昔昔の詩の欠片詰め合わせ04


小指の爪

花が散るように指の先からはらはらと風に乗って遠くへと流れる夢想。
息を、ほどいて。
あぁ、私が燃えたあと、虹の灰になれたならそれはどんなに幸せなことだろうか。
どうか、神様、いらっしゃるのであれば。せめて最後は美しいモノでありたい。


少年の日々

風に揺らぐ白いカーテン
部屋のなかには積み重ねられた本。積み木、トランプ
イスの上には片目うさぎのぬいぐるみ
ある夏の暑い日のこと

ある暑い夏の午後のこと

僕は天使を見た
窓の外から部屋を覗く黄金色に輝く髪を持つ白い羽根の少年を
窓越しの会話 弾む心。それから、笑い声と。
しばらく話すと彼は強い風と共に真っ白な羽根を一枚残して消えていた

ある暑い夏の午後のこと

僕は白い羽根の少年と空を見上げて寝ころんだ
あの日僕らは空に一番近い丘のまん中で
白い雲の羊たちが空をかけていくのを二人なにも言わずに眺めていた
草の香り鳥の声
あっという間に時がすぎ、気づくと君は消えていた
僕の隣に残っていたのは白い羽根だけだった

天使の少年に会ったのはあの年の夏休み
暑い日の午後のこと
僕の手元には三十幾枚かの真っ白な羽根と不思議な思い出


ギムナジウムの箱の中

ギムナジウムの箱の中 同じ形で笑う僕ら

甘く輝く瞳で見つめる君の頬に接吻(キス)を一つ
微笑む君から薫る稚さに
仄かにまじる色をそのうなじに見る

蜂蜜色の柔らかな髪のてっぺんから
桃色の小さな貝のような足の爪の先まで
すべてが僕を捕らえて離さない

僕らはずっと長いこと手を繋いでいた
まるで前世から続く因縁のように固く結ばれていた

「僕たちの為に造られたこの箱庭のような世界がずっと続けばいいのに」
そう呟いた君の手が震えていて、それがまるで僕達の関係の終止符を見ているようで
「大丈夫、僕たちはいつまでも一緒だよ」
僕はそう答えて君の手をぎゅっと強く握った
なんの慰めにもならない空っぽの言葉だ
けれど君は安心したように笑ってくれるから


僕らはこの箱庭に終わりがくることを確かに知っていた
繋いだ手を離さなければならない日がくることを知っていた
それでも愛と呼ぶには幼いこの感情を胸に抱えて暮らしている
そして、そしていつかの終焉が訪れたとき二人泉に沈むだろう
繋いだ手と手を放すことができない僕らは二人泉に沈むだろう

本当に二人きりの世界を創るのだ

たとえば

例えば 僕が 夜に輝く星になったとして
もし 君が 泣いているのなら

君の涙をさらって
降り注ぐ雨の変わりにたくさんの金平糖を降らせよう


例えば 僕が 水底に潜む貝になったとして
もし 君が 悲しんでいるのなら

君の悲しみを吸い取って
波に揺られ上り行くあぶくの変わりに真珠を吐き出そう


例えば 君が 自由気ままな風になったとして
もし 僕が 嘆いていたなら

君の声を、歌を、喜びを、
僕の元まで運んで欲しい


優しい風とひそやかな音楽につつまれて
僕は今日も君を想う


小夜啼鳥の白昼夢
小夜啼鳥(ナイチンゲール)は迷い込む
誰もが羨む声で歌った夜に

嘗て自分が歌った真夜中の舞台(ステージ)を見ている


小夜啼鳥は夢を見る
それはそれは素敵で幸せな夢

午後の日差しをあびながら
テラスで一人、嘗ての世界を見ている


真っ白だった歌声が
闇夜を照らしたあの時を

月に照らされ輝いた嘗ての己を夢に見る

拍手喝采を浴びた嘗ての己を夢に見る



嬉しそうに楽しそうに歌う自分を
ただただながめている


梟が言った
「可哀相に。小夜啼鳥はもう歌うことが出来ないのさ」


ピーコックは嘆く。
「嗚呼、嗚呼、なんてこと!あの美しい歌声をもう聞くことが出来ないなんて!あの声で踊ることが出来ないなんて!」


小夜啼鳥は傍らでただ其れを聞いていた。

小さな燕が空を舞っていた


月が明るい夜だった



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