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小学校図画工作における「やわらかい線」論

酒井式の絵画方法にあるかたつむりの線を考える


1. やわらかい線とは
子どもたちに「線はやわらかく描きましょう」と指示しても、果たしてその意図が伝わるでしょうか。この言葉は抽象的すぎて、具体的にどう描けばよいのか子どもたちには分からないでしょう。
では、「やわらかい線」とは具体的にどのような線なのでしょうか。その特徴を考えることで、指導の方法も見えてくるはずです。

やわらかい線とは、定規で引いた直線でもなく、途切れ途切れに跳ねるような線でもありません。また、何気なくさっと引かれた線とも異なります。それは、不規則に歪みながら、大きく曲がったり小さく曲がったりした「曲線の集合体」です。このような線は、線自体に方向性がなく、描かれる途中でどこに向かうのか予測がつきません。結果として、線には広がりや想像力を誘う効果があります。

では、どうすればこのような線を描けるのでしょうか。簡単に言うと、**「非常にゆっくりと線を描かせる」**という一点に尽きます。
酒井式描画指導法では、この描き方を「かたつむりの線」と呼び、描画の速度をイメージさせる具体的な方法を提案しています。


2. かたつむりの線の理論
ここで「酒井式描画指導法入門」から「かたつむりの線」についての説明を私なりの解釈で書きます。

起点と終点の間には無限の変化があります。その変化をその子の五感を動員して捉えて表現するわけです。これは一種の快感です。この感覚を味わわせない手はありません。
この無限の変化を研ぎ澄ました感覚で捉えつつ進むには、ゆっくりと進まなければなりません。線を短く切ると、そこで休息をしてしまい、感覚が途切れます。次に描かれる線も安易になり、結果として快感は失われ、不快感が残ります。
長く息を詰めて進むからこそ、緊張感の中に快感が生まれるのです。だから、ゆっくり、長く描く必要があるのです。このような線を私は「かたつむりの線」と呼びます。
この線を運動感覚として掴むためには、実際に描いてみるしかありません。エチュード(練習課題)を試し、感覚を掴みながら一枚の絵を完成させてみてください。そして、できあがった線をじっくり眺めてみましょう。それが「あなたの線」です。
また、この理論を子どもの指導に当てはめると、次のような考えが導き出されます。
子どもを放任していると、多くの子どもが自分だけの線を失ってしまいます。線だけでなく、形も記号のように均一化し、無感動な表現になります。この現象こそ「金太郎飴」的な絵を生み出す原因です。
一方、強い線でも弱い線でも、その線を引いた本人の神経が通った線は、描いた子どもの全人格が没入した結果です。それは、唯一無二の個性を持つ線であり、その子だけの表現なのです。
このようにして、子どもたちは個性的な「やわらかい線」を描けるようになるのです。


3. 自然界に無い直線
ここで少し視点を変え、自然界と直線の関係について考えてみましょう。
作家の椎名誠氏は、南の島で文明社会を離れた生活を1か月間送った後、帰国した際の体験を講演で語っています。その中で彼が最初に感じたのは「直線が目に飛び込んでくる」ということでした。窓枠、ビル、障子などの直線が迫ってくるように感じられたそうです。
自然界には、直線はほとんど存在しません。雲や波など、自然の形状は常に曲線の集合体であり、揺らぎや不規則さを含んでいます。このため、文明社会の直線が異質に感じられるのです。

また、解剖学者の養老孟司氏も、子どもと自然との関係についてエッセイで述べています。子どもたちが自然に近い存在であるとする考え方と合わせると、教師が子どもたちの絵に自然な曲線を求めるのも理解できます。直線で表された人工的な形状よりも、無限の可能性を感じさせる曲線に魅力を見出すのです。

ただし、この考え方はあくまでも私見ですので、ご参考までに。


さて、前日からの続きで、学級全員の絵を紹介するコーナーです。
4枚紹介します。