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ZARAの「バカなる」な戦略を科学する

世界中から愛され、多店舗展開しているような企業は、
経営戦略にその強さを支えるミソが隠されていたりするんですよね。そのミソを紐解いていくとめちゃくちゃ勉強になる要素が見つかります。
戦略分析編ということで、何社かシリーズでまとめていきたいと思います。

ということで、第一弾はZARAを展開するインディテックス社。
複数ブランドを傘下に収めるインディティックスですが、特にあっ晴れな戦略を実行されているZARAブランドにフォーカスして戦略分析を行っていきます。

ZARAってすげえぇぇぇぇ

そもそも、なぜZARAなのか。
皆さん世界中の億万長者が何をして財を成してきたかご存知だろうか。
2019年度の番つけトップ10を調べたのでご紹介します。

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1位はamazonの創業者、2位はマイクロソフト、3位は投資と言えばのバフェットと納得の顔ぶれがそろう中、
ZARA(インディテックス)の創業者アマンシオ・オルテガ氏が6位に入り込んでいることに、「え、意外!」と感じる方もいるのではないでしょうか。

確かに、国内でも海外旅行へ行っても色んな見るけど、そんなにすごいの?!
ということで、ZARAってどんな強みを持っているのか、そしてその強みはどのようにカタチづくられているのか
個人的見解になりますが、筆を進めてみます^^

ZARA分析の前に、「バカなる」って何?

ちょっと回り道になるが、タイトルに記載した見慣れない単語「バカなる」。
これは、”「バカな」と「なるほど」”という本で紹介される戦略なんですが、これがすごいんです!今回もこの考え方に沿って分析をするので、まずは「バカなる」とは何か、下記図を見て欲しい。

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そもそも企業とは、他社と違いを作りながら、世の中に受け入れられる商品(サービスなども含む)を売ることによって、利益をつくっていく
そうやって、中長期的に利益を出し続けることが企業に求められる機能のひとつであると考えています。
他社との違いも重要で、違いがないと両社(or複数社)の競争の末、利益はゼロに向かう経済均衡に陥る

そして、スタートラインで違いを作っても、うまくいっている事例は往々にして真似をされるものである。
特にうまくいっている事例は、様々なアカデミック機関によって分析されレポートにまとめられていくのだ。隠そうにも隠し切れないところが多く。
競争優位を維持することはとても骨がおれる。

僕はこの本に出合うまで、その違いは、先行参入における「規模の経済」と「ブランド力」が差になると考えていた

「規模の経済」とは、MBAでおなじみなので、ググっていただければ詳細はでてくるが、端的に言うと、大量に作ると安く作れる戦略のこと。
材料も大量に買うことになるので、買い手のパワーが利くことや、工場や金型などの固定資産の償却も進むので、後参入者よりも安くモノづくりができるのだ。
「ブランド力」とは、その製品と言えば?と想起されるので、ユーザーから選ばれやすくなるということである。

でもこの違いも時間が経過すると差はほとんどなくなっていく
では、うまくいっている企業はどのように競争優位を維持しているのだろうか。
そのヒントが「バカなる」なのだ。

ZARAの事例をベースにこのバカなるを掘り下げていこうと思う。

まずはZARAの概要をおさらい

ZARAのバカなるを書く前に、前提として押さえておくべき、ZARAのビジネスの概観だけさくっとおさらいしておこうと思う。

まず、ZARAといえば、SPAモデルで展開するファッションブランドであること。
SPAとはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略で製造小売業とも訳されるが、要するに「自社ブランドを自分で販売するアパレル専門店」のことを指す。ZARA以外にGAP、ユニクロ、H&MがSPAを採用している。

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従来のファッション業界では、自社でデザインなどを企画し、製造・物流を行い、百貨店やセレクトショップなどに卸していた。

