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絡まった糸
ある日、私は友達から「俺の運命を見届けてくれないか」と言われ、彼の知り合いのライブへ足を運ぶことになった。彼は高校時代にその知り合いの女性と出会い、密かに想いを寄せていた。そしてこのたび、ライブに来てほしいと誘われたらしい。不確定すぎる未来を感じ、私の心は期待と不安で満たされていた。
念願叶い、彼は会場にて運命の女性と会話を交わすことができた。しかし、浮ついたドレスや強い香水の匂いに失望し、気持ちが冷めてしまったらしい。煌びやかな六本木ヒルズの中で、私は彼の怒り、そして悲しみを一身に引き受けることになった。彼の言葉は一層の切実さを帯び、その複雑な心情と想いが浮かび上がった。
なぜ、女性はそこまで着飾る必要があったのか。彼がそこまで切実に想う熱情。秘められた物語があったような気がしてならない。しかし数十年が経過し全てが風化した今、この出来事について深く耳を傾けられないことが悔やまれる。
帰り道、六本木ヒルズの夜景を背に、ふと目に留まったのは巨大な蜘蛛の彫刻『ママン』だった。子どもを宿した母蜘蛛にふと母性を感じ、私は彼を見守って欲しいと切に願った。願いが通じたのか、その後、彼はひたすらに異性を惹き付けた。
母蜘蛛もまた、深い物語を伴っていたようだ。彼の想いに手を貸し、運命の糸を紡ぎ続けていたのかもしれない。
すべての出会いには、見えざる物語が流れている。彼にも彼女にも、蜘蛛にも。しかし、一度に受け入れようとすると、その感情に焼かれ、心が擦り切れてしまう。だから、私は時が経ってから静かに耳を傾けることにしている。そうすると、その一片一片がちょうど良いバランスで心に染み渡る。こうして、より面白い事実や数奇な運命を感じ取ることができれば、生きている甲斐がある。