社会の創り手を育む高校教育のいま─探究活動を通じて高校生の未来を変える、マイプロジェクトアワード運営者たちの挑戦(前編)
「総合的な探究の時間」が始まったこともあり、社会課題や地域問題に関心を持ち、積極的に行動する高校生が増えています。そうした若者が自身のアイデアや取り組みを発表し、社会に向けて自分の思いを発信できる場として、各エリアで開催されているのが「マイプロジェクトアワード」です。
マイプロジェクトアワードは、NPOカタリバが運営する「日本最大級の学びの祭典」。
全国大会のような位置づけである「全国Summit」と、地方大会のような位置づけである「地域Summit」に分かれて実施しています。
そのうち、「地域Summit」は地域パートナー(CP)と呼ばれる、各エリアで高校生の探究活動をサポートする地域の企業・NPO・個人によって開催・運営を行っています。
本シリーズでは、「なぜマイプロに関わるのか」、そして「マイプロジェクトアワードをどのような場にしたいと考えているのか」をテーマに、京都・岐阜・福井という、日本のほぼ真ん中あたりでCPを務めている3団体の代表のトークセッションの様子をまとめました。
話し手
マイプロジェクトに関わり始めたきっかけ
伊藤: 僕、元々自衛官じゃないですか。で、自衛官時代の自分の生き方にもやもやしていて、「このままレールに乗っていっていいのかな」なんて考えてたんですよね。そんな時に出会ったのが「ルーツしまね」という、地元島根にゆかりのある都市部の若者の関係人口化プロジェクトで、その交流会で高校時代の先輩と再会したんです。そこで、その先輩に「ちょっと島根に来いよ」と軽い感じで連れ出されたのがマイプロスタートアップ合宿だったんです。
※「マイプロスタートアップ合宿」とは、高校生が自分だけのプロジェクトを大人といっしょに考える合宿のこと。
合宿で出会った高校生や教育関係者の皆さんが魅力的で、当時の僕にとっては衝撃的な経験でした。「何これ、めっちゃおもろいじゃん!」って気持ちは今でも忘れられないです。そして、この世界観を創りたいという想いでカタリバ雲南拠点に就職しようとしたところ、家庭の事情で、岐阜に腰を落ち着けたわけです。その後、岐阜市さんとカタリバさんがみらい人材育成事業を立ち上げられて、現地パートナーとして一緒に活動し始めたことがきっかけで、中部事務局としてマイプロにも関わることになりました。
中田: 私は元々京都で、高校生の地域活動を応援する一人として活動していました。当時、高校生自身で、公民館の予約ができなかったりしたのでサポートしたり、実際に、まち歩きの企画を一緒に高校生と考えて、楽しんでいました。マイプロジェクトは、カタリバさんが関西でも広めるタイミングで、参画しました。それからは京都にもっと広げたいと思い、ボランティアのファシリテーターとして関わり、地域大会の司会をやっていました。その時に地域事務局も立ち上がったので、関西事務局として関わり始めました。
村上:僕はカタリバの内定もらったあとに今村亮さん(現:株式会社DISCOVERY STUDIO代表取締役)に大阪でマイプロのイベントあるからおいでみたいな感じで呼ばれて、それがマイプロを知ったスタートですね。ほぼ内定者研修みたいな感じで、「大阪で君の部署発表するからね」と言われていて…。それから3か月だけだったんですけどマイプロの全国事務局に入り、全国Summitの運営に関わって、その後岩手に異動したって感じです。で、2年岩手で働いて、北陸の仕事ができないかなと思っていた矢先に、福井の会社からUターンしないかと誘われたのもありまして、業務委託でマイプロの北陸エリアに関わるお仕事をいただいたのが福井でマイプロに関わったスタートです。
中田: 私たちは地域パートナーになる前に、各エリア(都道府県横断型)の地域事務局を担うところからスタートしましたよね。
伊藤:そうそう!東海3県を受け持っていた頃は、がむしゃら過ぎて何が起きてたかのか、よく覚えていないことも多いです(苦笑)ただ、東海3県を担当していた時、僕自身、当事者性を持てていなかったところがあったんだなと、今となっては思ってるんです。
岐阜・愛知・三重それぞれの課題はもちろん全然違うわけで、愛知といっても名古屋と周辺の市町とでは人口規模や学校数も異なるし、三重や岐阜でも名古屋の通勤圏かどうか、といった地理的な要因で環境も違ってくるんです。でも、東海3県を担当していた当時は、その”当たり前”を見過ごしていたので、相当雑な括り方をしていたなと思いますね。基盤がない場所で、まずは形にしなければ、という想いが強かったんだと思っています。
特に、広域で受け持っていた頃を振り返ると、皆さんはどんなことが印象に残っていますか?