一方、GAPやZARAは、更にその先の販売まで自前で行うことで、
POS(売上記録)データを次の商品企画にスムーズに反映できるようになり、販売業者の中間マージンを内部に取り込むことができる。店舗のイメージもブランド統一できるなど、様々なメリットを受け取ることができる。
もちろん、メリットばかりではない。在庫リスクや店舗開拓・運営など経営範囲の拡大化に伴うボラティリティの増加などといった点がデメリットになってくる。
他にもSPAの論点は多々あるが、本題から反れるので、”ユニクロ vs ZARA”という本に丁寧にまとまっていたので、詳しく知りたい方はそちらを参照いただければと思う。

次にファッション業界の特徴

洋服は実はめちゃくちゃ原価率が低いのだ。良くバーゲンWEEKになると7割OFFなどの値札が貼られることを皆さん見ることはないだろうか?

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実は、激安店を除く、多くのブランドでは半額にしても粗利(売値ー原価)はプラスになるらしい。それでもファッション業界で経営破綻が起きるのは、販売管理費などが高いわけではなく、”在庫ロス”が生じるからである。

ファッションは、食材と違い、腐ったりしないから本質的に価値は1年経っても残ったままなのだ。でもファッション業界で働く人は「ファッションはナマモノだ」と表現する。
そう、流行りがあるので、去年の売れ筋は実質的には腐った魚と同じく売り物にならないことが多いのだ。
蛇足であるが、そこに対しGAPやユニクロは”定番ITEM”を作ることで、翌年も買い手がつく商品を生み出し、このナマモノを打破する経営戦略を取っている。

さあ、そんな市場の中、ZARAがどんな戦略を取っているか見ていきたいと思う。

ようやく、ZARAのバカなる。「バカな編」

前置きが思いのほか、長くなってしまったwww
この章では、冒頭触れた「バカなる」=通常の合理的判断だと「バカな」。でも全体の経営戦略に組み込むと「なるほど」と言わざるを得ない戦略の観点で見ていこうと思う。

まずはZARAの「バカな」を他社と比較しながら見ていこう。同じくSPAを展開するユニクロやGAPを参考に作成してみました。

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▼製造工程
ファッション業界は、戦うフィールドを絞るために、製造工程は外注化している。製造リスクは外部に置き、経営資源を張るべき領域にフォーカスするのが業界の合理的判断なのだ。
一方ZARAは、半分は自前の生産ラインで担っている。

▼出展形態
こちらも通常だと、店舗展開がとても重要になってくるので、基本はフランチャイズで出展していく戦略が採られる。すばやく展開しないと、良い立地は他社と取り合いになる。スピード感もった店舗展開をすることでSPAモデルのメリットである顧客接点を作っていくことが重要になるのだ。
一方ZARAは、基本は直営店展開を採る。参入障壁が高く、外資の参入が困難な国では、一部フランチャイズの形態も採るが、それは例外としての扱いである。

▼接客
洋服を買いに行くときホントによく体感すると思うのが、店員さんの接客。中には、うざいと感じている方も多いと思うが、店舗の売り上げを支えるのも接客なのだ。顧客はうざいと思いながら、結局積極されることで買っている。だから店員さんは接客せざるを得ないのだ。先ほども書いた通り、在庫を抱えないことがファッションビジネスの肝になるためである。一つでも多く在庫をなくすことが店舗運営にかかっているので、販売店の店員さんも躍起であろうw
そして、ZARAに行くと、店員さんがあまり接客してこないことに気づくかも知れない。

▼デザイナー
プラダやDiorといった、ラグジュアリープランドはパリコレなどの展示会への出展で市場の反応を選考キャッチし、バイヤーもそこに集って、いち早く予約をしていく。もちろんデザインを志す人には「パリコレに出展することが夢」と語る人もきっと多いのではないかと考える。
しかし、ZARAのデザイナーに求められるのは、パリコレに出展できるようなクリエイティブに富んだ洋服デザインする力ではなく、イミテーション(=模倣)力。流行りの服をZARAっぽく仕立てるスキルなのだ。

