どうせ無理を言わないで
キーンコーンカーンコーン。
4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
やっと鳴った。
僕は、すぐに教科書をしまう。
廊下を横目でみつつ、手早く礼を終わらせる。
待ちに待った、給食。
もうおなかがペコペコだった。なぜなら、僕は、朝ご飯を食べていないからだ。おなかが鳴るのを隠しながら授業を受けるのは少しつらいが、
もう慣れた。
今日は、朝献立を見てワクワクして家を飛び出した。
大好きなカレーライスとサラダ鶏の甘たれ焼きに、牛乳。
僕の大好きなメニューだ。
急いで、給食の準備をしなきゃと思い、
友達のケンちゃんを誘って一緒に手洗い場に向かった。
ケンちゃん 「おい。リュウまたアザできてないか?」
僕 「いや、気のせいだよ。」
ケンちゃん「そうか。何かあったらまたいうんだぞ。うちに辛いときは
こいよ。あんま贅沢な飯は食べさせてあげられないけど、たらふくうまいもの母さんが作ってくれるし、兄ちゃんが東京に行ったから、布団も余ってるし、、」
僕「ありがとう。でも大丈夫いつものことだから。」
そんな話をしながら、じゃ口をひねりふと思う。
「なんでうちと、ケンちゃんとの家族にこんなにも違いがあるんだろう」と。
何度も思ったことがまた、ぐるぐる頭の中で考えがこんがらがる。
どうしようもないことなのに。
ケンちゃんは、僕よりちょっと背が高くて頭もよくて頼もしい。それに、僕の家より大きなおうちに住んでいる。そして、僕が家でつらい思いをした次の日は、絶えることなく話をうつむきながらも相づちをずっとうち聞いてくれているのだ。ケンちゃんは一緒に話をしているときたまに男泣きをしている。(男泣きしていることは僕とケンちゃんとの秘密だけどね)ずっと味方をしてくれている存在だ。男から見てもかっこいいと思える存在だ。
そんな僕は、ふがいない自分とケンちゃんを比較してしまうことがたまにある。
悪い癖だとは思う。
石けんネットで、手をこすっていると自分がなんだか、またみじめな存在に感じた。
***
僕は、家に居場所がない。
正確には、必要とされていないから
帰る場所はあったとしても、僕にはそこはいるべき場所ではないと、小学生の僕でもなんとなくわかることだった。
僕の家は、母親とたまに帰ってくる父親と弟の4人暮らし。だけど、おかあさんはごはんをちゃんと作ってくれたことがあまりない。少なくとも、僕の記憶が正しければ給食より、おいしくて温かくて愛情がいっぱいの、おうちで食べられるようなご飯は食べたことがないと思う。たまにあったとしても、インスタントラーメンが机に一つポツンと置いてあるだけだった。
お父さんはお父さんと呼べるのかなかなか難しい。お父さんは最近家には帰っていない。僕が察するに、他のおうちにいってるらしい。難しいことはわからないが、僕にはまだ、はやい話だと思って知らないふりをまだしている。本当はちょっぴりわかる気がするけど。
弟は、僕より2つ離れているが僕と違ってお母さんと仲が良い。
お母さんは僕をよく思っていない。お母さんが、僕になんでいじわるをするのかわからない。だけど、もうそれをずっと頭の中で考えるのは疲れてしまった。そして、それはどうにもならないことだと小さい僕ながらに悟っていた。お母さんは、僕にはほぼインスタントラーメン以外の食事を与えてくれない。
それに、一緒の空間にいることはほぼないが、お母さんに良くないことがあるらしいと、急に僕のいるところにきて、
「どうせあんたがやったんでしょ...いい加減にしなさいよ。」
僕をなぐる。蹴る。ひっぱたく。だから、僕は極力お母さんを怒らせないようにたたかれないようにと息をひそめる。
部屋の隅で僕は三角座りをしながらうつむいてボロボロのおもちゃの車で遊んだり、なんとか空腹を紛らわしながら宿題をする。
暗くなると、隣の部屋からもれてくる光と弟とお母さんの楽しそうな声とテレビの音をかすかに聞きながら、今日も泣きながら、うすいボロボロのタオルケットにくるまって寝る。
そして、朝になって眠い目とボロボロの体を起こしながら、また昨日と同じ服を着る。
それが僕の日常だ。
僕には、学校が救いだった。ここでは、僕にいじわるしてくる人も僕をいじめる人もいない。
たまに、ちょっとからかわれることもあったが気にしていないほどのことだったし、何より友達と食べる給食が楽しみで仕方がなかった。
***
給食エプロンを廊下のフックから急いでとって、給食エプロンを着る。
そして、マスクをつけて廊下にある給食の大きなワゴンから
みんなで、給食の入ったトレイを教室に運ぶ。
いいにおいが給食にたちこめる。
僕はこの瞬間のにおいが大好きだ。
僕がまだあんまりたくさんのことは知らないけれど
知っている中で、一番幸せなにおいだとおもう。
僕は横の子と、授業のことやサッカーの話をしながら
給食をみんなのお皿に分ける。
毎回この度に思うけど、
分ける瞬間、みんなが
「ありがとう」
と言ってくれて、僕が作ったわけでもないけど感謝されるのがわかってうれしかった。
おなかがすいているけど、給食を盛り付けているときは
なんとなく、ずっと続いてほしい気もする瞬間でもあったりする。
そんなこんなで、給食当番の子がみんなエプロンを脱いで、
エプロンの袋に入れて座ったらやっと給食!!
