2020.2.29 薬物依存、仏の道、強い意志…清原和博氏と鈴木泰堂氏の対談書『魂問答』を読んだ
最近読んだ印象深い本の話。
2016年2月2日に覚醒剤取締法違反で逮捕され、執行猶予中の身である、かつての甲子園、そしてプロ野球の大スターである清原和博。本書でその清原と対談する相手は鈴木泰堂。神奈川県藤沢市にある示現寺の住職であり、薬物依存患者の支援活動を行っている。本書は2018年秋から2019年夏まで6回にわたって行われた対談を収録したものである。
読みどころ① 清原の中に残る「清原和博」像
薬物依存から抜け出すことの困難さは、時折私達が触れる著名人の薬物事件の再犯の報などに触れたりすることで "なんとなく" 伺い知るところだろう。本書では、対談開始時点で有罪確定から未だ2年しか経過していない清原の発する言葉から、本人にしか語れない生々しさを感じ取ることができる。
2019年末、清原が公の場に姿を表す機会が何度かあった。それを目にした誰もが、現役時代の筋骨隆々とした体格からは遠くかけ離れてしまった姿に驚いたかと思うが、これは薬物依存治療の一環で服用している抗鬱剤の副作用なのだという。
2019年の正月の対談では、鈴木の「今年にむけてなにか目標を持っているのですか?」という問いに対し、清原は「今年中に抗鬱剤を止めたい。少しでもダイエットが捗るようにしたい」と言うのだ。これは生半可なことではなく、そもそも抗鬱剤を飲んでいる患者は服薬する量が増えていくことのほうが一般的な中で、止めたいと口にできること。本書は冒頭からあとがきまで痛々しいほどに打ちひしがれた清原の姿を文字で追うことになるのだが、それでも清原の中に「清原和博」というヒーロー像がまだちゃんと残っているんじゃないか、と思えることが野球ファンとして嬉しかった。
読みどころ② 清原の回想
一方で、本書で清原が語るこれまでの人生の回想は、ひたすらに「英雄の孤独」や、周囲の作り上げた「清原の虚像」を感じさせる。幼少期に祖父に言われた人生を方向づけた言葉、母との記憶、甲子園を席巻した若き日、ドラフトに涙した日、FA、 引退、薬物、家族との別れ…。
今の清原が陥ってしまったどん底に至るまでの「なぜ」に寄り添いながら本書を読み進めてゆくなかで、決して「番長」ではない清原の本当の姿が見えてくる。そして、このどん底が彼の人生のファイナルアンサーではないとするために、清原は何を成し遂げてゆくのだろう、ということに興味と応援の意が湧いてくる。
読みどころ③ 鈴木の「出尽くすまで聴く」姿勢
薬物の支配から抜け出そうとする清原にとって大きなマイルストーンとなるはずだったのが、2019年3月6日に開催される厚生労働省主催のイベントにて清原による講演が予定されていたことであった。しかし、その前日となる5日、母を亡くすというこれ以上ない悲しみが清原に降りかかる。その悲しみをひたすらに語る清原の言葉は読者の心を打つ本書の山場だ。
それに並行して、ひたすらに清原の言葉に耳を傾ける鈴木の姿にも大きく感心するのが特にこのパート。ビジネスの場でも意識されるコーチングや、メンタリングの一貫で行われる「1 on 1」の技術としても見習うべきともいえるような、「本人の言葉が尽きるまで傾聴する」姿や、清原の言葉が尽きたところに鈴木が差し伸べる「教え」の絶妙な選択もまた、この本の読みどころなのである。
引きこもらざるを得ない日々なので
自分も来週の野球観戦の予定がなくなってしまったりと、代わりに何をやれるわけでもない中で家に引きこもらざるを得ない人も多いかと思います。どうしても重苦しい話題が全編を占めるのですが、同時に清原の少しでも良い今後を願う気持ちも生まれることで、どこか前向きな気持ちを読後に抱けるような本だったと思います。興味をお持ちいただければぜひ。
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