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米を作ると女神が強くなる!『天穂のサクナヒメ』の神話的要素を愛でる/卯月鮎・ゲームー案内

書評家・ゲームコラムニストの卯月鮎がオカルト、超常現象、不思議が詰まった話題のゲームをムー的に紹介。このゲーム、ほかとはひと味違う!

文=卯月鮎 #ゲームー

『天穂のサクナヒメ』

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『天穂のサクナヒメ』公式サイト。

「米づくりシステム」で異例のヒット

 2020年11月12日に発売された和風アクションRPG『天穂のサクナヒメ』が、インディー発のタイトルながら世界累計販売50万本を突破して異例のヒットとなっています。口コミで広まっている理由は、いい米を育てて主人公を強くする斬新なゲーム性。鬼と戦うアクションと、日本古来の米づくり手法を取り入れた稲作シミュレーション要素が融合しています。特に「農林水産省のサイトが攻略に最適!」と言われるほど作り込まれた米づくり部分が好評です。

 主人公は神界で失態を犯して鬼が支配するヒノエ島へ追放された女神・サクナヒメ(サクナ)。こうした日本神話的な世界観や物語も、和風の柔らかいビジュアルとあいまって魅力的です。では、ムー的キーワード3つでご案内しましょう。

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米づくりに励む主人公のサクナ。

豊穣神

 サクナは武神と豊穣神の間に生まれた娘で、両方の資質を持ち合わせています。稲作をすることで基本的な能力がアップし、できた米などの食事を食べると一時的に強くなるというシステムです。

 神話上の豊穣神は世界各地で崇拝され、シュメール神話のイナンナやギリシア神話のデメテルが有名なところ。こうした女神は大きく「地母神」に分類されます。「母」とついていますが慈愛だけではなく、死や戦いの概念も包括している大いなる存在。日本神話ならイザナミもそんなイメージがありますね。

 ほかにも日本神話にはオオゲツヒメ、オオクニヌシ、ウカノミタマといった豊穣神がいます。五穀を司る女神・ウカノミタマは伏見稲荷大社の主祭神。眷族のキツネにお供えする油揚げを使ったいなり寿司は、食べると御利益があると俗に言われています。

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ヤナトの主神・カムヒツキ。サクナへ追放を命じる。

大龍(オオミズチ)

 サクナが調査を命じられた島で、かつて彼女の両親が退治した悪神が「オオミズチ」。ゲームのキーポイントとなる存在です。

 ミズチとは「ミズ(水)のチ(霊)」といった意味で一種の水神。中国の竜「蛟竜(こうりゅう)」の「蛟」の字を当て、竜や蛇に似た姿で毒気を吐いて人を害するとされています。

 豊穣神話と竜退治は切っても切れない関係。というのも竜や大蛇はままならない大河を指し、退治とは治水の象徴であることが多いためです。シュメール神話のティアマト退治が代表的な例。日本神話でいえばヤマタノオロチ(出雲の揖斐川を表す竜神ともされる)退治が、クシナダヒメ(稲田の人格化)を救う話として解釈されることがあります。

羽衣

 アクションパートでは、サクナは伸縮自在な羽衣を用いて移動したり、敵を引き寄せて投げ飛ばしたりして戦います。

 実際の伝承では、羽衣は天女が空を飛ぶための衣。天女が地上に降りてきて水浴びをしていた隙に、人間の男が羽衣を隠して妻にしてしまうという異類婚姻譚が世界各地に広まっています。

 天女は日本でも東南アジアでもヨーロッパでも、白い鳥の姿を取ることが多いのですが、アイルランドの「セルキー」はアザラシが毛皮を脱ぐと美女になるという変わり種です。

 ちなみにシーチキンで有名な「はごろもフーズ」は、本社が「羽衣天女の伝説」の伝わる「三保の松原」の近くにあることに由来しているそうです。ツナマヨのおにぎり、なんとなくありがたい気がしますね(笑)。

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アクションパートでは羽衣と武器の農具を駆使して戦う。

「ヒットするのは続編ばかり」という声も聞かれるゲーム界に、突如花開いた『天穂のサクナヒメ』。今後もさらなるブレイクが期待されます。


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