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親子丼が食べたい


 鍋の季節がやってきて久しい。我が家はこの季節、大鍋がガスコンロを占拠し常に鍋が食べられる環境が整備されている。残り汁はおじやにしたりうどんにしたり、濃い昆布だしが旨い。

 人はなぜ、今あるものをないがしろにして、他のものに心が向いてしまうのか。とても親子丼が食べたい。

 玉ねぎをサラダ油でくたくたになるまで炒めて、汁気は少な目になるように調味料を注ぎ煮立たせ、皮つきの鶏もも肉を加え、ぷりぷりが損なわれない程度に煮込む。最後に、十分すぎる量の溶き卵を2回に分けて流し込む。私は雑炊もかきたまうどんも卵たっぷりが良いから、1人前に卵は大2つ使う。三つ葉は価値がわからないため、そもそも家に無いしあっても乗せない。

 親子丼は和食なのだから、玉ねぎなんて邪道だ長ネギを使うんだいと長らく思っていた。しかしあるきっかけで玉ねぎで作ってみると、美味しすぎて人生で10番目に驚いた。ああ工事の音がうるさい。外壁をドリルでぐりぐりしている。私も毎日noteも工事の作業もどちらも大事だ、共存させてくれ。
 玉ねぎの方が一体感が出る。あと、ご飯に合わせる甘い味付けに玉ねぎはとてもマッチするのだ。ぷりぷりの鶏もも肉、おしょうゆ味の溶き卵、ああ食べたい。硬めに炊いたつやつや白米にのせて…最初はなんとなく箸で食べるけど後半はレンゲでもがもが食べる。

 小さい頃から、親子丼は母が作る作り置きシリーズのひとつであった。溶き卵を入れる前の茶色いネギと鶏肉と汁気、これを大鍋に用意しておき、食べる時小鍋にとって卵を流し入れるのである。
 朝食時に帰って来る父も、心なしかご機嫌で卵を流し入れていた気がする。それぞれこだわりの強い家族だったから、最後の最後で自分好みに卵を入れて、量や加熱具合を調整できる点も良かった。

 大人たちは親子丼に七味をかける。「みのもかける?」ときかれて、恐る恐るかけて食べてなんとも言えぬ味の変化に首を傾げたのも思い出だ。特別好物じゃないのに、ふと食べたくなるのは、こういった思い出をはらんでいるからかもしれない。

 親子丼について考え書いて、なんだか気が済んだ。大人しくガスコンロの鍋の残りを食べるとする。


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