【なんでもない食事】

男は目覚めた
凍てつく自室にあるベッドの上で

暦は睦月の中程
明け方というにはまだ少し早い時間。

空腹をおぼえた

最後にとった食事は半日前の即席麺、味気の無いものだ
不味くはない、ただ美味しくもない、だから一杯で食べるのをやめてしまう

栄養価など油揚げ麺と粉末スープのみ
即席麺では腹の一時凌ぎとしか言えないだろう

なにか美味いもので腹を満たしたい

ほとんどの人が思う単純な思考が巡った

部屋には石油ストーブがあった
上にやかんを乗せれるタイプのものである。

炉に火をくべ、食べ物を探しに凍てつく階段を降りる

調理場の灯りをつけ食材を探した

絶望した

否、予想外の出来事という訳ではないのでそこまでの落胆の表現は相応しからぬだろう

あえていうなら落胆の欠片とでも言うべきか

見つかった食材は玉葱半欠片

....

愚直に素材の味を楽しもうとするばかりに
目覚めの空きっ腹にオニオンスライスをぶち込もうなどとは考えなかった

つまりは、諦めには及ばなかった

昔手に入れたコンソメがどこかにあるはず
それをもってすれば冷えた身体を暖めるオニオンスープが作れる

方々を探す、上段の棚、調味料庫、冷蔵庫

調味料庫の奥から目的の調味料を発見した
冷蔵庫の戸にポケットに白い球体が四つ

ニワトリの卵だ

賞味期限は1週間ほど過ぎていて放置されていたものだが、
加熱すれば問題なかろう

冷蔵庫のポケットからチーズも見つけることができた

集まった食材は
タマネギ、卵、コンソメ、チーズ、落胆の欠片、バター、オリーブオイル

くそ、ソーセージかベーコンが欲しい所だ

米もあるじゃあないか

口笛を吹きながらそのメロディと同調するかのように米を研ぐ

炊飯器にセットし「早炊き」ボタンでセット

タマネギを慣れた手付きで細かく切り、
熱した鍋にバターを敷き飴色になるまで炒める

もうこの香りだけでイキそうだ、、

炒めた鍋に湯を足し沸騰したら
コンソメを入れ弱火でコトコト煮込む

その間にもう一品

卵が4つ、全部つかっちまおう

器で卵をとくか、
いや面倒だ、

フライパンを中火で熱し
素早く卵を割り入れ
パンの上で軽く混ぜる

すぐに火を止め予熱で
半熟スクランブルにしていく
、、おっと賞味期限切れてんだった
半熟はやめだ、
しっかり火を通した

煮てるスープもひとまずいいだろう
深めの椀に注ぎ、チーズを乗せる

チーズのせオニオンスープ
卵焼き
そして炊き上がった白米

いただくとしよう

まずは卵焼きに醤油をかけ白米と頬張った

エッグファンタジーランド...

なんだこのバカみてえな造語、、
頭に浮かんできちまったもんは仕方ない
他人に知られればおかしい奴と判断されかねないが...

そしてスープ

これは...

男は口にした途端、脳内に巡った
1+1+1=3
玉葱1、コンソメ1、チーズ1
否、これは3などではないと悟った

10以上のものを感じた

料理は科学

このような事を聞いたことがある

加熱や具材の溶込みにより単なる+ではなく×や÷などの複雑な数式となっているのか

ただそこで男は思った

3を10にする

「美味しさ」という単位があるならば
工夫、加熱方、調味加減次第では科学的にもそれは可能であろうか

とある学術にも精通しているのではないかと考える

半ば都市伝説でいわれる錬金術である

絵空事、空想、無関係と切り捨てるにはいささか早計である

身近な「調理」という行いを通してその学術への末端に触れているとしたら...

そのような、おおよそひとくくりに言ってしまえば哲学的な事を考えながら
出来上がった料理を残らずいただいた

冬の最中の明け方に

ああ、うまかった
もう一眠りしよう