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マンガAI翻訳を提供する3社の違いを探る

主に自分の頭の整理を目的として、自分がリサーチしたものをNoteにまとめてみる。

ここ数年、IPの海外展開ビジネスが日本の産業の新たな柱として注目を集めている。

その中の本丸セグメントの一つ、マンガAI翻訳事業には現在大きく3つのプレイヤーが存在している。


1. オレンジ
5月にプレシリーズAながら29億を調達し、その額の大きさから話題に。

2. Mantra
オレンジの後を追う形で6月に7.8億を調達。

3. サイバーエージェント
6月に自社開発AIを用いた翻訳を含め、ローカライズを支援する部署の設立を発表


この3社には一体どのような違いがあるのだろうか。

1. オレンジ

正確にいうと、彼らはAI翻訳ツール単体では提供していない。
AI翻訳をあくまで効率化のためのツールの一つとして位置付け、プロの翻訳家や写植家を含めた自社チームを組成し、最終的には人の手で翻訳を行うとしている。

加えてこの会社を大きく特徴づけるのは、翻訳サービスのほか、電子マンガストア「emaqi」を展開していることだ。


資金調達の際に発表した漫画「がんばれオレンジくん」で説明されているが、漫画の翻訳は翻訳それ自体の作業工程の重さだけでなく、『時間とお金に加えて権利先の問題や配信先のアプリの問題』という様々な課題の絡み合いから進んでいないのが実情である。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000125868.html より抜粋

そこに対し、ならば自社でプラットフォームを設立し、そこに自社で翻訳した作品を流そう、というのが彼らのとっているアプローチだ。
それに伴い同社は、少年画報社、双葉社、秋田書店から翻訳、出版、配信の権利を、そして講談社から配信権を獲得し、彼らが持つ過去翻訳作品を含めてストアで配信している。
また、同時に集英社との提携を発表し、少年ジャンプ+の読み切り作品の日米同時配信の開始、そしてジャンプ+に加えてemaqi上でも配信を行うことを発表した。
彼ら(が目指す立ち位置)は、北米でのデジタル漫画プラットフォーマーで、翻訳はあくまでそのサービスのうちの一つという位置付けだろう。

あと、なぜかオレンジは自社が行った翻訳作品がどれかということを一切発表しない。上記の読み切りの翻訳についても、集英社との当該ニュースの共同リリースを行うに留まり、それらの翻訳をオレンジ社が行っているかどうかについては明確にはしていない。 emaqi上の作品も、大半が過去翻訳作品の流用でありつつ、いくつかはオレンジ側が翻訳しているような感じがするが、明確にはしていない。発表しないのはなぜだろう。(Mantraはそういうのをしっかり広報している)私たちは翻訳ツール提供会社ではなく、プラットフォーマーですというのを押し出していくためだろうか。

また、彼らの別のリリースでは、個人事業主に向けた翻訳アプリをリリースしたような表現が見られるが、そのようなサービスは現時点では確認できなかった(見落としてるだけならすいません)。


2. Mantra

MantraはAIによる自動翻訳ツールを出版社向けに販売している。
前述のオレンジと異なり、翻訳だけを手助けするよ、というスタンスである。特に配信などは行っていない様子。

オレンジが北米での代理出版会社に近いのにし、こちらは翻訳作業の効率化ツールを販売するSaaS企業、といった感じだろう。

また、彼らは翻訳ツールの他にも、マンガ×英語学習サービス「Langaku」を展開している。

世界初の「マンガで英文多読学習」を実現するサービスです。学習者のレベルに合わせた教材の難易度調整やセリフの音声化など、機械学習に基づく様々な学習支援機能を搭載しています。

https://mntr.notion.site/Mantra-c026b1347d3f4990b8474d25841eecab


どれを自社で翻訳しているのか明らかにしないオレンジと異なり、Mantraはツールの営業資料まで公開している。かなり出来上がってるように見えるので、オレンジがTwitter漫画家などの小規模事業者向けにツール出す前にMantraが先に出しちゃえばいいのにと思う。Twitter漫画家に対する漫画翻訳ツールの需要はかなり強くありそうに思う。
資料を拝見したが今のところ個人に対する販売は想定されていなかった。ライト版で月20万とかだった。

3. サイバーエージェント

彼らは翻訳だけでなく、翻訳を含めた漫画の「ローカライズ」をサポートしている。

(翻訳に加えて)さらに、各国の文章読み順への最適化や縦読みフォーマットへの変更および、最適なオンラインプラットフォームでの販売方法の検討など、販売チャネルの多様化に伴う関係各所との権利調整やプロモーション企画など、海外特有のデジタルマーケティング戦略の策定と実行が必要となってきます。

https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=30397

前半部分は写植の代行というところで、オレンジと似ているだろう。
オレンジの違うのは自社プラットフォームではなく他社プラットフォームと繋げるところや、プロモーションまで担当するということで、翻訳業務から入ってその先の自身の本丸である代理店業務に繋げていくというイメージだろう。

まとめ

ぱっと見類似製品を提供してそうな3社だったが、調べてみるとかなり大きく違うことがわかった。
ざっくりまとめると以下のようになるだろう。

オレンジ:北米でのデジタル漫画プラットフォーマー
Mantra: AI翻訳ツール提供のSaaS+言語教育アプリ
サイバーエージェント:北米展開の代理店

次は北米におけるデジタル漫画プラットフォーム市場について調べてみたい。北米マンガ産業の中でも一番パイが大きそうなプラットフォーム市場だが、オレンジがどんな立ち位置で、他の日本企業はどこが参入していて、どこが今いい感じなのか、気になるところである。めちゃコミを運営するインフォコムがブラックストーンに買収され、同市場の競争の激化が予想される中、オレンジはどう立ち向かうのだろうか。


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