカーボーイに行く途中に清水ドラッグで買ってたやつだったんだけど、レシート捨てたから証明できなかったの。
これがマサカズの店のやつだって思われて、押し問してる内に警察きてさ。
事情説明したら、確認のためパトカーに乗せられて清水ドラッグまで行ったんだよ。

その途中に子供の時に住んでたアパートの前を通ったんだ。
その時にふっと思ったの。
このパトカー動かしてるの子供の頃の俺なんじゃないかってさ。

#ほろ酔い文学