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読書記録、短編集ブーム到来
短編集を読むのが苦手だった。図書館に行ったときにチラッと一編読むのは楽しいけれど、一冊全て読み通すとなると難しい。
世界を理解し始めたところで終わっちゃう、また新しく世界を理解するところから始める。この繰り返しがちょっと煩わしい。長編を一冊読むより、短編集を一冊読む方が格段に時間がかかる。
しかし最近、短編集を読むと自分の創作が捗ることに気がついた。自分が書くのは主に短編だから、必然的に短編集は身近なお手本になる。読んで書いてを繰り返すのが楽しい。
『月とコーヒー』吉田篤弘
好きな作家の短編集がkindleアンリミテッドで読める幸せ。読んだのは先月のことで、今見たらもう対象外になっていた。なので気に入った編を抜き出すことができない。
ですますちょうで、どこか読み聞かせらしい人をうとうと安心させる文章。些細な空気の揺らぎでふっとロウソクの火が消えるように、必然的とも唐突ともいえる終わり方。あとがきに「眠る前に読んで、夢と混ざり合うように書いた」と書いてあったような。まさにそんな具合で心地よかった。
タイトルは思い出せないが、終末世界で消えていく住人の彫像を残していくお話が好きだ。終末世界を描いているのに絶望感が無くて、ただ美しくて切なかった。私は地球最後の日は、カレーライスと麻婆豆腐とネギトロとマックのポテナゲを食べます。一つには絞りません。
『あなたの猫、お預かりします』蒼井上鷹
動物好きな人たちが起こす奇怪な事件が描かれる短編集。動物を異常に愛している双子の老婦人、亀しか愛せない男、ムクドリに芸を仕込む小学生等、ほっこりするような描写は出てこない。かならず予想の斜め上の結末が訪れ、「あ、そうなんすね」と気まずい気持ちになる。めっちゃ面白い!満足のいく読書体験!とはならないが、絶妙な不可解さが病みつきになって面白かった。
『世界堂書店』米澤穂信・編
『黒牢城』を書いた米澤穂信が世界中から集めた傑作短編集。一発目からフランスの小説家が書いた源氏物語の創作小説がセレクトされていて、一気に感心を引く。
著名人が編んだ短編集というのは、はじめてに編者の前置きが長々と入るものだ。しかしこの本はそれが無く、いきなり『源氏の君の最後の恋』とタイトルが入って始まるのがせっかちな私にあっていた。
以下、お気に入り4編。
『ロンジュモーの囚人たち』レオン・ブロワ
夫婦目線で物語は描かれていない。2人は果たして、旅立てたのだろうか。まだそこにいつかもしれない。
『シャングリラ』張系国
なんと強烈な面白さ!!知らない人についってちゃいけません、知らないモノに文明を与えてもいけません。中国の文学にぐっと興味が湧いた。
『私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない』キャロル・エムシュウィラー
奇想なのか現実的なのか。面白いのか面白くないのか、よくわからない。よくわからなくて結局面白い。
『石の葬式』パノス・カルネジス
双子はもっと獰猛になっても良かったと思う。はたから見て初めてわかる男の異常さ、病んだ様の描写にゾクゾクした。
『世界堂書店』書店や、前に記録した宮部みゆきの『teller』など、小説家が編んだ世界の短編集は面白い。ちょっと読むのに時間がかかるけれど、これからも果敢に短編集に向かっていこう。
今日はここまで。