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ウニはどさ〜っとごはんのうえに

ウニ漁の手伝いにいった。

「ウニはこの時期が一番美味しい」
と、クルマでつれていってくれたジョモちゃんがいうのを、ふと不思議に思った。

ウニは一年中美味しい……。

ところが、よくよく考えてみる。
ウニは獲っていい時期が決められている。
地域と海の状態によって変わるが、
今年の釜石の場合、4月末から7月ごろまで。
この間でしか、ウニは獲れない。

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獲れる時期でしか食べられない。
獲れない時期は食べられない。
食べられない時期は、塩ウニとか焼ウニとか、
加工したウニになる。
あるいは、どこかから運んできたウニになる。
どこかから運んできたものは、
たいがい小さい板とかフネとかに乗せられている、
鮨屋やスーパーでよく見かけるウニで、
あれも立派な加工品である。

地元で獲れた生のウニは、この時期しか食べられない。
だから、
「ウニはこの時期が一番美味しい」
というジョモちゃんの言葉に、ようやく納得した。

イガイガのついている殻を開け、
中からスプーンのようなものでウニの身をほじり出し、
白や黄色のウニの身についている黒い物体を、ピンセットで剥がす。

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この黒い物体は、ウニが食べた海藻、の消化しきれなかったもの。
だから、食べられるけど、ウニを商品にするには、それを取り除かないといけない。
だけど、ウニの身はとてもやわらかい。
黒いのはその身にくっついているから、
慎重にはがさないと、身が崩れる。

ウニが入ったざるを手にして、海水に浸しながら、
前かがみで、丁寧に、かつ、さっさと作業する。

じーっと作業する。
なかなかキレイに剥がれない。
ときどき身を壊してしまう。
ウニはかごにいっぱい入っている。
(それ全部やるの?うそでしょ?いつまでかかるの?)
と思いながら、作業する。

ときどき会話がはずむときがある。
けど、ひとしきり手を動かしながら口も動かすそれが終わると、
またひたすら手を動かすのみの作業になる。

BGMなし。会話なし。
ピンセットで黒いのをはがす。
ウニの身を崩してはいけない。
もくもくと、手を動かす。
(まだ終わんないの……涙)と思いながら、手を動かす。

一生懸命に「無」の状態、瞑想状態にならないかとがんばってみたが、
高級食材ウニを生産するためにピンセットで黒いのをはがす、
という作業は瞑想していられない。
ひたすら、(まだ終わんないの……涙)状態をキープしてがんばる。

がんばらなくていいんだよ。
モヤモヤを受け止めていいんだよ。

じゃない!
がんばらなくてはいけない!
モヤモヤ、たしかに受け止めながら、
わしわしわしわし、黒いのをひっぱがしていく。
心で泣きながら、手を動かして、がんばって、
ウニをつくった。

ウニを待っている人がいる!
ウニを楽しみにしている人がいる!
あんまりそうは思ってないけど、
ムリヤリにでも脳みそをそうやってだまさないと、
とてもとても……。

終わったあとは、ウニめし。
家から持ってきたごはんに、どさ〜っとウニをかけて食べる。
ウニは、わたしが一生懸命やって壊れたウニたち(たぶん)。

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美味しい!
ふわっトロ。
こころなしか味が薄い気がしたが、
いつも食べている板の上のウニには味がつけてある、
ということなので、ウニそのものの味は薄味。
だけど、その濃厚さはウニでしかない。
(ああ、もっと身を壊しておけばよかった、と思った)

ウニは高価だ。
当たり前だ、こんなキツい作業してるんだから。
高くても納得の値段だ。
その前に、漁師さんたちの箱型水中メガネと長竿による卓越した技術、「漁」という仕事があってのことである。
キツい作業してるのに安い価格はありえない。
卓越した技術を駆使しているのに安い価格はありえない。

しかし、ありえないことが起こっている世の中である。
キツい作業してる人を安く使っているからだ。
卓越した技術を尊敬していないからだ。

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食べるものをつくる。
キツい作業してる。
けど、美味しいとうれしくなる。