セフレに好きだと言った女
セフレに好きだと言った。言ってしまった。
「男はセフレを決して好きにならない」だとか
そういうセオリーはわかっている。
それなのに、セフレに好きだと言ったのだ
今の心境は、泣きたいのに涙が出てこない。
なぜだか凪いで満ち足りた気持ちでいる。
noteでは私と彼が切れてしまうまでを綴っていきたいと思う。いわば終わりに向かって進む物語だ。(もちろん現在進行系で)文学賞に応募している身でもあるので習作を兼ねて複雑たる想いを文字に落とせれば幸いだ。
セフレとまとめているが、私達の関係は「友達」である。セックスしかしていなかったわけでもないし、合意もなかった、お酒の場で出会ったわけでもない。
彼と出会ったのは今から十年近く前になる。
まだ私も彼も大学生だった。
当時の私には共通の知り合いの恋人が別にいて
彼に対しては親しみ以外なんの感情も抱いていなかった。
インスタグラムを見て、ペットの犬をかわいいなと思ったり、修造カレンダーをお互い持っていてコメントしたりしていた程度だ。
私達の仲が私から相手への片思い、
そして「セフレたるもの」に変容したのは
私が転職活動をしていた時期になる。
外資系の客室乗務員になりたかったのだが
合格したにも関わらずメディカル検査(平衡感覚など)で不合格となった。第二新卒の私はメンタルがやられていた。大量のアルコールを飲まされて気づいた時には、察してほしい。相手は相手でコロナ前の世の中、クラブに行き放題、遊び放題だ。
とはいえ、ここで一つ言わせてほしい。
彼は優しい男だ(根は)
見た目は私の目には光って見えるけれど多分普通より少し上くらい。だけど、なかなかモテると思う。話も面白くて、社交的で、友達も多い。
きゃりーぱみゅぱみゅが雑誌HRで読者モデルをしていて、まだゴンゴンと交際していた高校時代に、この子は売れると宣言し、
金爆(ゴールデンボンバー)がマイナーだった時代に彼らは絶対に売れると宣言し、毎度当ててきた大いなる自信の持ち主である私は、はじめて彼と二人で会った日にカフェで話して思った。
(それまでは深く話したことがなかった)
「この男は大きくなる可能性がある」
瞬間、好きになった。
詳しくは語らないが彼の苦労と努力に惹かれたのも事実だ。数年後、爆発的にヒットする梨泰院クラス風に言うならば「彼の人生を甘くしてあげたい」そう思ったのだ。
이 남자의 삶을 달달하게 해주고 싶다.
나의 이 마음은 인간이 할 수 있는 가장 바보같은 짓거리……
この男の人生を甘くしてあげたい、私のこの気持ちは人間が持ちうる最もバカみたいなもの。
(梨泰院クラス 第四話)
確かに、私の今の気持ちはバカみたいなものだ。
誰かを幸せにしたい?
決して感じたことのない想いに戸惑った。
このセフレだと言っている女は絶対に可愛くないだろうと皆様はお思いだろうが、
実のところ私は結構カワイイ。
クラスで上から三番目には入る容姿でちょっとしたモデルもしていた。正直、すごくモテる。モテすぎて面倒なくらいにはモテる。
似ている芸能人でよく言われるのは、堀北真希だ。好きな人に好かれなくて、好きじゃない人にモテるなんて涙が出る。
告白なら今月だけでも三回はされた。
そういうわけで、セフレに好きだと言うまで、
自分から異性に好きだなんて人生で一度も言ったことがなかった。
彼以外、私の人生にセフレたるものはおらず
最初で最後の曖昧な男になるだろう。
ワンナイトの経験もない私の人生で
イレギュラー中のイレギュラーだ。
私にとって、告白とは男がするものだった。
愛とは与えられてしかるべきもので、
異性は私に尽くして当然だと傲慢に思っていて、
それがいかに愚かであるかにも同時に気づき、
忸怩たる思いが溢れている。
モテモテな女が思い通りにならない男に出会って
なんだか惹かれちゃっただけなんじゃないの?
そんなのわからない。どうしても好きなのだ。
私は女として特筆すべき想いを持たれていないことに気づいていて、それが原因で何度も縁を切ろうとしてきた。私が彼のLINEを非表示にし、耐えた回数は天文学的だと言える。
実際、先日再会するまでは数年間、会っていなかった。お互いに物理的な距離や事情があったということもある。
その間、私たちは違う人と交際をしたり、
しなかったりしていた。
計算するならばごくありえないほどの、たぐいまれなる確率で本気で好きだった「セフレたるもの」と再会を果たした。
これは腐れ縁なのか運命なのか。前者だろう。少女らしい期待をするほど若くはない。
過去の自分であればプライドの高さから「負け戦」には決して手を出さなかった。素直に他人に手持ちを見せるなどありえないことだ。
今回、手札をさっぱり放棄するに至った気持ちとしては相手にまっすぐに向き合いたかったからだ。ダメならそれで仕方ない。男女の愛だ恋だが、努力でどうにかならないことは知っている。
だったら、向き合っていくしかない。
それが馬鹿でもそうすべきだ。
「一緒に勉強したり、趣味をしたり、そうやって私を見てほしい」
「まだ私の価値を君は知らない」
「それで気が合わなかったらそれでいいし、万が一に好きになることがあれば付き合えたらいい」
「少なくとも、君が好きで、気持ちを表明したかっただけだ」そんな趣旨だ。
失恋ではないか。馬鹿なのか自分は。
不思議と悲しくはなかった。
NOと言われたわけでも
YESと言われたわけでもない
私達は根本的に友達だからそれを言ったところで
「この女、重いな」「もう関わらないでおこう」とはならない。
予想していた通りの返事だった。結構、突き刺さる言葉だったから率直に話したのだろう。
巷の「恋愛評論家」からしたら
遊び人に手の上で転がされていると言われてしまうはずだ。それでも私からしたらこれでいい。
私も彼も、何一つ嘘をついていないから。
これから私達はどうなっていくのだろうか?
都合の良いセックス要員として
彼が誰かを好きになるまで酩酊させられるのか
それとも私が別の誰かを好きになるのか
はたまたこれっきり音信不通になるのか
恋愛をセオリー通りに
駆け引きする必要なんてないと思う。
セフレを沼に入れるために連絡を取るだの取らないだとか世の中では言うらしいけれど、
そこまで私は焦っていない。
不安になったり、虚しくなったり
会いたくても言えなかったり、
はたまた嬉しかったりする。
泥くさくてみっともない感情の動きにこそ
恋愛の恋愛たる醍醐味を感じる。
私はこうして大好きな人とさよならをはじめた。
こんな夜は泣きたいのに
どうしても涙が出てこない。
振り返ったとき、私はなんと言うだろう。良い恋だったと笑うのか、サイテー男と叫ぶのか。
友達は、セフレとは好きだと言ってはいけない関係だと言った。暗黙のルールなんて知らない。
人が人を好きになる気持ちは抑えられないし、
好きにもなってもらえないのだ。
冷めたミネラルウォーターだけが彼との時間の存在証明でとてつもなく胸を刺す。
港区女子よ、強くなれ。