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リハ専門職一人につき1日何単位が妥当なのか?
過去、私は約120人規模のリハセラピストが所属するリハ部門の管理職を務めていました。したがって、リハ部門の管理職が抱く苦悩は理解しているつもりです。
さて、階層型組織の視点では、リハ部門の管理職は、経営者(あるいは経営層)と現場のリハ専門職の間に挟まれます。このことから、しばしば経営者と現場の相反する意向の板挟みとなり、管理職としての決断を強いられることも少なくありません。その中の一つに、「リハ専門職一人につき1日何単位の請求を目安にするか?」という問題があります。
なぜ、「リハ専門職一人につき1日何単位の請求を目安にするか?」が問題になるのでしょうか。それは、医科点数表の解釈におけるリハビリテーション料の解説の中で、”1日18単位を標準とし、週108単位までとする。ただし、1日24単位を上限とする。”という記載があることにおそらく由来します。
1単位は20分ですから、これを時間に置き換えると、「個別療法は1日6時間を標準とし、週36時間までとする。ただし、1日8時間を上限とする」と言い換えることができます。つまり、これだけ見ると1日8時間、週40時間の労働時間に収まるだろうという論拠がうかがえます。
しかし、実際にはそのようにはいきません。下の図は、筆者がリハ部門の管理職を務めていた際にデザインした主体業務(個別リハ)とさまざまな付帯業務の理想的な割合を示したイメージ図です。この論拠は、リハ専門職を対象とした1分単位のタイムスタディーの結果を参考にして、リハ専門職一人につき1日16単位を目安とした標準的な付帯業務の内容と時間などの検討結果に基づいています。
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つまり、リハ専門職一人につき1日16単位を目安としても、付帯業務は平均165分(2時間45分)要するということです。したがって、前述の「個別療法は1日6時間(=18単位)を標準(以下、略)」とした場合、そもそも就業時間内で勤務を終えることは不可能なのです。
したがって、リハ専門職一人につき1日18単位を標準とするのであれば、残業ありきで業務をデザインすることが前提となります。このことは、全国の身体障害領域の病院のセラピストを対象として、セラピストの業務実態と勤務時間内に遂行可能な単位数の参考値を算出した江田ら(2024)も、論文内で同様の指摘をしています。ただし、その実現可能性と持続可能性については、慎重に検討する必要があるように思います。
リハ専門職一人につき1日何単位の請求を目安にするか?その答えは、それぞれの病院でリハ専門職の付帯業務をどう扱うかによって変わるということです。
診療録の記載や情報収集はどこまで求めるのか。適正にカンファレンスを実施するのか。教育やミーティングを行うのか、行う場合はそれを業務として扱うのか。まず、この前提を定めることが必要です。
次に、就業時間を基準として標準単位数を算出するのか。あるいは、残業ありきで標準単位数を定めるのかを決めることが必要です。
リハ部門の管理職は、上記の点について現場および経営者と納得いくまで議論しなくてはなりません。
リハ専門職一人につき1日18単位(以上)を標準としつつ、残業の申請には眉をひそめるような運営は、結果的にはさまざまな不正を招いてしまうかもしれません。
最後に、本note執筆時点でインターネットで検索できる、リハ部門が関与した不正を以下に記します。以下の記載の全てが当てはまるわけではないかもしれませんが、非現実的な利益追求や適正な運営管理の怠慢は、結果的には大きな損失を招いてしまうのかもしれません。
女性の職場では、毎月、達成が難しいリハビリのノルマが管理職から課されていました。そのため、職員はサービス残業をするか、施術時間を水増しするなど、不正な診療報酬の申告をしていたといいます。厳しいノルマが不正の原因となっていると考えた女性は、労働基準監督署に匿名で通報し、調査を依頼。病院の人事部長にも匿名で書面を送りました。
リハビリの施術時間を偽ってカルテに記載したとして、リハビリテーション科に所属する50代理学療法士の男性を停職6カ月の懲戒処分にしたと発表した。処分は2月29日付。男性は同日付で依願退職した。同センターによると、男性は2023年12月下旬~24年1月上旬に患者4人計5件のリハビリで、保険診療の適用に必要な20分に数分~10分ほど不足していながら、カルテに虚偽の時間を記した。21年10月~24年1月上旬には、16人計20件のカルテに施術内容を書かなかった。男性は「時間を計らず、感覚でやっていた。内容は後で書こうと思った」と認めているという。
県病院局によりますと、去年3月、県立病院の職員2人に対して、リハビリの内容や時間を電子カルテに正しく記録していなかったなどとして文書訓告の処分を行いました。その後、県病院局が調査を行ったところ、令和2年度から4年度までに県立中央病院と県立三好病院で、2人が患者に行ったリハビリの診療報酬の請求で、あわせて4566件の不備が確認されたということです。このため、請求の不備が確認された延べおよそ1700人の患者らに対して、あわせて1037万円余りを自主的に返納することになりました。
市によると、リハビリの診療請求は本来、20分単位で行うが、電子カルテへのアクセス時間を含めて施術時間とした事例や、複数の患者を重複して施術したケースなどが確認された。2月には、関東信越厚生局と県が個別指導を実施。昨年2月~今年1月の406件分、336万2510円を自主返還するよう指導した。さらに病院の判断で、27年2月~昨年1月の2年間についても1680件分、1384万8590円を自主返還するとした。病院は今月1日から、「リハビリ中は電子カルテ操作は行わない」「リハビリ実施時間は患者とマンツーマンで行った時間を分単位で記録する」などの改善策を行っているという。
以下の引用は、後日追記。
診療報酬の請求では、原則20分を1単位とする。調査の結果、リハビリを終了したとする時刻が、コンピューターへの入力時刻よりも後になるなど矛盾していたことが判明。実際にかかった時間が20分未満でも20分とするなどしていた。またリハビリ中、別の患者の電子カルテをコンピューターで見ていた職員らもいて、業務を片手間で行っていたケースもみられた。同機構は、業務怠慢分も不正請求と認めている。同機構が職員らに聞き取りしたところ、開始と終了の時刻を確認せずに漫然と入力していたという回答が多かった。一方、一部の職員は「1日15単位」とするセンターの目標をノルマと受け止め、達成するために水増ししていたと答えたという。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考
江田昌幸,澤田辰徳,友利幸之助,大野勘太:身体障害領域のリハビリテーション職種における業務内容の実態調査および適正単位数予測式の作成.作業療法43(4),pp521-531,2024<https://www.jstage.jst.go.jp/article/jotr/43/4/43_521/_pdf/-char/ja>(参照2024-11-28)
村山幸照:当院におけるリハセラピスト部門の管理運営の実際-2015年から2021年-.相澤病院医学雑誌20,pp23-38,2022<https://aizawahospital.jp/aiz/wp-content/uploads/2022/08/medical_journal20.pdf>(参照2024-11-28)
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