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心の所在

自分の心の在り処が分からなくなって、
どれくらい経っただろう。

まだまだ大人になれない私が、
社会に飛び込み慌ただしく日々を送るうちに、
心と視野がどんどん狭まっていくのを感じた。
呼吸が詰まり、身動きが取れなくなる。
もう駄目かもしれないと叫んでも
変わらず日々は続いていく。
常に先の事を考えないといけなくて、
進み続けるしかなくて、
生き急ぐ私は、"私"を追い出した。

生きていくにはいろいろを抱え過ぎていた。
私はただこの身一つで生きていたいだけだった。
"私"と今を生きていたいだけだった。

気付けば居なくなっていた"私"に
何処に行ったの、早く帰ってきて、と
呼び掛けても返事は無い。

夜の片隅。
疲れ果て、塞ぎ込んだ心で
誰にも知られる事無く、声もあげずに絶望する。

思考が靄がかり、生きた心地がしない。
そんな状態で言葉を遺す気にもなれなかった。
いや、それすら出来なかった。

夢を見た。
幼き日の"私"が、夢と現実の狭間で生きている。
等身大で、何のしがらみも無くて、
無垢で素敵な女の子のはずだった。
あの子はいったい
何処に行ってしまったんだろう。

膝を抱えて俯く今の自分とは
似ても似つかないあの子が恋しい。
恐れなど知らず、
ただ目一杯に生きるあの子が羨ましい。
お願い、早く此処に戻ってきて。
でないと私が"私"ではなくなってしまうから。

驚いた。"私"が数ヶ月振りに帰ってきた。
それは突然だった。
気怠い身体、ぼんやりしている頭。
それでも今は、"私"の声が聞こえる。
「やっと帰ってきたのね」と下手くそに笑う私に、「ただいま」と返事する"私"。

お願い。
どうかもう、居なくなんてならないで。

私はただ、心の言葉と静寂を聴いて、
"私"と今を生きていたいだけなのだ。

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