震災のときよりもっと
「また耐えろっていうんですかねぇ」
宝来館のおかみさんがおどけていう。
明るくふるまっているけど、たぶん深刻。
コロナウイルス感染拡大の恐れで、
釜石でも旅行客が減り、住民の宴会が減り、
宿泊業と飲食業を直撃している。
宿泊予約のキャンセルは、
3月中のものだけでなく、
4月の予約もどんどんキャンセルになっている。
ラグビーのワールドカップがあって、
それに間に合うように三陸鉄道が全面開通し、
リアス式海岸が美しい宮城と岩手の沿岸地域にも
旅を楽しむ人たちが増えてきた。
釜石は震災前から、人口減少が顕著で、
高齢化も進み、
主要産業の製鉄業も縮小され、
鉄道やバスの交通インフラが赤字化し、
釜石市の財政もふらふら。
「人はどんなときに希望を感じるのか」
希望学という新しい学問ジャンルの研究対象となったぐらい、
ワールドカップでたいへんな盛り上がりをみせ、
まさに希望がすぐそこまで、手に届くところまできたときに、
大きな台風で予定されていたラグビーの試合が中止になり、
三陸鉄道も線路に大打撃を受けて長期の運休。
見えてきた希望も、またかすんできた。
「それでも3月になれば、三陸鉄道が復活して、
それが話題になって、お客さんたちが戻ってくる。
だから、春になれば大丈夫だから、春までがんばろうね、
春までがんばろうね、がんばろうね、っていってきたのに」
電話がなると、またキャンセルかとおののく。
メールがくると、またキャンセルかとおののく。
「いつまで続くんですか。
震災のときより、先が見えない」
震災後は、世の中が東北の被災地を応援していた。
がんばろう! という雰囲気が被災地にもあった。
しかしいま、世の中そのものが怯え、縮こまり、
疑心暗鬼になり、
信じられるものもすがりつくものもなく、
がんばろう!という雰囲気は感じにくい。
救世主なんて現れない。
ヒーローもヒロインも。
そんなのは求めてはいけない。
誰かが解決してくれる、と他人任せになるから。
まずは、自分たちが考えないと。
自分たちで助け合わないと。
強くなければ生きていけない。
優しくなければ生きていく資格がない。