村上:3県それぞれとの関係性構築が難しかったかなと思っていて。富山県は営業行こうにも正直高校のお名前も分からない状態だから行くのも大変だし、石川は知り合いも多かったのでやりやすかったんですけど仲がいいからこそ、どううまくやっていくか、みたいなのがめちゃくちゃ難しいなぁと思ってました。コロナ禍でもあったんで。どう協力していくかみたいなのがすごく難しかったなっていう印象ですね。
中田:私も関西2府4県を担当していました。その中でも、重点地域を作ってやってましたね。まずはどこかの地域でモデルケースを作る必要があると感じていました。そこで当時、京都府北部と兵庫県北部で、北近畿大会として、ミニ発表会をこまめにしていました。それが京都府の地域Summitのモデルケースに繋がっていったと思います。
その後、エリアが京都に絞られてからは、やりやすくなったと思っていて。関西圏全体だと、エリアが広く、本当に届けたい層までなかなか届けることができずに終わってしまうこともしばしばあったので、単独の都道府県になってやりやすくなりました。
今までどんなことをやってきた?
村上:最初は、高校生と一緒にプロジェクトを作るオンラインイベントをやったりとか、すでに探究活動している高校生の中間の相談会をやったりしてました。それを持って先生方に営業行くと、リアクション含めて「今はこの辺に悩んでる」とか、「本当はこういうイベントにいっぱい参加してほしいけど、学校としてはちょっとプッシュしづらいんだよね」とか「この部分は学校内で出来ているから、むしろこういう企画をやってほしい」みたいな感じの学校側の相談をめちゃくちゃ聞かせていただいたのは大きかったですね。
「福井の高校生にこういうふうになってほしいと思っていて、こんなこと企画してるんですけど、どう思いますか?」と思いを持って話をしたときに、ちゃんと先生方がリアクションしてくれるのは、やっぱり地場の人間だからこそだよなと、凄い思いますね。
伊藤:たしかに。はじめは、探究系のイベントを打っても全然響かないことばかりで。福井や京都もそうですけど、全県を担当する中での現場感って、どんな状態だと思われてます?例えば、県内のどのエリアにも解像度高く関わってるなっていう感覚なのか。
ちなみに、岐阜は今年度から県内の4つの地区に、地域パートナーを設置したんですよね。
白川郷や下呂温泉が有名な飛騨高山地区は野道さん、美濃焼の産地で長野や愛知に隣接する東濃地区は千景ちゃん、美濃和紙や刃物など伝統工芸品のある中濃地区は大谷さん、そして県庁所在地のある岐阜地区は僕という具合に、現場感のある実務担当者がいてくれるので、現場対応はお任せしています。僕だけで全県を見るのは無理だ、といい意味で諦めているわけです(笑)
中田:私はマイプロジェクトの中でも京都府Summitなのか、それ以外なのかで現場感がちょっと分かれるなと思っています。
京都府Summitは府内全域になるので、マイプロを軸に探究をやってくださる学校が、各エリアで1校以上は出てきています。最初は、マイプロジェクトの言葉をご理解いただくことに注力し、高校を訪問しておりました。
Summit以外だと、普段の授業設計、授業実施や教員研修してくださいというお願いは、エリアを問わずにご連絡いただいています。
理由はシンプルで、ローカルでやってる人達が少ないからですね。例えば、京都府北部の一部のエリアではコーディネーターの方が、学校やエリアで関わっています。そういったプレイヤーの方が少ない地域からご依頼いただくことが多い気がしています。
※中編・後編は近日公開予定です。※
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