今日の日直が、合唱の合図をするために席を立つ。
日直「手を合わせましょう。給食のおばちゃんに感謝を込めてせーの!!!」
みんな:
「いただきます!」
mogumogu....
今日は一段と給食がおいしい。
みんなで、机を並べて給食を食べる。だけど今日は先生が目の前にいるからちょっと緊張しつつもとっても嬉しくて給食がおいしい。
僕のクラスでは給食の時順番に先生が机をもってきてくれて
ごはんを一緒に食べられる。
先生の周りには、いつも給食中生徒が集まる。
だいたい席の近いものでつけて給食は食べるが、僕は先生と近くで食べているものがいつもうらやましかった。
先生は、眼鏡をかけて白色頭の田中先生という男だ。
先生はいつも似たようなグレーのパーカーを着てる。
たばこのにおいとちょっとおじさんのにおいもするけれど
僕は田中先生のにおいも含めて全部が憧れで大好きだった。先生はいつも僕を心配してくれて交換ノートをひそかにしてくれている。
先生は、「男と男の秘密だぞリュウ。まあなんかあったら
俺の家にこい。」「本当はいけないけど校長先生に言って、1日ぐらいならお前を置いてやれると思うし、なるべく学校に長くいれるように、放課後教室を開けられる場所を作るからそう言って先生は、放課後教室を開けてくれた。
僕は担任の先生が田中先生でよかったと心から思う。
先生はまたしゃべりながら、カレーライスをグレーのパーカーの紐あたりに、ちょっとこぼしながら言った。
「リュウ。人生嫌なことばっかじゃないぞ。先生だって今まで生きてきたとき、叱られてなにくそって思って悔しくて泣いたけど、結局今はなんやかんや楽しくみんなととこうして給食を食べれて幸せだぞ。
と照れ臭そうに先生はいう。
「ああ先生は、今恥ずかしながらにも一生懸命に僕に伝えようとしてくれているんだな」と心から思った。
僕は、田中先生が時々笑いかけてくるのを
みて、ちょっとくすぐったい気持ちで給食を途中、ゆっくり噛みしめながら食べた。そのあとのカレーライスの味はまた違った味だった。
みんなが食べ終わると、日直がまた立つ。
日直 「手を合わせましょう!!!!給食のおばちゃん。まわりのみんなに感謝を込めてごちそうさまでした!!!
***
1か月後.....
最近は、放課後が楽しみだ。
それは、学校近くの大学に通うお姉ちゃんお兄ちゃんとおやつを食べながら宿題ができるからだ。
いつもギリギリまでおうちには帰りたくないという気持ちの中
帰っていたが、放課後に居場所があってうれしい。
そして、そこにいる大人やなによりいつも心配してくれるケンちゃんそして大好きな先生がいてくれて、自分がいてもよいのだと感じれる場所がある。あったかい場所で僕を必要としてくれている。
暗いおうちで僕の居場所がない。隅に追いやられているのに対してここでは、自由に好きなことができた。絵をかいたり、本を読んだり、勉強をしたり、ボードゲームをしたり。各々が自由でいれた。お姉ちゃんたちは僕たちの聞くことに、一生懸命に答えてくれる。
真っ暗なおうちは、ブラックホール。
ここと比べてみるとこの放課後の時間と給食は僕にとっては黄色だったり
赤だったり、色を塗っている最中
のとっても楽しいキャンバスのような白色だった。
***
拝啓ちょっと大人になった僕へ
僕も少しずつ、大人になる。大人になれば、わかりたくないこと、知りたくないものも増えるだろうよ。
だけど、今の僕の周りにいる大人や友達は、少なくとも前向きな言葉を
言ってくれる人が多くいてくれてどうにか僕は、そんなにひねくれず生きて行けそうです
「どうせ無理」って言われても自分で思っても、「前向きに」って思えるようになった強い自分もいるしね。
僕は将来何者になるかはわからないけど、少なくともケンちゃんや田中先生や、放課後学習の場の大学生さんや同級生。みんなが僕にはいてくれるから、なにか恩返しができるような人間になれたら万々歳だ。
恩返しできるまで、毎日がんばれよ!
追伸 僕よひねくれないでくれよ頼むから。あと酒とたばこと悪い友達と付き合うのは少なめにね!
それと、いつかお母さんを許してあげてね。大人になればわかると思う。
それが、すべてのことを愛してすべてを許せるぐらいになったら、たいしたもんだよ。
お前ならできるよ自信を持ち愛をもって毎日生きろ
今はまだサナギの僕より。
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