ティータイム~閑話休題〈火曜倶楽部 編〉
翻案にあたってのこぼれ話を閑話休題として記したいと思います。
*固有名詞の翻案
・地名
三井戸村
原作ではセント・メアリ・ミード村。正式な地名は神奈川県泉都郡目有市三井戸村。
「パディントン発4時50分」をやるなら、首都からそこそこの距離がある場所でないと…と思い、鎌倉あたりが良いかな、という安易な気持ちで神奈川の山の方にある村として設定しました。
適当に設定した後Wikipedia見ましたら、ロンドンから約40kmの位置にあると書いてあり、ホッとしました(笑)
・登場人物
財前真古:ジェーン・マープル
西門禮介:レイモンド・ウェスト
栗崎輪太郎:ヘンリー・クリザリング
遍檀和尚:ペンダー牧師
蘭部璃恵:ジョイス・ランプリエール
辺沢陸生:ペザリック弁護士
定塚或人:アルバート・ジョーンズ
定塚苑子:ジョーンズ夫人
定塚実里:ミリー・クラーク
倉出リン:グラディス・リンチ
原作のジョーンズ夫人には名前がなく、アルバートを直して或人「ある人」になったのでそこから「その子」ということで「苑子」になりました。
原作では裕福な女性の話し相手をするコンパニオンであるミリー・クラークは日本ではちょっと馴染みがない職業なので、伯母ということにして、苗字は定塚に。必然的に或人は入り婿になり、財産を狙うというキャラクター性の補完にもつながったように思います。
ミリーが「クラーク」でなくなったので、「グラディス」を「倉出」にしやすくなったという利点もありました。
原作に登場しない小坪医師と今泉夫人ですが、二人とも鎌倉や逗子の地名から取っています。
・原作との相違
・ごま塩
トリック解明の肝になる「ごま塩」ですが、原作では「ハンドレッド・アンド・サウザンズ」という言葉になっています。これはトライフル(デザート菓子)などに振りかけるあられ砂糖のこと。「いずれ妻が死んだら何十何百万(ハンドレッド・アンド・サウザンズ)という…」という文脈で使われました。
トライフルもハンドレッド・アンド・サウザンズも日本では全く馴染みのないものだし、日本語にもなりえないのでどう翻案したものかと悩みましたが、「ごま塩」と「ごまかしを」というひらめきによって、一気に翻案できるという可能性が高まりました。
しかしこれには新たなハードルが待ち構えていたのです。
・今泉夫人
小坪医師とは違って、原作には今泉夫人に相当する人物はおらず、ジョーンズ家のメイドはグラディス一人ということになっています。何故今泉夫人を登場させるに至ったかというと、前述の「ごま塩」の問題がありました。
原作では犯人であるアルバートが出張先の宿屋で書いた手紙のインクを吸い取った紙から前述の文言が流出するのですが、「ごま塩」と「ごまかしを」では見間違いようがないため、聞き間違いに変更する必要性がありました。
その為、電話での会話に変更し、またそれを聞き違う役が必要になり、年かさの女中である今泉夫人が誕生したというわけです。
・定塚実里の病気
作中では散々な言われようの定塚実里ですが、高血圧症を患っているとしています。
原作のミリークラークは肥満症のため「バンティング療法(肥満症解消のための食事療法)」をやっており、前述のあられ砂糖を食べずに済んだことになっていました。
しかし翻案では凶器がごま塩になった為、高血圧症に変更しました。塩分と血圧の関係についてですが、明治37年にはフランスで無塩米飯食による多数の患者の降圧に成功しているそうです。
・葛湯
自分が参考にしている訳書は二つあり、『早川書房 クリスティ文庫』版の『火曜クラブ(中村妙子訳)』と『東京創元社 創元推理文庫』の『ミス・マープルと13の謎(深町眞理子訳)』の二冊。原作ではどうやらcorn-flourとなっているみたいです。『火曜クラブ』では「コーンスターチ」『13の謎』では「葛湯」となっていて、より原作らしいのは前者なのですが、分かりにくいし、より日本らしいので「葛湯」を採用させていただきました。あまりにそのままなので「重湯」でもよかったかしら、と思っています。
・その他の翻案
・唐崎さん・襟本商店
サバ缶を紛失した唐崎さんは原作ではカラザ―ズさん。
襟本商店はエリオットの店でした。原作では小エビを買ってるんですが、なぜサバ缶にしたんだっけ…?
・羽栗さん
絶倫ジジイこと羽栗さん。自宅の「大山荘』は原作では「マウント荘」
羽栗さん自身はハーグレイヴズさんという立派な名前でした
・次回作
続くかどうかわからない本シリーズですが、もし続くとしたら次回作『阿修羅の祠』でお会いしましょう。ありがとうございました!
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