生きててよかったと感じさせるスクラムだった
十分に準備をしてきたのは明らかだった。
スクラムを見ればすぐにわかった。
セットプレー(スクラム、ラインアウトなど)の強さに定評があるイングランド相手に、
スクラムではピクリとも動かなかった。
イングランドが日本のスクラムを押し込むことができなかった。
バックスのプレーのように、スピードに変化をつけたり、
正確無比なキックパスであっといわせたり、
そういう華麗なプレーではない。
スクラムは、細かい技術の組み合わせ。
スパイク半足分、合わせる肩のわずかなズレ。
そうした細かさの総合力が、
パワー対パワーのスクラムを、
フォワード8人の体重の足し算勝負から、
(体重の足し算)✕細やかなテクニック、
へと、イノベーションしていく。
これによって、日本代表のスクラムは「強い」、
つまり「日本代表は強い」という雰囲気をスタジアム全体に漂わせた。
(たぶん)
地味に、力強く。
耐えるだけではなく、押し込む場面もあった。
このスクラムの強さが、
バックスのアタックとフォワードのディフェンスに、
狂気と殺気を与えていた。
日本代表の縦横無尽なプレーに、
イングランド代表の足が止まっていた。
前半40分、後半20まではそうだった。
みんな奇跡が起こると信じていた。
この人たちがいてよかったと思っていた。
生きててよかったと幸せを感じていた。
勝利の神様の背中が見えていた。
神様の肩に手をかけようとしたその瞬間、
神様はすーっと消えていった。
後半20分過ぎ、神様を見失った。
試合は終わった。
12ー34
ドライに数字で見れば、完全な敗北だ。
だけどエモーショナルには、
このスクラム職人たちがいてよかった、
生きててよかった、と、じーんときた。