初夏の風を記憶する
この部屋のむっとした暑さは、ずっととどまっていると気づかないものです。
頭がぼんやりしてきたなとか、服が肌に張り付いて気持ち悪くなってきたなとか、そういう感覚が部屋が異常に暑くなっていることをひとあし遅れで私に知らせます。
一人暮らしを始めたら、軽い気持ちで窓を開けることができなくなってしまいました。真ん前のお家から丸見えになるし、すぐ下の道路に音が漏れるから。
一軒家みたいに沢山の窓があるわけでもないし、空気の通り道を作るのも難しいんです。換気扇が回っていて日当たりも悪い廊下は涼しいけれど、部屋はいつでも少しむっとした空気を蓄えてしまうんです。
だから数時間に1回は、窓を開け放つことにしました。
まだ地面から熱をもらう前の澄んだ風が吹き込んできます。
5月の風と太陽の光は、運動会の季節を思い出させます。
晴れているときは眩し良い光に体は焦がされるのに、日陰に入ると驚くほどの静寂がそこにあります。風は春の名残で時折強く吹くのに、まだこもった熱はありません。初夏が爽やかだと言われる理由を見せてくれるような心地よい空気が、今日も窓の外からは流れ込んできます。
5月の心地よさはあっという間に過ぎてしまうからこそ、この空の青さと涼しい風を来年まで覚えていたいと思います。
今年の梅雨入りは早いらしいですね。
私は梅雨は嫌いです。雨が好きではないからです。
雨だって美しいのだけれど、体調の不良は鬱陶しいものです。美しさとか哀愁とかエモさとかを切り取る楽しさを差し置いて、この偏頭痛に悩まされる限り雨の日を楽しめる日は来ないような気がします。
そして、東京の夏。
夏はとても好きで、うだるような暑さの中でダラダラと汗をかくことを楽しめる私です。それでも、東京は年々暑くなっていってちょっと参ってしまうのです。
季節の移り変わりを、いつまで私は感じていられるでしょう。
四季、それぞれの匂いが私は好きです。
それぞれの光の強さや淡さも、生き物の気配も。
そしてそれらが運んでくる思い出がたくさんあるということも。
今日吹いた初夏の風を覚えておこう。
きっと来年も、また別の場所で私はこの風を感じるんです。
その時に私が思い出す今日がいい日であるように、今日も精一杯生きたいと思います。