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相手に軽く「得した」感をもたせること

「健全な負債感」というらしい。

東京西国分寺にあるクルミドコーヒーでは、
「音の葉コンサート」という名で、定期的にミニコンサートを開いている。
プロの演奏を至近距離で味わってもらいたい、と。

参加費を当初、「投げ銭」っぽくしていた。
定価は 1500円だけど、それにこだわらなくてもいいですよ、と。
演奏の質と少人数による独占感、いつものカフェだが非日常感、
などからの体験価値としては1500円以上の価値はあるだろう。

案の定、ミニコンサートに参加してくれたお客さんは、
1500円プラスαのお金を支払ってくれた。
オーナーは、満足していた。

ところが、これが失敗だと気がついた。
何度か開催してみても、お客さんが増えない。
コンサートの質は上がっているのに、
定員いっぱいにはなかなか集まらない。

なんでだろうと考えた。

答えがわかった。
「毎回“精算”されているんだ」
と。

1500円以上のものを提供されている、とは毎回来るお客さんも感じている。
だから、リピーターとなっている。
けれど、1500円にプラスして払っているから、
得した気持ちはそのたびにお金で精算されている。

これがもし、主催者が1500円以上受け取らなかったら、
お客さんは「得した」気分になったまま、余韻に浸りながら帰路につく。
「得した」気分がもし、軽い「負債感」になったとしたら、
つまり、いい気分にさせてもらったことを誰かに伝えたり、
次回への参加のモチベーションになったり、
そうすることで「得した」気分のお礼として相手に返す。
これが「健全な負債感」だと、オーナーの影山知明さんはいう。

これはコミュニティの運営にもあてはまるし、
ビジネスそのものにもあてはまる。

期待以上の結果を出してはじめて次回のオーダーがくるし、
期待以上のサービスを提唱してこそ持続可能なコミュニティになる。

と、ひとつ思い出した。
わかいとき、先輩に連れて行ってもらった料理屋さんで、
気に入ったら、必ず翌日には自分でいけ、といわれた。

昨日は先輩におごってもらった、お店の人に良くしてもらった、
今日は自分の意思できました、と。
それを「ウラを返す」というんだ、と教わった。

これは客側の礼儀、お店にかわいがってもらうためのワザだと思っていたけど、
これもまた「健全な負債感」を感じさせるあっち側のワザだったのか。


『ゆっくり、いそげ』 影山知明 大和書房 2015年