殺人犯は本当に悪者なのか?

書籍:誰もボクを見ていない
著者:山寺香
評価:★★★★☆

事件のことはなんとなく記憶にある。

少年がお金欲しさに祖父母を殺したという2014年に起こった事件だ。

この類の事件がさして珍しいものではなくなったこともあり、またこんな事件が起こったんだなぐらいにしか気に留めていなかったが、何かの記事に実はこの事件の真相には複雑な事情があって、その真相がこの本に記されていると知り、興味を持って読んでみたわけだ。

読み進めるとそこには想像を超える真実が書き記されていた。

不幸な生い立ちを辿る子供というのは確かに存在するのだろうが、これだけ孤独で、しかも実の母親からもいいように利用されている彼のような子供が今の日本に存在しているのかと思うと、正直信じられないという気持ちがある一方で事実として受け止めざるを得ない信憑性を持った内容に釘付けになった。

犯人の優希(仮名)は、特定の住所も持たず母親と幼い4歳の妹との3人でその日暮らしの生活をしていた。

母親は手に入れたお金をすぐに遊興費に使ってしまうようなダメ人間であるが、優希が幼い頃から巧みに自分の言うことを聞くよう仕向けてきたこともあり、優希がこの母親のもとを立ち去るようなことができない状況にあった。

そんなときとうとうお金に困った母親が、あろうことか自分の実の両親である優希の祖父母を殺害してお金を得ることができないかと優希に持ちかけ、そして事件か発生したというのが事の経緯だ。

最終的にこの母親の殺害指示は裁判で認められることはなく、逆に優希には殺人罪で15年という刑務所生活を余儀なくされることが結審した。

確かに殺人を犯したことは事実だし、それに対して罪を償う必要があることは間違いないことだが、一方でそこまでの過程を軽視し、一番の事件の要因を作った母親に対して相当な罪が課せられないのは法律の弱点に思えてならない。

その判決に対する不満も去ることながら、最も重要なことはなぜ彼のような犯罪者が生まれてしまったのかということに一人でも多くの人が目を向けるべきということだろう。

自分の子供はもちろんのこと、自分の身の回りに同じような境遇の人が居たとき、手を差し伸べられるような人間でありたいと思う。

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