ZARAの「なるほど編」

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これらの一見、合理的に見えない数々の「バカな」の裏には、”後だしジャンケン”という考え方がある。
要は売れるものを売れる分だけ作り、在庫を最小化する。これがZARAの狙いなのだ。在庫を抱えずに済めば、安く商品を顧客の下へ届けることが可能になる。

他社は極限まで製造コストを安くし、原価を低減するための戦略に対し、
ZARAは、多少原価が上がっても、ひたすら売れるもの”のみ”作り、在庫を極限まで減らすための戦略を採ったのだ。この観点でZARAの戦略を見ると「なるほど!」と声が漏れてくると思う。

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先ほど、デザイナーに求めるスキルとして、イミテーションを例に出したが、これは、先進的なデザインをしても在庫リスクがある以上、その分価格を上げるしかない。流行るとわかっているもの・売れるとわかっているものを作るためには、創造よりも模倣が大事なのだ。そこにZARAらしさをトッピングしていくことと合わせて。

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そして、流行りの服をキャッチしたら、即作り出さないといけない。外部にお願いすると、特急料金を請求されかねない。だからZARAはこの特急分は自前工場で製造するのだ。更に船便を使わず、空便を使って世界中に洋服を届ける。ここもファッションがナマモノであるという考えを捉えた戦略である。
すでに流行りだした兆しに少しでも追い付かないといけない。船でちんたら運んでいる間に流行りの服は他店で売りつくされた後になっているのだ。

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そして、接客をしないのも、店員のバイアスを省くためであろう。
本来売れるはずのない服(=流行っていない服)が、売れると、本部でPOSデータを基に分析しているチームが、このデザインは売れる!と似たデザインを大量に企画してしまう。1つの在庫を減らすために、多くの在庫を作るきっかけになってしまうかもしれない。
店舗は販売店ではなく、良質なニーズの探求の場所なのだ。それを全体戦略に組み込み実施している経営戦略にはあっ晴れとしか言いようがない。
近年流行りのD2Cで、このあたり体系化されつつあるが、オルテガ氏は遥か昔からこの方法に気づいて実施していたんだと思う。

他にも・・・
ZARAでは、とても早いスパンで商品を入れ替えていく。同じシーズンでもドンドン新しい洋服が投入されるので、僕の妻は独身の頃、月に何度もZARAに行っていた。
一度来たお客さんが「今買わないと、次来た時には置いていないかも?」という暗黙的な脅迫イメージを想起させるため、買い渋りを抑制する効果があるのかもしれない。


もうなるほど・・・・と驚嘆というよりも、自社もこの視点で戦略を考えないとという焦りがでてきだしたのではないだろうかw

このように全体の戦略が描けていないと、どうしても部分部分の合理的判断が重要視され、
バカなを「なるほど」ではなく、「合理的な普通の戦略」に劣化させてしまうケースだろう。
特に、意思決定を担う方には是非この観点をもって意思決定していただきたいなと思います。部分の合理的ばかり追いかけるような事例はホントに散見されるので・・・。

いやーー、しかしZARAすげーーーー!

最後に

ZARAの創業者はあまりインタビューなどオフィシャルな場に出てきません。ただ、「世の中の女性を美しく」というビジョンを語った場面があり、これが今回紹介したような戦略をZARAが採るに至った背景なんじゃないかな、と思っています。
全ての女性を美しくするためには、安く、おしゃれな服が手に入れる状況を作り出さなければならない。そして、各工程の低コスト化は限界があることも知っていたんだと思います。
そして、オルテガ氏が見つけたのは、肝は在庫を減らすこと
それをどう実現しようか、考えた上で作られたのがZARAという誠意略の牙城なんだと思います。

そして、そんな世界を作った(今後も発展しそうなので、今もカタチづくっていると書いた方がいいのかも?)ZARAの創業者オルテガ氏が億万長者なのもうなずけるな、と思います。

<参考図書>


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