昔昔の詩の欠片詰め合わせ05


小夜啼鳥(ナイチンゲール)の白昼夢

小夜啼鳥(ナイチンゲール)は迷い込む
誰もが羨む声で歌った夜に

嘗て自分が歌った真夜中の舞台(ステージ)を見ている

小夜啼鳥は夢を見る
それはそれは素敵で幸せな夢

午後の日差しをあびながら
テラスで一人、嘗ての世界を見ている

真っ白だった歌声が
闇夜を照らしたあの時を

月に照らされ輝いた嘗ての己を夢に見る

拍手喝采を浴びた嘗ての己を夢に見る


嬉しそうに楽しそうに歌う自分を
ただただながめている

梟が言った
「可哀相に。小夜啼鳥はもう歌うことが出来ないのさ」

ピーコックは嘆く。
「嗚呼、嗚呼、なんてこと!あの美しい歌声をもう聞くことが出来ないなんて!あの声で踊ることが出来ないなんて!」


小夜啼鳥は傍らでただ其れを聞いていた。

小さな燕が空を舞っていた


月が明るい夜だった

炭酸水の海

びーだまみたいな僕ら。
炭酸水(サイダー)の海の中を泳いでいる。

どこまでも透き通った水色の中でふぅわりと太陽の光を浴びる。

僕の耳元で泡がはじける。
ぱちぱち、ぱちぱちと音をたてて。
僕の目の前で泡がはじける。
はじけた泡は太陽の光をあびてキラキラと輝き星になる。

そうして星になった泡は炭酸水の海をふぅわりふぅわりと漂いながら上へのぼっていく。


(彼らは空を目指しているのかしら?)


時折、大きな泡が僕にぶつかってはじけては
小さなたくさん泡と星になって上へ上へのぼっていく。


ぱちり、ぱちり。


(あぁ、いっそ僕もこのまま星になれたならどれだけ幸せなことだろう)


弾けて、

海を飛び、

空を泳いで、


(彼らの中にキミもいるのかしら?)


キミの元へ。

真夜中の世界

真夜中の世界で
真夜中の世界に
一人で ひとりで 立っているとね
安心するの
何故かしら?
暗闇の中にひとりでも恐怖なんて感じないわ
満たされているの
とても不思議な感覚だわ

暗くて くらくて 見えなくても…
いいえ、きっと、見えないから
私は私を偽らずにすむから
仮面を被る必要もないから
だから きっと 安心するの

くらくて 暗くて
でも暖かくて
私のままのわたしを
優しく包みこんでくれるようだわ
私に張り付いた仮面を
少しずつ剥がしてくれるようだわ


私の心を
解して 溶かして


真夜中の世界で
真夜中の世界が

涅槃という世界

転がる 転がる 地獄の底へ
断ち切れ 断ち切れ 蜘蛛の糸
侵した 罪は 還らねど
飛び散る 飛び散る 臓物を
釜茹で 釜茹で 煮えたった
食いつく 鴉の 空骸(うつむくろ)
舞い散る 舞い散る 曼珠沙華
見上げた 空には 金色の
微笑み たたえた 日輪様(ひのわさま)

12ヶ月

柘榴石の眠りから覚めて
紫水晶に照らされる
アクアマリンの空を浴び
ダイヤモンドを抱きしめる
エメラルド色した猫に挨拶を
真珠の鈴を受け取って
ルビーの種をまいたなら
ペリドットの芽がこんにちは
サファイアの海へついたなら
トルマリンの舟に乗りましょう
トパーズの靴を脱ぎ捨てた
ラピスラズリの箱の中


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