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「祈りの白菊」
という花火がある。
毎年8月の長岡の花火大会で上がる花火で、
いろんな色とりどりの豪華な花火が上がる中で、
発光色だけの花火が上がる。
第2次大戦に出兵しシベリアに抑留され、
命からがら戻ってこれた花火師嘉瀬誠次さんが、
戦友たちに捧げる追悼の花火。
花火大会は今年は中止となったが、
「祈りの白菊」は3月11日、釜石の根浜海岸に3発上がった。
震災犠牲者の鎮魂と、ふるさと復興への願いを込めて。
宝来館のおかみ岩崎昭子さんの発案(思いつき)から、
釜石の地域商社「かまいしDMC」が主催した。
花火師さんのご厚意で低予算で実施してくれることになったが、
問題は、その3月11日が「火防週間」の真っ只中。
消防署とは巧みに交渉してもう一歩というところまできたけれど、
結局NG。許可されなかった。
いろんなイベントをやってきたおかみさんには、
いつも土壇場で不思議な力が働いて、
今回も「海の上から花火上げるのは問題ないでしょ」、
ということで、港湾関係者から台船が借りられることになった。
釜石港から根浜海岸まで台船を引っ張ってきて、
その上に花火を仕掛けて、祈りの白菊を咲かせた。
台船は、釜石にはこの一隻しかなく、
震災後、釜石港に沈む瓦礫と遺体をすくい上げ、
運んだのがこの台船だった。
復興の知られざるシンボルから上がった「祈りの白菊」。
消防署からは「頼むから来年は別の日にやってくれ」、
とお願いされたおかみだった。